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窓際の君  作者: 気衒い
もう一つの世界線〜IF〜

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第四話:特効薬

「いや〜不幸中の幸いだね」


「……………はい」


「ありがとうございます」


俺の頼みを快く引き受けてくれた優梨奈はその日のうちにお父さんに車を出してもらい、みんなで病院まで向かった。もちろん、そこは葉月家の分家の人がいるという病院で事前に優梨奈が向かうと伝えたところ、わざわざ非番だったのに駆けつけてくれたのだ。


「原発不明癌……………それも早期発見だ。これが半年後とかに検査で分かったら、いくら僕でも間に合わなかったよ」


「そうなんですか?」


「ああ。今なら、僕が調合した薬で十分和らげることができる。後は本人の気力次第かな。僕の薬っていうのは結局のところ、途中までしか手助けしてくれないんだ。最後は本人の自己治癒力に任せる形となるからね。まぁ、その分、あらゆる病……………それこそ、絶対に直せない不治の病に対してだって効いちゃう凄いやつなんだ……………けど」


「……………」


そこでその医者は一旦、話すのをやめるとさっきから俯いている優梨奈へ心配そうな目を向けた。


「これは……………果たして、優梨奈ちゃんにその気力があるのかどうか」


「無理もありませんよ。だって、至って健康体で過ごしていたら、突然そんなこと言われるんですから………………でも、あなたに診てもらえて良かったです。他のお医者さんだったら、どうなっていたか………………本当にありがとうございます」


「いやいや!こちらこそ、ありがとう……………如月くんだっけ?このタイミングで連れてきてくれたのはナイスだよ。なんせ、僕はあと一ヶ月もすれば海外に行ってしまうからね」


「そうなんですか?」


「ああ。ここいらでもう一度、海外の医療や医術を見ておきたいと思ってね。そうなったら、日本へはいつ戻れるか………………少なくとも五年は無理だったと思う」


「そ、そんなですか!?それは運が良かったです」


「本当は患者に贔屓とかしちゃいけないんだけど………………やっぱり、同じ葉月家の者、特に優梨奈ちゃんにはいつまでも元気でいて欲しいからね………………あ、今日のことは他の人には内緒ね?こんなこと特例中の特例だから」


「はい。口が裂けてもこのことは言いません。じゃあ、俺達はもう行きます。本当にありがとうございました!」


「ああ。薬はちゃんと飲んで、それから自分を強く持つように言ってね……………ごめんね。今の彼女に僕の言葉は届きそうもないから任せるよ」


「いえ!むしろ、そんな大役を任せてもらえること自体、光栄なので!では!」


俺はその後、何度もお礼を言って、診察室を後にした。その間も優梨奈はずっと俯いたまま、一言も発さなかった。俺はそんな優梨奈の身体を支えながら、駐車場に停めてある車へと戻る。ちなみに優梨奈の両親は診察室の外で待っており、俺達が出てくると入れ替わりで中に入っていった。その際、車の鍵を預かり、少しだけ車内で待っていて欲しいと言われた。俺はその言葉を受けて、優梨奈の両親が戻ってくるまでの間、ずっと無言で優梨奈の手を握り、そこに想いを込め続けていた。






            ★





「本当にありがとう」


「いやいや……………それにしても間に合って良かった」


「まさか、優梨奈にそんなのがあるなんて」


「これもアレなのか?」


「だとしたら、尚更良かった。本当だったら、手遅れになっていたかもしれないんだから」


「……………なぁ、確かにお前の薬はあらゆる病や怪我に対して、その効力を発揮する。それは人が生きていて偶然または必然的に発生したものに対してだ。事故や事件、なんらかの病気など………………つまり、この世の全ての人間のそれらに対して、薬は有効だということ………………しかし、こと人ならざる者の力が関わっていたら、どうなんだ?」


「………………」


「お前、まさか」


「心配しないでもちゃんと効くから大丈夫」


「そんなことを言ってるんじゃない!お前がしようとしていることは………………」


「さっきの彼が……………あの如月くんなんだよね?」


「そうだ」


「じゃあ、尚更だよ。千影さんのこともあるし、彼に対して葉月家はとんでもない恩と贖罪がある……………だから、僕は僕がどうなろうとも構わない」


「………………」


「確かにあの薬を作るのには今までで最も能力を酷使した。その際、僕の寿命は削られて、あと一ヶ月程しか生きられないだろう。でも、それがなんだい?たかが、僕一人の命で優梨奈ちゃんを救い、如月くんにあの時のお礼ができるんだ………………僕は後悔していない。むしろ、そんな大役を任せてもらえること自体、光栄だよ」


「「……………」」


診察室にて、一人の医者が遠くを見ながら静かにそう語った。それを何とも言えない表情で二人の男女は見つめていたのだった。









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