第十一話:食欲の秋
その日はみんなで神無月邸にお邪魔していた。その理由はただ一つ。
「広いな〜」
「ここが神無月の実家か」
「凄いね〜」
「本当にお庭をお借りしていいんですか?」
そう。ここの庭を使って"焼きいも"をする為だ。焼きいもとはいってもただ、スーパーなどで既に出来ているものを買ってきて食べる訳ではない。普通のさつまいもを買ってきて、ここで焼いて食べるのだ。これは先日、商店街を歩いていた時にたまたま通りかかった焼きいもの移動販売車から焼きいものあの歌が聞こえてきたと俺が話したところ、是非みんなでやろうということになったのである。その際、本格的にやってみようということで落ち葉などを集めて、そこでさつまいもを焼くこととなった………………というのは表向き
の理由であり、実は本来の目的は他にあった。
「うん。僕もやってみたかったしね。うわ〜楽しみだ」
みんなも思い思いにテンションが上がっている。しかし、そんな中、二人ほど浮かない顔をしている者がいた。
「「………………」」
優梨奈とクレアである。二人はあの時の昼食時以来、顔を合わせておらず、今日までずっと気まずい関係が続いていだのだ。だから、今回は以前の二人に戻ってもらおうとこうして"みんなで焼きいもを食べる回"を提案したのである。
「如月くん、本当に大丈夫なの?…………コソコソ」
「ああ。任せとけって」
「如月先輩。私の大切な親友と大好きな先輩に変なことしたら、許しませんよ……………コソコソ」
「えっ!?如月くん、一体彼女達に何をする気なの?…………コソコソ」
「おい皐月!変なこと言うなよ!長月がお前の言葉を信じちゃったじゃないか!……………コソコソ」
「日頃の行いがよければ、信じませんよそんなこと……………コソコソ」
「えっ!?俺って、日頃の行い良くないの?……………コソコソ」
「「「「………………」」」」
「え、嘘だろ!?」
俺はみんなの反応にショックを受けて思わず、項垂れてしまった。すると、圭太がそんな俺の肩を叩いてこう言った。
「ドンマイ!」
おい、圭太。お前も皐月達の言葉に頷いていたのを俺は見逃してないぞ。
★
「今から、誰が一番美味い焼きいもを作れるかで勝負するぞ!!」
俺のその宣言から、しばらく経って俺達は出来上がった焼きいもの品評会みたいなことをしていた。色・形・匂い・味………………様々な採点基準から、みんなでそれぞれの焼きいもの点数をつけあうのだ。
「ほれ!次は俺だ!!」
そして言い出しっぺということもあり、俺の番になるとみんなは心なしか期待した目で俺のを見ているような気がした……………おいおい。そんな目で見つめるなよ。そんな目で見つめられたら、興奮しちゃうじゃ………………
「「ぷっ……………何これ!あはははっ!!」」
「……………へ?」
俺の自信満々に差し出した焼きいもをまず最初に見たのは優梨奈とクレアだった。二人は俺の作品を見た瞬間、さっきまでの気まずさが嘘のようにお互い、手を取り合って笑った。
「こ、これは流石に…………クフフ」
「うふふ」
「がはははっ!!拓也、お前なんだこれ!!」
「わ、笑っちゃ可哀想ですよ。本人は至って真面目なんで……………ブフフッ!」
「お前らな……………あれ?ってか、優梨奈にクレア……………お前ら、いつのまにそんなに」
「「あはははは………………えっ!?」」
二人は同時に俺の言ったことに気が付き、お互いに距離を取った。しかし、時既に遅し。みんな、彼女達が以前のような関係に戻ったことに気が付いており、それを彼女達が否定しようにも今の様子を見られてしまっては不可能だった。それにそもそもその息の合いよう自体が何よりもその関係性を物語っていた。
「……………優梨奈、なんかごめんね」
「……………私の方こそ、なんかすみません」
そして、居た堪れなくなったのか頭を下げ合う二人。その瞬間、無意識に俺達は拍手していた。そうしていると気が付けば、日は落ち、解散の時間となった。まぁ、何にせよ二人が元通りの関係に戻って良かっ……………
「にしても拓也の焼きいも、どんだけなのよ」
そ、そんなに変だったのかな?あれ〜?ちゃんと上手く焼けたはずなんたけど………………
「全く……………見る目のない奴らめ」
俺はその後、一人静かに真っ黒く焼けた土偶のような形をした焼きいもを頬張った。




