第十話:因果
「拓也君……………非常に言いづらいんだが」
両親の帰りを待っていた拓也は急に見知らぬ大人に呼ばれ、ある部屋へ通された。そこはつい先程まで会合で使われていた場所であり、欠席者を除く十二家の面々が揃っていた。
「な、何ですか?っていうか、おじさん達、誰?」
拓也は知らない大人達に囲まれていることに恐怖を覚え、恐る恐る訊いた。すると、大人達は笑みを見せて拓也を落ち着かせようと優しく話しかけた。
「ごめん、怖かったよね。おじさん達は拓也君のお父さんとお母さん……………そのお友達なんだよ」
「そうなの?」
「うん……………で、拓也君をここに呼んだ訳だけど」
「?」
「実はその……………拓也君のお父さんとお母さんが事故に遭ってしまったんだ」
「えっ……………」
「どうやらスーパーに向かう途中、急に横からリムジンが突っ込んできたらしい。如月さんの方は普通の自動車だったけど、相手はリムジン……………だから、こっちの方が被害が大きく二人共、すぐさま病院に運ばれたんだけど………………」
そう言って首を振る弥生重吾。拓也の率直な感想としては到底信じられないというものだった。無理もない。さっきまで一緒にいた自分の両親がそんなことになっているなんて、一体誰が信じられるのか………………
「………………その病院って、どこ?」
「……………行きたいかね?」
「うん」
「幼い子にこんなことを言うのは酷なことだが…………………気をしっかり持てとは言わん。だが、覚悟だけはしておいてくれ」
弥生重吾のその言葉の意味が分かるのは拓也が病院で両親の姿を見た時だった。そこは大きな修羅場と化していた。泣き叫ぶ小さな子供、それをあやすことのできない両親、どうしたらいいのかと頭を抱える大人達………………この一件により、如月拓也はそれまでの記憶を失うこととなってしまったのである。
「可哀想に……………まだ幼いでしょ?」
「ええ。防衛本能が働いて、今までの記憶を失うことでどうにか精神状態を持ち直したみたいだけど」
「ここから先が心配ね」
「ええ……………それよりも聞いた?」
「何を?」
「あの事故、どこか不自然だったらしいのよ」
「そうなの?」
「ええ。相手側の車に異常は見られなかったんだって。しかも乗っていたご老人も無事だったらしいわよ」
「それってリムジンだからじゃなくて?ほら、長い車だし、衝撃とかも伝わりにくいんじゃないの?」
「でも、乗っていたのがご老人よ?」
「へぇ〜……………不思議なこともあるもんね」
「オリヴィア様」
「待っていたわ。では黒津、報告を」
「はい。今回の一件、やはり原因は不明だそうです」
「そう」
「しかし、これは関係あるかどうか分かりませんが……………」
「何?」
「もしも、あそこで如月夫妻の車にぶつからなければ、あのリムジンはおそらく、その先の橋から落ちて海に沈んでいたとのことです」
「何ですって?」
「しかもこれまた、何の偶然かは分かりませんが、そのリムジンに乗っていたご老人というのが……………」
「もう何を言われても驚かないわよ?」
「葉月千影………………葉月家当主のお母様に当たられるそうです」
「っ!?そんな偶然が!?まさか!?」
これにはオリヴィアも驚愕の表情を浮かべ、しばらく固まっていた。すると、不意にオリヴィアの耳に誰かの声が届いた。
「"因果は回る"」
偶然か、必然か。その言葉は同時刻、十二家の者全てに聞こえていたという。そして、それはまるで鈴を転がしたような綺麗な女性の声だったそうな。
これにて過去編終了です。次話からは未来編となりますのでどうぞよろしくお願い致します




