第九話:過去
何が起きたのかはよく覚えていない。気が付いたら、私は見知らぬ土地に立っていた。
「はぁ…………着いたわね……………はぁ」
みんなは肩で息をしながら地面に手をついて座っていた。その様子から、能力の行使というのはよっぽど疲れるであろうことが窺えた………………あれ?でも、私そこまで疲れてないんだけど。ってか、本当に私も能力を使ったの?全く、身に覚えがないんだけど。
「はぁ、はぁ……………ゆりさん、あなた上出来よ。初めてなのによくあそこまで能力を使いこなせたわね」
「………………いや〜それほどでも?あはは」
どうやら、使ったらしい。でも、よく覚えてないから、なんかモヤモヤするな。
「おそらく、あなたは何が起きたのか、本当に自分が能力を使ったのか覚えてないんでしょうけど…………」
あ、バレてた。
「それでいいのよ。今回のは特別。私達ですら、こんなに疲れることの一部始終を全て覚えていようとすれば、脳の処理が追いつかず、おかしくなってしまうもの」
「……………つまり、防衛本能?」
「そうよ。だから良かったわね。覚えていなくて」
「は、はぁ。そういうことなら」
先生の言うことが本当なら、人間の持つ機能に感謝しなければならない。ただ、やっぱり、みんなが覚えていて私だけが覚えていないというのはなんだか、ちょっぴり寂しい気もしたのだった。
★
私達が降り立ったのは蒼最の丘……………かつて神が降臨したところから100メートルくらい離れた場所だった。そして、肝心の日付なのだが……………
「今からあと数分後、初代如月が神と対話を開始するわ」
そう。神が審判を下す日だった。私達に関する因果は全てここから始まったのだ。神が呪いをかけると言ったのもこの日、十二家の一部から能力を取り上げたのもこの日、そして、何より初代如月が大切なものを失ったのもこの日だった。
「みんな、分かってると思うけど……………」
先生の言葉に頷く私達。事前に先生からは禁止事項を伝えられていた。今の確認はその中でも最もやってはいけない………………それこそ、私達の目的が潰えてしまうほどのことだった。
「あっ……………」
そうこうしているうちに初代如月が丘の上に現れ、神と対話を始めた。そうか。あの人が私の………………
「っ!?」
そこからは師走先生に聞いていた通りの展開だった。私達が静かに見守る中、神は初代如月に対し、様々なことを告げていく。やがて、それは不穏な気配を漂わせ……………
「くっ……………」
遂に例の場面がきてしまった。初代如月のことを気にして、やってきてしまった家族。そこに詰め寄る神。
「ゆりさん」
「分かってます………………分かってますよ」
それをただ黙って見ていることしかできない私達。そう。先生から、最もやってはいけないと釘を刺されていたのは初代如月達を助けようとする行為だった。理由は単純明快でこの後の歴史が大きく変わってしまうかもしれないからだった。彼らの目の前に姿を現すのはもちろんのこと、遠くから能力を使って助けようとするその行為だけでも十分危険。過去に介入するということはそれほどのものだと先生は強く言っていた。
「ううっ……………」
だからこそ、私達は全てが終わり、初代如月が丘から姿を消すまで何もすることができなかったのだった。




