第二話:青春
「もう夕方か」
夕焼けを見ながら、俺は呟いた。現在、俺達はクレアの持つ別荘に来ていた。その別荘にはプライベートビーチがあり、そこではバレーをしたり、泳いだり、スイカ割りをしてみたり、ついでに砂なんかにも埋まっちゃったり……………と定番の遊びをやり尽くした。おかげであっという間に時間が経ち、気が付けばもう夕陽が差していたのである。余談だが、昼にパラソルの下で食べるサンドイッチは格別だった。あ、サンドイッチはメイドさんが作ってくれました……………てか、普通にメイドさんを雇っている金持ちがいる世界線、やばくね?
「本当ですね。楽しい時間が過ぎるのは早いな〜」
「優梨奈、凄く楽しそうにはしゃいでたもんな」
「何言ってんですか。私よりも拓也先輩の方がはしゃいでたじゃないですか。まるで小さな子供のように」
「いいや!絶対に優梨奈の方がはしゃいでたね!」
「いいえ!私よりも拓也先輩の方がです!」
「「………………」」
「「…………ぷっ、あはははっ!!」」
現在、俺達は食材の買い出しで歩いて15分はかかるコンビニまで向かっていた。一方、他のみんなは今頃、別荘内で夕食の支度やなんやらをしているはずだ。ちなみに一緒に行く相手として優梨奈を選んだのはこの間のデート……………もとい、買い物がとても楽しかったからである。それにこの子と一緒にいると本当に癒されるんだよね〜。
「今の凄い顔だったな」
「はい。なんか睨めっこみたいでしたね」
「だな………………あ、そういえば買い物のメモって、ちゃんと持ってきたっけ?」
「えっ、忘れたんですか?」
「えっ〜と……………ごめん。たぶん、テーブルの上に置きっぱなしだわ」
「もう…………しっかりして下さいね」
「あはは。ごめんごめん」
俺達はそこで急遽、別荘まで戻った。その際、キッチンに少し立ち寄ったら、ちょうどクレアに対して何かを言いかけるところだった皐月と目が合った。すると、皐月は「な、何でここに如月先輩がっ!?」と慌てふためき、その拍子に腕をぶつけたのか調理器具を床に落下させていた……………あいつは一体何がしたかったんだろうか?
「はい。これでもう忘れ物はないですね?」
「うん。悪かったな。じゃあ、行こうか」
こうして再び、俺と優梨奈は楽しく買い出しに出かけた。あ、その日に食べた夕食は非常に美味しかったです、はい。やっぱり、みんなでわいわいと楽しく食べるのはいいな〜。
★
「本当にそれで見えるのか?」
「うん。まぁ、期待しててよ」
学園の屋上に俺と神無月の声が木霊する。現在の時刻は夜の9時。当然、夏休み中とはいえ厳重に戸締りが為され、警備員や宿直の先生の見回りの目が光る学園。そこをなんとか突破した俺達が辿り着いたのがここ、屋上……………目的はなんと天体観測だった。
「それにしてもお前にこんな趣味があったとはな」
「まぁね」
今回の天体観測は神無月からの提案だった。なんでも昔から趣味らしく、望遠鏡やそれに類する機器を沢山持っている程だという。そんな自称、星オタクである神無月に言わせると夏は天体観測の絶好の機会だとか。だから、だろう。現に今も真剣な顔をして、望遠鏡を何やらいじくっているのは。
「ちょっと優梨奈!はしゃがないの」
「え〜……………そんなこと言って、桃香だってテンション上がってんじゃないの?」
「そ、そんな訳ないでしょ!」
「でも、なんか興奮しない?こんな時間に普段、通っている学園の屋上に忍び込むなんて。まるで、いけないことをしているみたいで」
「"みたい"じゃなくて、実際にこれはいけないことなのよ」
「え〜クレア先輩までそんなこと言うんですか〜…………誰か、私と一緒に青春を謳歌しましょうよ〜」
「葉月さん、安心して。こんなこと言ってるけど、霜月さんも同罪だから」
「ちょっと長月さん。話をややこしくしないでちょうだい。私はただ、優梨奈達がこれ以上、いけないことをしないか監視する目的で来ただけよ」
「それなら、入る前に止めるよね?でも、それもせずにこうして屋上まで一緒に来てる……………本当は葉月さん達が心配で来たんだよね?」
「うぐっ」
「楽しいところに水を差すのも悪い。でも、みんなが心配……………そうだ!一緒に行けばいいんだ!って」
「そ、そんな訳ないじゃない」
「照れなくてもいいのに。さっきの学級委員みたいな言い訳も苦しいよ?」
「………………他人の揚げ足を取って、そんなに楽しい?」
「ううん。ただ、霜月さんが可愛いなって」
「っ!?か、可愛いっ!?」
「もぐもぐ…………あ、クレア先輩!照れてます!!可愛いです!!」
……………うん。一方の女子達は実に暢気で平和そうだ。あと、優梨奈。お前、一体何を食ってんだ?
「よし、できた」
と、そうこうしている内にすっかり準備も整ったみたいだ。神無月は満足気な顔をして、望遠鏡を見ている……………あ、ちなみに圭太もちゃんと来ているが、時間になったら起こしてくれと言って、今は寝ている。よし、そろそろ起こすか。
「じゃあ、みんな!準備ができたから早速、始めようか」
そこからの天体観測は神無月の豆知識も相まって、とても楽しく、その余韻に浸ったまま一日を終えることができたのだった。本当、夏休みって最高だな!!




