第十六話:2月14日
今日は学園中が落ち着きなく、どこか浮き足立っていた。それもそのはず。今日は2月14日。俗に言うバレンタインデーだからだ。
「つ、遂に来たな」
「あ、ああ。とうとうこの日が」
「べ、別にどうってことない平日だけど?ひ、久しぶりに下駄箱の掃除でもするかな〜」
と、こんな感じでソワソワとする生徒達が多く、それは一日中続いた。その為、教室・学食・グラウンド…………………どこへ行ってもみんな、その話題で持ちきりで授業や昼食の度に落ち着かない気持ちにさせられたものだ。
「全く……………こっちにとっちゃ、ただの平日だってのに」
「ふふふ。とても彼女持ちの人が言う台詞には思えませんね」
現在はそんな騒がしい学園での授業も終わり、愛しい彼女との下校を楽しんでいるところだった。
「クラスの奴らにも言われたよ。"お前、そんな余裕そうなのって、まさか彼女がいるからとかじゃ……………"って。いちゃ悪いのかよ!こんなとびきり可愛くて優しくて俺なんかにはもったいない彼女がいるのがそんなに悪いことなのかよ!」
「ち、ちょっと!声が大きいですよ……………それに恥ずかしいです」
「あ、ごめん。つい本音が」
「っ!?も、もう!何言ってるんですか!!」
そう言って顔を赤らめる優梨奈。ちょっと!こんなの可愛いすぎるでしょ!俺の彼女は世界一……………いや、宇宙一だな!!
「それにな………………別に彼女がいるからとかじゃないんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。元々、こういったイベント事にはあまり関心がないんだ。もちろん、そんな状態でも何か貰ったら嬉しいだろうし、別にそれで喜んでいる人達を否定するつもりもない」
「………………」
「でもな、あまり分からないんだよ。誰かを好きになるってことが………………そもそも俺自身が今まで誰かを好きになったことがなくてな」
「拓也先輩……………」
「だけど、それもこの学園に入って変わった。初めて同じクラスになった睦月圭太……………こいつは生涯の友で俺は今まで何度あいつに救われたか分からない。長月華恋……………俺が生まれて初めて憧れた人物だ。彼女の存在があったから、俺は何度も頑張れた。神無月広輔……………最初はいけ好かない奴だったが、話してみるととてもいい奴で人気な理由が分かった。皐月桃香………………初見で一番騙されたのがこいつだ。こりゃ、大人になったらもっと手に負えなくなりそうだな。まぁ、とても仲間想いでノリのいい奴なのは確かだが。そして、霜月クレア………………初めてだった。俺があそこまで興味を引かれる人物は。思えば、彼女と出会ったことで全てが動き出した………………そんな気がするほど、クレアとの出会いは大きかった」
「…………………」
「最後に………………葉月優梨奈。中でもこの子は俺にとって最もかけがえない人になった。一緒にいると心の底から幸せを感じ、毎日がとても輝いて見えるんだ。手を握れば、彼女の感情もその温もりと共に伝わってくる。絶対にその手を離したくない、これから先も一緒に歩いていきたい………………そう思う人だ」
「拓也先輩………………」
「ははっ。せっかくのバレンタインにちょっとしんみりしちゃったか」
「…………いいえ。拓也先輩の気持ちが痛い程伝わってきて……………私、今とても幸せです」
「優梨奈……………」
「だから、どうか……………これを受け取って下さい」
そう言って優梨奈が差し出してきたのはピンク色のハートの形をした箱だった。
「ありがとう。凄く嬉しいよ……………開けても?」
「ええ。お口に合うかは分かりませんが」
断りを入れてから箱を開き、中からハート型のチョコを取り出して、口に運ぶ。すると、口に入れた瞬間、心地良い甘さが身体中を駆け巡った。
「どうですか?」
「とても甘くて美味しいよ。優梨奈がどんな想いでつくってくれたのか痛い程伝わってきた」
「えへへ。良かったです」
「優梨奈……………改めてだけど」
俺はそこで深呼吸するとゆっくり、こう言った。
「これからもよろしくな」
それに対して優梨奈は満面の笑みでこう答えた。
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!!」




