第八話:文化祭
「そういえば、拓也先輩のクラスは何の出し物をするんですか?」
学食で優梨奈がそう聞いてくる。ちなみにクレアは今、ここにいない。どうやら、文化祭の委員に選ばれてしまったとのことで昼休みも忙しくしているらしい。おかげで今まで恒例だった三人での昼食がなくなってしまった為、優梨奈はちょっぴり寂しい思いをしているようだ。
「劇だ」
「劇?」
「ああ。それもロミオとジュリエット」
「へ〜……………ちなみにロミオ役とジュリエット役は誰なんですか?」
「ロミオが長月でジュリエットが霜月だ。実はさ、全然気が付かなかったんだけど夏休み中に演技の練習、してたらしいぞ」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ。だから、台本をもらったのが夏休み明けにも関わらず、スムーズに役に入っていけているらしい」
「へ〜それは凄いですね……………そういえば、ロミオとジュリエットは何か手を加えて、違うお話にするんですか?ほら、なんかこう…………自分達の色を出すみたいな」
「みたいだ。どうやら台本が少しアレンジされているらしい。でも、シチュエーションや台詞などは所々、変わっているだけで後はほぼほぼ原作に忠実通りだってさ」
「あの……………拓也先輩、ちゃんと自分のクラスに興味ありますか?」
「へ?」
「だって、さっきから"らしい"とか"みたい"とか、全て伝聞系じゃないですか。それじゃあ全然、主体性が感じられませんよ」
「えっ!?そうかな!?」
「そうですよ。拓也先輩はそんな人じゃないはずでしょう?何かが起きた時にはその中心にいるというか、もっと率先して周りを引っ張っていくタイプだと思うんですけど」
「……………あれ?そう考えれば、そうかもな」
「もしかして、自分のクラスのことだけではなく文化祭そのものに興味がなかったりして」
「いや、それはない!現に俺は優梨奈のクラスが何をやるのか気になってるし、出し物をするのなら絶対に行くつもりだから」
「えっ!?拓也先輩、来てくれるんですか!?」
「当たり前だろ。むしろ、それが楽しみなんだから」
その言葉通り、その日から俺は優梨奈の………………いや、優梨奈のクラスがどんな出し物をするのか、気になる日々を過ごした。そして、あっという間に文化祭の当日を迎えるのだった。
★
ついに文化祭当日がやってきた。蒼最祭と呼ばれるうちの学園の文化祭は計三日間行われる。来場者の多くは地元の人や卒業生達だ。皆、各クラスや各部活動の出し物を非常に楽しみにしており、中でも飲食系が人気だった。どんなイベントもやっぱり、まずは食。食あってのイベントという共通認識がある程だ……………知らんけど。だから、だろう。飲食系の出し物をしているところは軒並み、気合いが入りまくっていた。現にこうしている今も威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ〜!!」
そして、その中に混じって響く綺麗な声。あぁ、何て可愛くて健気なのだろうか。清純なメイド服に身を包んだ優梨奈を見て、俺はそう思った。ここはメイド喫茶。そう。なんと優梨奈のクラスの出し物だった。
「がるるるる〜っ!!!」
「「「ひぃっ〜〜〜!!!」」」
俺は他の下衆共を威嚇すると同時にその汚らわしい視線に晒さないよう、優梨奈を専属メイドとして指名し、独占していた。これは普段の関係性を使った完全な職権濫用である。だが、これは致し方ないことなのだ!優梨奈のような純粋無垢な少女をあんな化け物達の野に解き放ってはいけない。全く………………メイド喫茶なんて一体誰が提案したのだろうか。おかげで優梨奈が危険な目に………………って、あのメイドさんの服装、際どくないか?全く……………け、けしからんな。
「拓也先輩〜?私を指名しておきながら、どこの誰を見ているんでしょうか〜」
「ひっ!?ゆ、優梨奈さんっ!?」
「知ってますか?人って、やましいことがある時、敬語になるらしいですね」
「い、いや、これは……………」
「あれ?冗談を言ったつもりなのにどうしたんでしょう?もしかして、自覚がおありとか」
「そ、それは………………あっ!優梨奈、もう交代の時間じゃないか?いや〜お勤めご苦労様だな!!あ、あはは」
「そうですね……………じゃあ着替えてきますので待っていて下さい」
優梨奈は俺を汚物を見るような目で睨んだかと思うと裏に引っ込んでいった。まさか、彼女にこんな一面があるなんて………………ゆ、優梨奈さん、マジ怖いっす………………あ、ちなみにこの後は優梨奈と色々な出し物を見て回ってから、そのままの流れで一緒に帰宅しました。




