第三話:田舎
「お、おい。本当に俺なんかが一緒に来て良かったのか?」
「いいに決まってるじゃないですか。なんせ、私がお願いしたんですから」
天体観測をした日から数日後。俺は優梨奈と一緒にとある田舎に来ていた。
「気を遣わせて悪いね。でも、ここでは遠慮なんてしなくていいんだよ」
「そうよ。いや〜にしてもまさか、優梨奈の先輩と一緒にここへ来ることになろうとは」
ちなみに優梨奈の両親も一緒だった。というか、優梨奈のお父さんが運転する車に乗せてもらって、ここまでやって来たのだから、それも当然だった。
「お母さん?一体何が言いたいの?」
「いや〜知り合ってそんなに経ってないのに私らだけじゃなく、私の実家にまで挨拶に来てくれるなんて……………ひょっとしたら、ひょっとする?」
「お母さん!」
「お、俺は認めないぞ!そ、そんなのはまだ優梨奈には早い!!」
「こら、お父さん!いい加減、子離れしなさい!優梨奈だって、もう大人なのよ?」
「いいや!俺の目がまだ黒いうちは子供だ!!」
「ちょっと!お爺ちゃん家にやってきてまでやめてよ、二人とも!それも先輩の目の前で!!」
「あら〜……………やっぱり、尊敬する先輩には良く見られたいのね」
「ごほん……………如月くん、ちょっと後で話そうか」
「もう!いい加減にしてよ!」
いい加減にして欲しいのはこっちなんだけど……………あれ?俺、優梨奈に頼まれてここに来てるんだよね?ってか、そもそも何で俺も?俺、必要?
「はい。その………………先輩と何日も離れるのは寂しいので」
何この可愛い生き物!………………ってか、俺ってやっぱり考えてることが顔に出るのかよ。
★
家の中を一通り案内してもらい、最終的に居間でくつろぐことにした俺達。優梨奈のお爺さんはさっきまで畑仕事をしていたらしく、今は疲れて眠っているそうだ。
「へ〜あのお婆さんが…………」
特に触れはしなかったのだが、気を遣って優梨奈の方から説明してくれたことがあった。それは度々、優梨奈が口にしていた金言をくれたお婆さんのことだった。実はそのお婆さんは優梨奈のお母さんのお母さんだったのだ。優梨奈が幼少期の時はここを訪れると毎回、優しく接してくれたらしい。しかし、そのお婆さんは原因不明の高熱で既にこの世を去っているそうだ。
「凄くいいお婆ちゃんで私は大好きだったんですよ〜………………でも、ある日突然、高熱が出たらしくて」
「ある日突然、熱が………………優梨奈、変な意味じゃないんだが、それは本当にただの熱だったのか?」
「へ?」
「いや、なんか分かんないんだけど、ちょっと引っかかってな………………もし、それがただの熱なんかじゃなくて実は別の病でとか、もしくは遺伝するような病気でとかだったら嫌だなと………………別にだからといって診断ミスだとか、お婆さんを責めているだとかじゃないぞ?………………ただ、急に不安になってな」
「拓也先輩……………」
「嫌な予感がするんだ。そして、それをそのまま放っておくと後で取り返しのつかないことになりそうでな……………あ、そうだ!知り合いに名医とかはいないのか?」
「いますよ。葉月家の分家の人なんですけど、何でもその人……………数十年、いや数百年に一人の逸材だとか言われているらしいです」
「それは凄いな」
「はい。その人にかかれば、あらゆる痛みや病を和らげることができるそうです。嘘か本当かは分からないですけど。ただ、生まれながらにして医者の才能があったのは確かみたいです」
「そんな人が身近にいるなんて好都合だな」
「好都合?」
「優梨奈……………悪いんだが、俺の頼みを一つ聞いてもらってもいいか?」
「へ?何ですか?」
俺はそこで一旦深呼吸をすると、ゆっくりこう言った。
「……………精密検査を受けて欲しいんだ」
その時、グラスに入った氷が溶けて落ちる音がした。気が付けば、喉はカラカラに渇いていて、どうやらそれは夏のせいだからだけではないようだった。




