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窓際の君  作者: 気衒い
私の生まれてきた意味〜未来編〜

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第十話:未来

「……………ん?」


全てが終わり、誰もいなくなった丘の上に神は降りてきた。初代如月が去ってから、何分が経過したのだろうか?数分か?数十分か?はたまた数時間か?定かではないが、これだけは確実だった…………犯人は現場に戻るということが。この場合、神が犯人かどうかはさておき、この状況は私達の目論見通りだった。そして、それを見越して既に私達は丘の上に立ち、神のことを待ち構えていた。それによって、若干のアドバンテージを取れるかもしれないからだった。現に神は少し不審な顔で私達を見つめており、そこの隙をつけば上手くことを運べそうな気がしないでもなかった。


「蒼最の救神、リジオンよ」


「っ!?」


神は師走先生の第一声に驚いていた。まさか、さっきの今でこんな声の掛け方をされるとは微塵も思っていなかったのだろう。いくら神とはいえ、そう簡単に感情がリセットされるとは思えない………………いや、思いたくない。おそらく、色々と思うことがあり、最後に一目見ようと降りてきた場所にいた見知らぬ女性にこれだけ堂々と話しかけられてしまえば、情緒もへったくれもないだろう。


「私達は未来の蒼最からやってきた者です」


「未来から?」


「嘘だと思うのなら、調べてみて下さい。そのくらいのこと、神ならば容易でしょう?」


「……………分かりました」


そう言って神は渋々ではあったものの深く目を瞑り、私達に意識を集中し始めた。すると、途端に神と私達の身体が蒼く光り始めた。そして、数秒後、その光も収まると神は目を開けて私達を見つめながら、こう言った。


「確かにあなた達は未来から来たようですね。それも十二家の者でしたか」


「それはそうでしょう。こんな芸当、普通の人間にはできませんよ」


「いいえ。もしかしたら、未来ではそういった能力か技術を持った人間が現れるかもしれません」


「ご冗談を。あなたには既に分かっているのでしょう?そういった人間が…………少なくとも私達の生きている時代には現れないことを」


「……………私に未来が見えると?」


「神ならば、それも容易いでしょう。というか、どんなことでもやってのけてしまう、それが神ではなくて?」


「あなたの言うことが本当なら、私はあなた達がここに現れるということも事前に分かったはずです。しかし、私はあなた達の介入を知らなかった。それどころか、あなた達の存在すら知らなかった………………これはあなたの言いたいことと矛盾しませんか?」


「しませんよ。なんせ、あなたはたった今、知ったのですから。私達の素性を調べた際、ついでに未来の私達のこともそして、私達がここに来た目的も全て………………」


「………………」


「神リジオンよ………………私達が何を言いたいのか、お分かりですね?」


「……………私は」


「はい」


「私は自分が蒼最を引っ掻き回してしまったのではないかと常に自問自答していました。自分が余計なことをしなければ、蒼最の人達はみんなで協力し助け合って生きていけたのではないかと………………あなたの言う通り、私にとって未来を見ることはそう難しいことではありません。しかし、私はあまりそんなことをしたくないのです。別に未来とは自分で切り拓くものだからとか、歴史の改変をしてしまう恐れがあるからとかではありません………………ただ単に私が臆病者なだけなんです」


「臆病者?」


「はい。未来の辛い現実を見たくなくて、ただただ逃げているだけなんです。幸せな部分だけを見ていたい、知っていたい………………私は自分勝手な神なんです。ですが、一方でそんな私の中にもう一人の私がいるのもまた事実でした。そして、その私は人々のあらゆる負の部分を非常に好んでいます」


「………………」


「私がその二面性に悩み蒼最の今後を憂いている時、そばにいてくれたのがあの男でした。あの男の目的は最初から分かっていました……………私自身が目的でないことも。しかし、私はあの男と一緒に過ごすうちに段々と心が安らいでいくのを感じたのです。あの男がしたことが許せないのも事実ですが、あの男と過ごした時間が私に与えてくれたものもまた確かなものでした………………だからこそ、私は感情がぐちゃぐちゃになり、あのようなことをしてしまったのです」


「さっきから聞いていると神というよりも一人の女性としての言葉に感じますね………………ですが、どこまでいこうとあなたは神なんです。その大きな力と存在には大きな責任が伴うんです」


「…………………はい」


「確かにあなたも裏切られて辛かったのでしょうが、その辛さや苦しみを後世の私達にぶつけてどうするんですか!あなたのやっていることは完全に八つ当たりですよ!」


「………………あなたの言う通りです。未来のあなた達が負う苦しみを見た瞬間、私は凄い後悔に襲われました。私は何てことをしてしまったのだと………………あなた達の目的は分かります。しかし、神にもできることとできないことがあります。今までの呪いを全てなかったことにし、因果の鎖をいくつも断ち切ることはできそうにありません。私にはそこまでの権限が与えられていませんので………………ですが、今後のあなた達を呪いから解放し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ!?それって……………」


「はい。それであなた達の()()()()()()は達成されるかと………………本当は全部なかったことにして、全員救えればいいんですが」


「………………いえ。それだけでも十分です。そもそも神にこのような物言いをしている私達の方が処罰されてもおかしくはないんですから」


「いいえ。あなた達にはその権利がありますから………………この度は本当に申し訳ありませんでした。気が済むとは思いませんが、今の私を煮るなり焼くなり好きにして頂ければと思います」


そう言って、私達に向かって土下座をする神。まさか、ここまで神が自責の念に囚われるとは誰も予想していなかった。現に師走先生は驚いて、目を見開いている。


「顔を上げて下さい。私達にここまで謝られても困ります」


「………………」


「リジオン。あなたはただ、寂しかっただけなのでしょう?」


「っ!?」


「もちろん、蒼最を救おうとここに降りてきたのは間違いではない。でも、寂しくて人々の温もりを感じたいと思ったのもまた事実……………違いますか?」


「……………何故、分かるんですか?」


そこで胸を張った師走先生はこう言った。


「私は学園の先生ですよ?今まで沢山の生徒達を見てきたんですから、そういうのは分かるんです!」


「…………ふっ。神を生徒扱いですか」


「こんなお子ちゃまみたいな神はそれで十分です」


「お、お子ちゃま!?」


「リジオン」


そこで改めて神へと向き直った師走先生は私を手招きして、神の前へと押し出した。


「私のことはどうでもいいですから、その子をよく見て下さい。その子が未来の最先端ですよ」


「ど、どうも。き、如月ゆりです。」


「如月……………ごめんなさい。あなたにも辛い想いを」


「えっ!?い、いえ、あの………………私は実際、辛い目に遭ったとか、何かされたとかじゃないからいいんですけど」


「………………」


「やっぱり、過去のお話とかお父さん達の時のこととか聞いてると可哀想だなって思うから、何とかして欲しいです!………………あっ!お願いを聞いてもらうには何か対価が必要なんでしたっけ?神様が欲しいもの…………欲しそうなものはえ〜っと……………あっ!そうだ!」


私の言葉に全員が注目した。いや、そんな期待されても大した答えじゃないんだけどな。


「私が神様の友達になってあげますよ!ほら!これで寂しくないでしょ?」


「「「「「……………」」」」」


あれ?私の言葉に全員が固まっちゃったんだけど……………

何で?


「寂しかったみたいだし、良いアイデアだと思ったんだけどな…………………えっ、まさか対価が足りないとか?どうしよう?周りの友達に協力してもらいたいけど、こんな話信じてもらえないだろうし………………あと、考えられる友達候補といえばクマのぬいぐるみのベアちゃんぐらいしか」


「「「「ぷっ………………あはははは」」」」


あれ?私が悩んでぶつぶつ言ってたら、神様以外が全員笑い始めたんだけど………………本当に何で?


「ゆりさん、あなた最高よ」


「我が孫ながら、期待をここまで超えてくるなんて」


「流石はあいつの娘だな」


「ほら。神様も唖然としているわよ」


皐月さんの言葉通り、神様はポカンとした表情で私を見つめていた。なんか、餌を待つ雛鳥みたいで可愛いな。


「神様?もしかして、私なんかと友達は嫌でした?」


もしかしたら、ドン引きされてるかもしれないと思い、訊いてみたが帰ってきた答えに私は思わず安心した。


「い、いえ……………とんでもない子が紛れ込んでたんだなと少し驚いただけであなたの提案はとても魅力的でした」


「えっ、本当ですか!?やったぁ!」


「リジオン、分かりましたか?改めて言いますが、これが最先端です。こんな有望な子を潰してしまうかもしれない未来なんて嫌ですよね?」


「はい、師走柚葉。意地でもあなた達の望みを叶えたくなりました。ってか、絶対に叶えましょう!」


ん?神様、なんか急にやる気が出始めたけど何でだろう?


「では今からあなた達に掛かっている呪いを全て解き、過去の因果を一つなかったことにします」


さっきまでとはまた違う真剣な表情の神様は目を瞑り、深く集中しだした。その間、みんなでその様子を黙って見つめていた。それが五分程続いた時、ようやく神様は目をゆっくりと開け、私達へと穏やかな笑みを見せた。


「お待たせ致しました」


その瞬間、私達の目的は果たされたのだと感じ全員で泣いて笑いながら抱き合った。私ですら、この感情なのだ。みんなのは想像もできない程だろう。


「今まで本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。あなた達のおかげで色々なものが救われました。もし許されるのなら、またあなた達とお話ができたらと……………」


「何言ってんの!もう私達は友達だよリジオン!また話そうね!今度、美味しいケーキが食べられるお店、連れてってあげるよ!本当にありがとう!!」


「ゆりさん……………いえ、ゆり!楽しみにしています!」


笑顔で手を振るリジオン。私達はそれに手を振り返しながら過去へと戻っていった。行きと違い、帰りはリジオンの力で送ってもらった。その際、私の中にある能力により、少し先の未来が見えて分かったことがある。もし、行きと同じように能力を使って帰っていたら、師走先生とソフィアお婆ちゃんはおそらく帰らぬ人となっていたであろうと。年齢的な問題、それと二人にかかる負荷が尋常ではなかった為と考えられた。二人がそれを想定していない訳はあるまい。つまり、二人はその覚悟で過去へと飛んだのだ。


「何かしら?」


「ゆりちゃん!その顔、シャッターチャンスよ!」


飛んでいる最中、二人をチラリと見上げるとそんな感じで返してきた。全く、そんな感じで来られたら、こう返すしかないじゃんか。


「はい、チーズ!!」







            ★





「月が綺麗ね」


「………………」


夜。とある場所にとある男女が向かっていた。片っ方は車椅子を引き、片っ方はその車椅子に乗り……………


「本当に今日のは一段と……………ん?」


「………………」


二人が向かっていたのは墓地だった。沢山の墓石が並ぶ通りを横切り、目的地まで一直線に向かう。今まで何度も訪れた場所。変わらない景色……………のはずがしかし、その日はどうやらいつもとは明らかに違っていた。


「……………あれ?私は……………そうか。そういうことか」


男女がとある墓石の近くまでやってきた時、不意に声が聞こえ、見てみるとそこには誰かがいた。


「あ、どうも」


「………………」


月が出ているとはいえ、今は雲で隠れてしまっている為、それが誰なのかは分からなかったが一応と思い、女性は挨拶をした。すると、相手からは予想外な返しがきた。


「あ、どうも………………って随分と他人行儀な挨拶ですね」


「?」

  

その言葉の真意を測ろうと女性が相手をまじまじと見つめようとしたまさにその時、月を隠していた雲がどこかへと流れていき、途端に辺りは月光によって照らされ始めた。


「あの、どちら様で………………えっ」


「………………あ」


女性は相手の顔を見た瞬間、驚いて絶句した。そして、車椅子に座る男性も思わず閉ざしていた口を開け、そこからか細い声を出した。


「お久しぶりですね、二人とも」


そう言って、明るく笑う()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。そして、彼女の着る高校の制服は風で少しだけ揺れていた。






            ★





「お母さん!」


「どうしたの、ゆり?」


「ただいま!」


「あらあら。まるでどこか遠いところにでも行っていたような感じね」


「勘が鋭いね!」


「?」


「ん〜ん!何でもない!………………あ、そういえばさ、お父さんとの出会いって何だったの?」


「どうしたの?そんなの今まで訊いてこなかったじゃない」


「ん〜と……………何となく?」


「そう。まぁ、そんなに大した出会いじゃないわよ。高校二年生の時にただ、教室で声を掛けられたってだけ」


「えっ!?ナンパ!?」


「そんなんじゃないわよ。ただ今思えばだけど……………お父さんなりに私のことを心配してくれたんじゃないかしら」


「へ〜………………でも、何でそんなこと分かるの?」


「だって、第一声が少し変わってたもの」


「何て言ったの?」


「"その瞳には一体、何が映ってる?"」


「ぷっ、何その台詞……………厨二臭いんだけど」


「あら。笑ったら、可哀想じゃない。お父さんはそんな人じゃないって知ってるでしょ?」


「うん。でもさ」


「ちなみにだけど」


「うん?」


その瞬間、どこか空気が変わった気がした。そして、それは一度味わったことのあるものだった。


「この瞳には一体何が映っていると思う?」


見間違いでないのなら、今私の目の前にいるこの人の肩からはそれはそれは綺麗で真っ白な翼が生えていた。














ここまでのご愛読、大変ありがとうございました。ここで一旦、この物語は終了となります・・・もしかしたら、次話から"IF"ストーリーか何かを投稿するかもしれませんが、どうなるかははっきりと決まっていません。もし、しないのであれば、ここで完結となります。まぁ、とにかく今まで本当にありがとうございました!

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