第十二話:紅葉の秋
十月の末、俺と優梨奈は紅葉を見に来ていた。そこは蒼最市でも有名な紅葉スポットで日曜日ということもあり、家族連れやカップルなどで溢れ返っていた。
「うわ〜人が沢山いますね!!」
「考えることはみんな同じか」
「子供なんか、親の手を離れてはしゃいでますね〜………………あっ!あの子、あんなに走り回ったら危ないよ〜」
「あははは。優梨奈は子供が好きなのか?」
「はい!将来は保育士か学校の先生になりたい程です!」
「そうなんだ」
「だって、子供ってとっても可愛いじゃないですか……………ほら、あの赤ちゃん!こっちを見て笑ってますよ!あ〜可愛い〜!!」
そう言って、頬に手を当てて悶える優梨奈。それを見た俺は気が付けば、こんなことを言っていた。
「優梨奈はとてもいいお母さんになりそうだな」
「……………へ?それって、どういう」
「っ!?な、なんでもない!!」
思わず、顔を真っ赤にした俺は視線を優梨奈から逸らした。すると、ちょうどそこに通り掛かった老人の夫婦と目が合い、彼らにこんなことを言われた。
「うふふ。いいわねぇ、初々しくて」
「そうだな。兄ちゃん達、いつまでも仲良くな」
「「っ!?」」
俺達はその夫婦にどうやら、カップルか何かと勘違いされてしまったようだ。そして、恥ずかしさのダブルパンチを受けた俺と同じように顔を真っ赤にさせた優梨奈はそそくさとその場を離れるのだった。
★
「綺麗でしたね、紅葉」
「ああ。なんか、季節特有のものを見たりすると心が洗われるようだな」
あれから、俺達は一通り紅葉を見て回り、今は近くにあったお団子屋のベンチに腰掛け、ゆっくりしていた。そして、手にはもちろん、団子と湯呑みに入ったお茶がセットだった。
「あと、何回こんな景色が見られるんでしょうか?」
「それはどういう意味だ?」
「拓也先輩も知っての通り、私は毎日薬を飲んでこの病と闘っています。今のところ、進行して悪くなったりはしていませんが、それでも油断は禁物です。果たして、いつどうなるか………………私、毎日不安なんです。毎朝、ベッドから起きてきて、"良かった。今日も生きてる"って実感して………………だって、次の瞬間には私はここにいないかもしれない。そのぐらい不安定な中にいるんです」
「あのお医者さんを信用していないのか?」
「いえ。おそらく、あの人の腕は確かでしょう。だから、薬を飲み続けて、ちゃんとメンタルも保っていれば大丈夫なはずです。でも………………物事に絶対はないじゃないですか」
俺は優梨奈のこの発言に驚いた。彼女はいつも明るくて元気で周りを笑顔にしてくれる、そんな太陽のような女の子だ。だが、そんな彼女でも裏では人並みに一人で悩んだり不安になったりして、メンタルが危うくなることもある………………と。俺はそれを聞いて、優梨奈のことを何とかしてあげたいと思い、無意識のうちに彼女の手を握り締めていた。
「っ!?拓也先輩!?」
「優梨奈、大丈夫だ。俺はずっとお前の味方でそばにいるから」
「………………本当ですか?」
「ああ」
「何があっても私のそばにいてくれますか?」
「ああ」
「じゃあ、私も拓也先輩のそばから絶対に離れません。だから、先輩も絶対に私から目を離さないで下さいね?」
「分かった………………っていっても俺に何ができるのかは分からないんたけどな」
「何言ってるんですか。拓也先輩がそばにいてくれるだけで十分、私は助けられていますよ」
「本当か?」
「はい。だって、先輩は私にとって……………」
その時、突然風が吹いて頭上からは紅葉が擦れ合う音が聞こえてきた。それは冷たいと感じる程、強く吹き抜ける風ではないものの、優梨奈の言葉をかき消してしまうには十分すぎる程だった。




