第十五話:温もり
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
俺と優梨奈が互いに新年の挨拶を交わす。大晦日から一緒にいた俺達は現在、神社の参拝客の列に並んでいた。その後、参拝を済ませた俺達は甘酒を頂き、おみくじを引いてその場を後にした。ちなみに運勢は……………まぁ、その、色々と察してくれ。俺の方はそんな感じだったのだが、優梨奈の方も何やら難しい顔をして黙り込んでいたのが途中からは少しずつ笑顔になっていった。
「どんなことが書かれていたんだ?」
「え〜っと………………"今の貴方の努力はいずれ実を結ぶでしょう"って」
「おいおい。それって…………」
「はい。そうだといいんですけど」
と、俺達が顔を突き合わせてそんなことを話していると突然、声を掛けられた。
「あけましておめでとう。如月くん達も来ていたのね」
「あっ、師走先生!あけましておめでとうございます!」
「あけましておめでとうございます」
「あら。あなたは初めましてだったわね、葉月優梨奈さん」
「そうですね。初めまして、師走柚葉先生。葉月優梨奈と申します」
「こちらこそ、初めまして……………あらあら。こんな可愛い彼女がいるなんて、如月くんも隅に置けないわね」
「「っ!?」」
「あらあら。二人とも、顔を真っ赤にしちゃって……………いいわね、青春って」
「あの、その、まだ付き合ってるとか言ってないんですけど」
「そんなの二人の様子を見てれば分かるわよ。女の子はね、別に好きでもない相手とそこまで距離を近くしないものよ」
「「っ!?」」
師走先生の指摘によって、慌てて離れる俺達。それを見た師走先生は軽く微笑んでこう言った。
「別に冷やかしたり、からかったりしている訳じゃなくて純粋に嬉しいのよ……………如月くんが幸せそうにしていると」
「そうなんですか?」
「ええ。やっと光を見つけたんだなって」
「?」
「ううん。こっちの話……………それにうちの学園は男女交際についてうるさくないから安心しなさいな」
「「………………」」
「じゃあね。私はもう行くわ………………冬休みが終わったら、また会いましょう」
そう言って、先生は去っていった。後に残された俺達はというとただただ黙って先生の背を見送った。そして、その後はゆっくりと二人で歩きながら帰ったのだった。
★
「あ〜身体が熱くてだるいなぁ…………」
冬休みも明けて、通常授業が始まってから数週間が経った頃。私は例の薬の副作用によって、再び熱を出してしまっていた。
「今頃、先輩達は修学旅行かぁ……………」
そう。今日は拓也先輩達、二年生が修学旅行へと赴く日だった。今日になるまで二年生の皆さんはどこか浮き足だっているような感じでソワソワとした日々を過ごしており、それは下級生である私達にも当然のように伝わってきていた。
「拓也先輩、楽しんでるかなぁ……………いいなぁ。もし、私が先輩と同じ学年だったら一緒に過ごせたのに……………寂しいよぉ」
いけない。私はいつから、こんな弱音を吐くようになってしまったのか。こんな状態の私を見たら、拓也先輩はきっと愛想を尽かして、どこかへ行ってしまうだろう。
「そんなの絶対に嫌だよ………………拓也先輩にいなくなられたら、私…………」
「ん?俺はどこにも行かないぞ?」
「……………へ?」
と、私がそんな弱音を吐いていると横から、とても耳馴染みのある声が聞こえてきた。それは私がこの世で最も好きな声であり、なんなら今一番欲していたものでもあった……………でも、冷静に考えてあり得ない。絶対にそんなはずはないのだ。だって、拓也先輩は今、こんなところにいるはずが……………
「お〜い」
「って、やっぱり聞き間違いじゃなかった!?」
恐る恐る横を向くとそこには心配そうにこちらを見つめる拓也先輩の姿があった。
「な、何で拓也先輩がここにいるんですか!?」
「優梨奈のお母さんに部屋に通してもらったから」
「そ、そういうことじゃなくて!!だって、先輩は今日…………」
「ああ。アレね」
そう言って、少し遠い目をする拓也先輩。その直後、拓也先輩はとんでもないことを口にしたのだった。
「行くのやめたんだよ。もちろん、ちゃんと先生には許可もらってるぞ。あれ?そういえば、これって欠席扱いになるのかな」
「い、行くのをやめた!?何やってるんですか!!修学旅行っていえば、学生生活で最も大事だと言われるイベントじゃないですか!!まさに青春の1ページですよ!!今からでも遅くないんで戻って下さい!!」
「俺にとっては優梨奈の方が大事だ」
「っ!?」
拓也先輩は至って真剣な表情でそうはっきりと告げた。私はといえば、先輩の言葉にさらに熱が上がりそうだった。
「優梨奈が熱を出しているっていうのに修学旅行なんて行っていられる訳ないだろ。じゃあ、逆の立場だったとしてお前は何の憂いもなく、行けるのか?」
「そ、それは……………」
行けない……………きっと行けないと思う。私はこの時、拓也先輩の言葉で気付かされた。私は全く相手の立場に立ててなかったのだ。また私だけがこんな気持ちを抱えている訳ではないこと、拓也先輩も不安でしょうがないであろうことも知った。
「とにかくさ、安心しろよ……………俺はどこにも行かないから」
そう言って手を握ってくれた拓也先輩。その温もりを感じながら、私は眠りに落ちていくのだった。




