第七話:天罰
「人間は愚かで醜い生き物だ!!」
突然、丘の上に呼び出された如月が聞いたリジオンの第一声はそれだった。如月はどういうことなのか、そもそも自分が何故ここに呼ばれたのかが分からず、呆然としていた。
「………………」
「如月、今日あなたをここへ呼んだのは他でもありません」
「?」
「あなた達へ現在進行形で施している援助…………それを全て止めます」
「…………………」
この間とは打って変わったリジオンの態度に如月は困惑の色を隠せずにいた。急な心変わりもいいとこだ。それに援助もやめる………………それはつまり、リジオンが現れた日から現在に至るまで続く川や森、山、土壌などへ神の力が行き渡らなくなることを意味していた。
「それとあなた達に授けた力も返してもらいます」
「っ!?」
これには如月も流石に驚いた。まさか、そこまでするとは思わなかったのだ。つまり、リジオンが言うことを総合して考えると現在の蒼最が彼女がやってくる前の状態に戻るということになる。もちろん、あくまで援助をやめるというだけだから、現在の自然の状態を維持し続ければ、それ自体はなんとかなるだろう。しかし、彼女の言ったもう一つのことがやばい。現在の十二家は能力があることで蒼最を統治している。それは直接的な力を使わずともその力があるというだけで抑止力となり、人々を従えているのだ。それがなくなるということは今まで抑えつけてきた者達から反乱を受けるということ。そうなれば、やっと手に入れたこの環境もめちゃくちゃになってしまう………………どころか、以前の状態の方が良かったとさえ思えるだろう。ここで如月は疑問に思った。今回の処置は最初とは真逆のものだ。一体何が彼女をそこまで思わせるに至ったのだろうかと。
「……………一つ質問があります」
「なんでしょう?」
リジオンが如月に向ける視線は以前のように友好的なものではなくなっていた。やはり、彼女は神だったのだろう。その威圧感は凄まじく、思わず腰が抜けて立てなくなってしまう程だ。間違いなく、人間が放てるものではない。しかし、如月にとってはそんなことよりもリジオンがそんな表情をしていること自体にショックを受けていた。
「私達に何か至らないところがあったのでしょうか?」
とにかく理由を訊かなくては納得ができない。如月は意を決して、リジオンの言葉を待った。すると、彼女の口から飛び出したのは予想を遥かに超える内容だった。
「私の恋人であるはずの人間が家庭を持っていたのです…………………この場合、あなた達の言葉で言うと"不倫"となるのでしょうか」
「………………」
あまりにも衝撃すぎる内容に如月は口をポカンと開けたまま、固まってしまった。そもそもリジオンに恋人などいたのか…………いたとして、それが人間?どういうことだ?いや、その前にそれが今回のこととどう関係が……………はっ!?まさか!?……………如月は頼むから違ってくれと祈りながら、リジオンに恐る恐る訊いた。
「その人間とは………………蒼最の者でしょうか?」
「はい。しかも皆を導くべきはずの"十二家"の者です……………全く、なんてことをしてくれたんでしょうね」
本当になんてことをしてくれたのだろうか……………如月は思わず、ここで頭を抱えたくなった。しかし、今すべきことはそうではない。仮に一部の者が認めていなくても彼はリーダーなのだ。ここで彼がすべきことは蒼最の者達を守ることだった。
「その者の代わりに謝罪させて頂きます。この度のこと、大変申し訳ございませんでした」
「あなたに謝られたところで何の解決にもなりません。こんな屈辱はありませんよ」
「心中お察しします………………ところで、その人間は今どこに?」
「知るもんですか。私にバレたと思って、どこかへ行ってしまったんでしょう。今思えば、何故あんなくだらない人間にうつつを抜かしていたのか………………本当にどうかしていました」
「………………」
「如月……………あなたが本当に私に対して申し訳ないと思っているのなら、罪を償いなさい」
「罪を…………償う」
「ええ。私からあなた達に与える天罰はさっき言った援助の停止と能力の返還。そこに新たに呪いと如月の贖罪を加えます」
「呪い?」
「呪いとはあなた達"十二家"に対するものです。それはきっとあなた達の子孫に対して、未来永劫続くことでしょう。因果は回っていきます。悪いことをしたら、必ず返ってくる……………誰かから習いませんでしたか?」
「そ、そんなっ!?私達なら、ともかく子孫に罪はないでしょう?」
「いいえ。私をコケにした者達の子供や孫がヘラヘラと笑って暮らしているのが許せません。驚きました?神にここまで感情があることを……………私が一番驚いていますよ」
「………………ちなみに私の贖罪とは?」
「私は今回、大切な人に裏切られ、色々なものを失いました。だから、あなたも大切なものを失うべきです」
「えっ……………」
「あなたにとって、大切なものは……………へぇ〜家族ですか」
「っ!?思考を読まれた!?……………って、まさか!?」
そこで冷たい笑みを浮かべたリジオンは如月にこう告げた。
「今すぐ、その者達をここに連れてきなさい」




