第十四話:クリスマス
「へ?拓也先輩、クリスマスパーティーに参加しないんですか?」
「ああ」
ある日、優梨奈との会話の流れで俺はそう答えた。
「え〜楽しそうなのに……………もったいないですよ」
「まぁ、確かに二年生だけの特別なイベントでそれ目当てに入学する奴もいるくらいだしな」
「はい。私も気になってましたもん」
「でも、まぁ自由参加だしなぁ……………それになんか気が乗らないんだよ」
「へ〜……………何ででしょうかね」
「それはな…………そこにお前がいないからだよ」
「……………へ?」
「優梨奈、一つ頼みがある」
「た、拓也先輩?」
「もしよければクリスマス………………俺と一緒に過ごしてくれないか?」
★
12月24日、午前10時。俺と優梨奈はとある場所へと向かっていた。
「楽しみですね〜」
「ああ……………でも、いいのか?もう少し特別な場所じゃなくて?例えば、遊園地とか水族館とか」
「拓也先輩………………今から向かう場所も私にとっては特別な場所なんですよ?」
「えっ…………」
「なんせ私と拓也先輩が初めて二人きりで出かけた場所なんですから」
そう。俺と優梨奈が向かっていた場所……………それはあのショッピングモールだった。
「おっ、もうこんな時間か」
ショッピングモールのありとあらゆる箇所を回った俺達が外へと出るとすっかりと日は落ち、暗がりにクリスマスツリーの綺麗なイルミネーションが浮かび上がっていた。
「ですね………………にしても綺麗ですね、クリスマスツリー」
「ああ。クリスマスパーティーでは見られなかったけど、こうして優梨奈と見れたのは良かったな」
「しかもこの場所で」
そこはショッピングモールの敷地内だった。だからか。今も買い物終わりの家族連れが通り過ぎ、子供がはしゃいでツリーに触ろうとするのを親が諌めていた。
「この後はどうする?」
「私、まだ拓也先輩とお別れしたくないです………………今日と明日は先輩の為に空けてありますから」
「っ!?そ、そうか………………じゃあ」
俺は優梨奈の頬を赤らめたその表情がいつもと違い、非常に大人っぽい色気を放っていて思わず、顔を背けた。そして、少し間を空けて顔を冷やしてから、こう言った。
「また思い出の場所へ向かうか?」
「懐かしいです、ここ」
「つい半年ぐらい前のことなのにな」
そうして俺達が向かったのは箱根だった。現在は以前の小旅行で泊まった旅館の一室から外の景色を眺めていた。
「まさか、再びここに来ることになるとは思いませんでしたよ……………それも拓也先輩と二人きりで」
「………………」
「なんとなくですけど……………拓也先輩はクレア先輩を選ぶと思ってましたから」
「何でそう思う?」
「何ででしょう……………なんか、こうして私と拓也先輩がここにいるのが不思議でならないんですよね。本来、拓也先輩とそうなるのはクレア先輩でそれが私になってるのはどこかでボタンが掛け違えたのか、何かイレギュラーなことが起きたのか……………とにかく、この現実が本来のものではなく、凄く低い確率で発生したものでそれこそ存在しないはずの……………」
「優梨奈……………それ以上は言うな」
「っ!?」
初めてだろう。俺はこんなことを言う優梨奈に怒りのようなものを感じていた。
「本来なら、こうなってるとか俺が誰を選ぶと思ってたとか……………そんなのどうでもいいんだよ。俺達にとっては今ここにある目の前のものが全てだろう?俺が今日という日を一緒に過ごしたいと思ったのも優梨奈だし、今まで二人で出掛けたいと思ったのも俺の素直な感情だ。それに俺達だけじゃないぞ。こうしてる今だって、どこかで誰かが一生懸命生きているんだ。さっきのショッピングモールにいた家族連れもここに来る途中、すれ違ったカップルもそれにクリスマスパーティーに出ているあいつらも………………みんな、この現実を今を生きているんだ。優梨奈の言ってることはそれを否定することになる。だから、この世界を存在しないはずのものだなんて冗談でも言わないでくれ……………悲しくなるから」
「拓也……………先輩」
何故だろうか。俺は優梨奈の言ったことに対して、冗談と受け流すことができず胸が苦しくなっていた。もしかしたら、俺も心の奥底では優梨奈と同じようなことを感じていたのかもしれない。でも、そう思いたくない。思ってはいけないと自分自身に対しても言い聞かせる意味で今の発言をしたのだ。
「すみませんでした。変なことを言って」
「いや。俺の方こそ、ごめん」
「私……………今日という日がとても嬉しいんだと思います。だから、ちょっと変なテンションになっちゃって………………こんな幸せな日が終わってしまうのが怖くて」
「終わらない……………いや、終わらせないよ」
「えっ」
「これからもこんな幸せな日を一緒に過ごしたいと思ってる………………優梨奈、俺はお前のことが好きだ」
「っ!?」
「よければ俺と付き合って欲しい」
「拓也…………先輩」
優梨奈は俺の言葉に涙を流したかと思うと今度は笑顔になって、こう言った。
「はい。私も拓也先輩のことが好きです…………不束者ですが、これからは彼女としてよろしくお願いします」
その日、初雪が降った。それは交通機関を麻痺させ、俺達にもその影響は及んだ。結果、俺達はそのまま旅館に一泊することとなったのである。この二人きりで過ごしたイブを俺は生涯、忘れることはないだろう。そうして、明けた次の日。箱根を一頻り回って楽しんだ俺達は夕方になる少し前に蒼最へと帰っていった。行きと違って帰りは終始、優梨奈と手を繋いで………………




