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窓際の君  作者: 気衒い
もう一つの世界線〜IF〜

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第五話:水の楽園

蒼最市最大の屋内プール施設……………その名も「水の楽園(ウォーター・ヘブン)」。"およそ日本中に存在する屋内プールのアトラクションを全て詰め込みます!"をテーマに数年前、オープンしたばかりで休日になると未だに家族連れが多く訪れる場所である。そんな場所のプールサイドにて、俺はある者を待っていた。


「優梨奈の奴……………ちゃんと場所、分かるのか?」


そう。俺が待っていたのは優梨奈だった。病院で検査を受けてから、既に数日が経過しており、その間も優梨奈は若干沈んだ様子だった。そこで彼女を元気づけようと俺は思い切って、屋内プールに行かないか?と誘ったのである。すると優梨奈も流石に俺の意図に気が付いてくれたのか、気分転換になるかもと言って了承してくれたのだった。


「それにしても断られたら、どうしようかと思ったが、すんなりとOKしてくれて良かったな」


「断る?私が先輩の心遣いを無駄にする訳ないじゃないですか」


俺が小さく呟いていたのが聞こえたのか、それに対しての答えがすぐ間近から返ってきた。そして、それは今、俺が最も待ち侘びていた者の声だった。その声から察するにどうやら、少しはメンタルが持ち直しているようでまずは安心した。まぁ、単純に屋内プールが楽しみだったということだろうが。


「予想よりも早かったな」


「あ〜!その顔、"どうせ優梨奈は迷うしなぁ……………"とか思っていたんでしょう!」


そんなことを言う優梨奈はこの間、クレアの持つプライベートビーチで見たのと同じ水着を身に付けていた……………いや〜相変わらず、天使みたいに可愛いなぁ。


「ちょっと!聞いてますか?」


「……………ここは天国か?」


「全く、何を言うかと思えば……………確かに名前にもヘブンって入ってますが……………それが一体どうかしましたか?」


「………………いや、何でもない。それじゃ行くか!」


「はい!今日はよろしくお願いします!!」






            ★





「拓也先輩!まずは流れるプールに行きましょう!」


「ん?いいけど」


「いいですか?……………こ〜うやって〜まずは流れに身を任せることで〜」


「うわ〜いいなぁ〜これ……………で?流れに身を任せることで?」


「自然と流れていきます」


「そりゃそうだろ!」


「焦りは禁物ですよ?これは準備体操も兼ねているんですから!まだまだ私達にはウォータースライダーは早いです!!」


「うん。後でちゃんと準備体操しような?」


「……………はい」








「拓也先輩!次はいよいよウォータースライダーです!」


「お、もうか」


「何を言ってるんですか!準備体操、恥ずかしかったんですからね!!」


「確かに……………優梨奈のは独特だったな」


「ゴホンッ!さて、ここで問題です!ウォータースライダーを行うにあたって最も気にしなければならないポイントは何でしょう?」


「ん?う〜ん………………待ち時間?それともどんな態勢で滑るのか……………あっ!夢中になると時間を食うから、少ない回数でどれだけ楽しめるか、だ!!」


「ブブッー!どれも不正解です!」


「えっ!?まじか……………結構いいセンいってたと思ったんだけどな」


「正解は"二人同時に滑るのか、それとも一人ずつ滑るのか"です!」


「なんだ、それ!一人でいる時にも当てはまるものかと思ってたぞ」


「そんなことは一言も言ってません」


「くそっ!なんか、ムカつくな」


「だって……………私達は今、二人きりですよ?」


「っ!?」


少し顔を赤くしながら上目遣いで俺を見る優梨奈。それに対して、俺の心臓は早鐘を打っていた。おい、相手は優梨奈だぞ!


「さ、さて!監視員さんに二人同時に滑ってもいいのか訊いてきますか」


「お、おお!そ、そうだな!」








「どんどんいきますよ!次は温水プールです!一回強めのアトラクションいって、こうして緩いのを挟むのがミソなんです!!」


「そ、そうだな〜」


やばい。さっきのウォータースライダー……………密着度合いが凄すぎて、何も頭に入ってこなかった。優梨奈……………お前のポテンシャルはやはり凄かったよ。


「どうしました?」


「いや、さっきのウォータースライダーの余韻がね」


「ああ。あれ、楽しかったですね!二人同時でも滑れましたし」


「うん。凄かったね、とにかく」


「うん?そうですね。じゃあ、温水プールに行きましょうか」


こうして俺達は優梨奈が先導する形で次々とアトラクションやらなんやらを楽しんでいった。俺の印象に残ったのでいうとやはりウォータースライダーと………………売店で買った焼きそばが美味かったことか。こういうところで食べるとまた一段と美味く感じるんだよな。まぁ、でも、そんなこんなよりも一番はやはり優梨奈が少しは元気になったことかな。


「拓也先輩、今日は本当にありがとうございました」


帰りの電車内でそう静かに口にする優梨奈。彼女の瞳は真っ直ぐと俺を捉え、その顔はとても綺麗な笑顔だった。


「やっぱり、優梨奈は笑ってるのが一番だな」


「すみませんでした。ご迷惑をお掛けして……………私、ようやく分かったんです。治る希望があるのに何落ち込んでるんだろうって……………確かに最初、聞かされた時はびっくりして塞ぎ込んじゃって、それがズルズルと続いていました………………けれども、私にはまだ希望が残されている」


「……………処方された薬を飲み、後は本人の生きる気力があれば自ずと完治する。他の部分で言えば、気を付けることも特に禁止されたこともなく至って普通の生活を続けてもいい………………確か、そんなことを言われたな」


「はい。なのに私は勝手に落ち込んで塞ぎ込んで………………今日、先輩との屋内プールデートを楽しんで分かりました。私はまだまだ生きたいって!だから、ちゃんと自分と向き合うって決めたんです!」


「えっ、今日のこれもデートなの?」


「はい!もちろん!」


そう言って笑う優梨奈は今までで一番の笑顔だった。









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