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窓際の君  作者: 気衒い
もう一つの世界線〜IF〜

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第十七話:ひな祭り

「まさか、再びここに来ようとは………………」


現在、俺は優梨奈の祖父の家を約半年振りに訪れていた。理由としては優梨奈の両親に誘われたからである。というのも毎年、葉月家は3月3日のひな祭りに合わせて、大々的なお祭りをするらしい。彼ら主催のその祭りでは出店はもちろんのこと、神輿や太鼓叩き、地元独特の踊りなどがなされ、多くの地元民が駆け付ける、一年の中で最も活気が溢れるといっても過言ではない日らしい。そして、特に今年は大注目の年だそうだ。


「拓也くんも満更じゃない癖に」


「そ、そんな訳ないじゃないですか」


優梨奈のお母さんにそう言われ、思わずたじろぐ俺。そう。今年のひな祭りが大注目の理由と俺が満更でないと勘違いされた理由……………それは奇しくも同じものだったのだ。


「まさか、うちの優梨奈が選ばれるとはね」


「本当よ……………月日が経つのは早いもんだわ」


毎年、葉月家主催の祭りでは神楽を舞う姫……………通称、"神姫(かみひめ)"が一人選出され、その者は祭りの最後にて舞を披露することとなっている。この神姫の腕によって、その年の祭りがどういうものであったかが決まり、どれだけ祭りの内容が良くても舞のレベルがお粗末であれば、全てが台無しとなってしまうのだ。逆に言えば、いかに祭りの内容が悪くても舞さえ良ければ、どうとでもなってしまうのである。つまり、舞は祭りの最後を締めくくるものとして、ふさわしいものであればあるほどいいのだ。


「拓也くんも優梨奈の神姫姿、楽しみでしょう?」


優梨奈の両親が俺をここに呼んだのもそういった理由からだった。なんと、今年の神姫に選ばれたのが優梨奈だったのだ。しかし、彼女は一切そのことを俺に言わなかった。おそらく、自分の神姫姿を俺に見られるのが恥ずかしいのだろう。だが!俺は何としてでも見たい!彼女のそんな晴れ姿をみすみす見逃す者がいるだろうか?いや、いない!ということで気を利かせた優梨奈の両親が優梨奈に内緒で俺をここに呼んでくれたという訳である。


「くっ………………まさか、こんな小僧に優梨奈の神姫姿を見られることになろうとは」


あれれ〜?お父さんはこっちの味方じゃないのかな〜?この調子じゃ、"いや、既におたくの娘さんとお付き合いさせて頂いているんで"とか抜かした日にはどうなっちまうんだ、俺………………ってか、娘大事にしすぎだろ!!いい加減、子離れしろよ!!


「ん?何かね、如月拓也くん?」


「い、いえ…………」


俺から何かを感じ取ったのか、満面の笑みで問いかけてくる優梨奈の父。いや、フルネームで呼んでる時点で色々と察しますよ!!






            ★





「ふぅ〜……………緊張するなぁ」


私は自分の衣装を見下ろしながら、気合いを入れ直した。現在、神姫専用の十二単のような衣装を着込んでおり、これを着たまま神楽を舞うこと自体、非常に大変なことなのだが、それは約一ヶ月に及ぶ特訓により、なんとか克服していた。問題は大勢の前で神楽を絶対に成功させなければならないということにあった。ただでさえ、人前で何かしたことなんてないのによりにもよって、神姫に選ばれてしまうとは………………でも、不幸中の幸いで拓也先輩にはこのことを言っていない為、神姫姿を見られることはない。それにもしも仮に舞を失敗してしまってもそれすらバレることがないだろう。


「よし!ポジティブに考えて臨もう!」








……………って思ってたのに!何で拓也先輩がここにいるの!?


「……………」


私は神楽の途中でふと熱烈な視線を感じ、群衆の中へと目を向けてみた。すると、そこには声こそ出していないものの、こちらへ無言の声援を送る拓也先輩の姿があった……………いや、声は出してないけど口は動いてるな。え〜っと、なになに……………頑・張・れ?やかましいわ!!あなたのせいで調子狂いそうなんですけど!!


「全く……………」


悪態をつきながらも私は自分の顔に自然と笑みが浮かんでいることに気が付いていた。確かにこんな姿は見られたくなかったし、失敗した姿なんてもってのほかだ……………しかし、本当にそうなのだろうか?本当は綺麗に着飾った私を見て、何か思って欲しかったんじゃないのか?現に私は今、ちょっと喜んでいる。拓也先輩のあの表情から察するに今の私の姿に対して、彼はおそらく好意的な感情を抱いてくれているはず。それが分かって私は嬉しいと感じているのではないか?


「人の感情とはままならないものね……………」


そこからの私の動きは特訓の時とは比にならない程、洗練されたものになっていった。聞いたことがある。恋はありとあらゆる物事に影響を及ぼすと…………恋をすると人は変わると。それは良い意味でも悪い意味でもだ。こと私に限って、それはプラスの方面に働いた。好きな人にカッコ悪いところは見せられない。絶対に成功させて、あわよくば、めちゃくちゃ褒めてもらおうと………………後から聞いた話によると、その日の神楽は歴代でも一番の出来だったらしい。


「優梨奈、お疲れ様!めちゃくちゃ綺麗だった!あと、カッコ良かった!あと、舞いも上手くてミスなんてなかったと思うし、あとはとにかく凄くて!!」


「た、拓也先輩。ちょっと落ち着いて下さいよ。ボキャブラリーが馬鹿になってます」


「俺、こんな彼女がいて幸せだわ!優梨奈、本当に今日はありがとう!!」


「も、もう!私は呼んでませんよ!仕方がない人ですね」


でへへ。拓也先輩、喜んでくれたし、めちゃくちゃ褒めてくれた。はぁ〜今日はとてもいい日だ〜。その後、いい気分に浸りながら帰った私はお風呂に入って、めちゃくちゃ寝た。






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