第五話:不穏
始まりは皐月からの些細な報告だった。ちなみに皐月が神から授かった能力は"忍"である。文字通り、どこかに隠れ忍んだり、はたまた壁を走ったり、飛び道具を上手に扱えたり……………といった忍者のような能力だった。そして、この能力を上手く活かし、今まで十二家を裏から支えてくれていたのだ。表の水無月、裏の皐月……………この二つによって、十二家は機能していたのである。しかし、皐月の諜報活動は如月・睦月・霜月・師走の四名しか知らず、他のメンバーは皆、水無月が十二家を支えてくれていると思っていた。理由は至極明快。十二家も一枚岩ではなく、いずれ裏切り者が現れる可能性があると師走が如月に助言した為だ。ちなみにリーダーにも表と裏があり、全員が把握している表の方は如月で裏の方は師走であった。元々、如月は慎重かつ極度の心配症であった。だから、あの丘で神によって選定された日、如月はたまたま近くに来ていた睦月、霜月、師走の四名を最初の仲間とし、裏から支える人物も必要だろうという話し合いをしたのだ。そこで裏のリーダーとなったのが師走だった。この四人は通常の十二家での会議とは別で数々の話し合いを重ね、彼らにしか知り得ないこともあった。そこに時々、混じって話を聞いていたのが皐月という訳である。皐月には信頼に足る人柄と実力があり、彼らも一目を置いていたのだ。だからこそ、彼女のもたらす報告にはたとえ、どんなに些細なことであったとしても耳を貸す必要があったのだ。
「怪しい動きをしている者がいる?」
「はい。まだ、その人物の特定までは至っていませんが、こそこそと裏で動いているのは確かです」
「そ、そんな……………」
皐月の報告に戸惑う如月。そして、それを心配そうに見つめる睦月。そこへ師走から声が掛かった。
「今さら嘆いたところでどうしようもないでしょう?こうなることは予想の範囲内なのだから」
「いや、でも……………」
「まさか、全員と仲良しこよしでやっていけると思って?そんなの不可能でしょ。確実にあなたのことをよく思わない人は出てくる………………でも、皮肉よね。たった十二人ですら分かり合えないのに私達はそれ以上の人々を統治・管理しようとしている。それこそ、神じゃないと無理なのに」
「………………」
「とにかく、こそこそと動き回るネズミが何をしでかすか分からない今の段階では今まで以上に警戒を続けるしかないわ。ここにいる全員、より一層気を引き締めていきましょう」
師走の言葉に頷く皐月と睦月、霜月。それに遅れるようにして、如月もゆっくりと頷いた。
「本当にみんなで助け合いながら暮らしていくことはできないのか……………」
この時の如月のか弱い呟きは風に乗って、どこかへと消えてしまったのだった。
★
「おい、卯月」
「あ、文月さん」
「お前、この間、如月に対する不満を吐いていたよな?」
「っ!?す、すみません!お願いですから、そのことは……………」
「勘違いするな。告げ口なんてしねぇよ。むしろ、その逆だ……………実は俺も如月にはちょっと思うところがあってな」
「な、なんだぁ…………そうなんですか……………良かった」
「そんなにビクビクすることはねぇよ。実際、俺達みたいに反如月派の奴らは結構いるぜ?表立って言うと消されるかもしれないから、隠れてるだけで」
「そうなんですか?……………ってか、僕なんて少しだけ不満があるってだけですよ?そんなことぐらいでも消されちゃうんですか?」
「ああ。如月は器の小さい男だからな。何で未だにリーダーを続けられているのか分からないくらいにな」
「本当、何でリーダーなんてやってるんでしょう」
「卯月、一つ提案があるんだが」
「何ですか?」
「実は秘密裏に"如月被害者の会"というのを設立していてな…………そこである作戦が持ち上がったんだが、お前やらないか?」
「非常に興味がありますね。ちなみにどんな作戦なんですか?」
「それはこの作戦を引き受けると誓ってからじゃないと話せないな」
「えっ、そんなに危険なんですか?……………まぁ、別にいいですけど」
「そうか!お前なら、そう言ってくれると思ってたぜ!」
「ち、ちょっと!痛いですって!あまり叩かないで下さいよ!」
「お、すまんな」
「で?その作戦ってどんなのですか?僕は一体何をしたら、いいんですか?」
卯月の問いにニヤリとした笑みを浮かべた文月はこう答えた。
「安心しろよ。やることは至極簡単だ。お前は今から………………神に如月のことをチクれ」




