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窓際の君  作者: 気衒い
蒼最の昔日〜過去編〜

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第一話:誕生

その昔。まだ、その土地に名すらなかった時代。人々はどうにか寄り添い合いながら、細々と暮らしていた。元々、作物の育ちにくい土地であったことに加えて、外部との交流もなかった為、年々、人口が減り、土地の規模も縮小していた。そして、それを嘆く一人の男がいた。


「あぁ……………こんなんじゃ、これから先どうすれば」


「あなた、諦めないで」


「そうだよ父ちゃん!俺、質素だけどこの暮らし、好きだぞ!!」


「私も!だから、みんなで頑張ろ?」


家族に鼓舞された男は勇気付けられ、再び立ちあがろうとする。しかし、現実はそう上手くはいかない。やはり、すぐ目の前に差し迫る問題に直面するとどうしても心が折れそうになった。それをどれくらい繰り返した時だろうか………………ある日、男が丘の上に立つと空が突如として蒼く光り輝いたのだった。


「っ!?」


それは今まで男が見たどんな景色よりも美しく綺麗だった。すると、そんな空の様子に違和感を覚えた者達が続々と丘の上にやってきた。


「これはっ!?」


「なんだ!?」


「眩しいっ!!」


その数は少なく見積もっても十人を超えていた。その者達全員が一旦空の様子を見てみようと上空に視線を向けると……………途端に心を奪われた。


「「「「「……………」」」」」


その時間がどのくらい続いただろうか。しばらくするとその光は形を変え、やがて………………人となった。


「「「「「美しい……………」」」」」


その人物はおそらく、この世のどんなものよりも美しい絶世の美女だった。その人物の特徴を挙げるとするのなら、まず頭の数センチ上に輪っかのようなものが浮かび、肩からは真っ白な翼が生えていた。服はギリシャ神話で見るような薄い布のようなものを身につけており、髪は金、瞳は蒼色。それで首からは金色の丸い輪っかのネックレスをぶら下げ、何より両目を瞑り両手を胸の上で交差するように組む姿からは何かに祈る敬虔な信者のようにも神に仕える天使のようにも見えた。


「「「「「………………」」」」」


およそ理解できないことが起こった時、人は固まってしまって動けなくなる。今回、彼らはまさにそんな状態に陥っていた。すると、それを察したのか、口火を切ったのは未だ空中に浮かぶ絶世の美女からだった。


「地上の皆さん、初めまして。私はリジオン。あなた達の世界でいうところの………………神です」


「「「「「か、か、神っ!?」」」」」


「普段、天上の世界にいる私が滅多に来ることのない地上へとこうして舞い降りた目的、それは……………あなた達の救済を行う為です」


「「「「「……………は?」」」」」


美女の正体もびっくりだが、続いて明かされた目的についても男達は目が点になり、頭が理解に追いついていなかった。


「あなた達がいかに頑張って暮らしているかは天上から見ていました。そして、思ったのです。あなた達の現状がその苦労に見合ってはいないと」


「「「「「……………」」」」」


「私はそれに対して胸を痛め、可哀想で不憫でならないと不眠になりました」


男達は美女が胸に手を当てる仕草にだらしない顔になり、しかし後半の言葉遊びに気付くと一転して、訝しげな顔をした。いまいち美女が掴めない人物だったからだ。まぁ、美女…………リジオンの正体が彼女の言う通り、神であるのなら、掴めない人物であるというのは当然なのだろうが。


「そこのあなた、名前は?」


「へっ!?俺!?」


リジオンが指を差した人物はこの丘に最初からいた家族に鼓舞されていた男だった。男は突然のことに驚きながらもリジオンの質問に答えるべく自己紹介をしようとした。


「ええっと、俺の名前は………………」


「いえ、やっぱりいいです」


「えっ!?」


しかし、それはリジオンの気まぐれによって制されることとなった。そして、続けてまたもや驚くべきことを彼女は言った。


「どうせ、今日から違う名を名乗るのに前の名前など必要ありませんしね」


「へ?違う名?」


「そうです!この土地に住む全ての方々は今日この瞬間から、この土地と共に生まれ変わる!その第一人者及び見届け人として、あなた方はこの土地の代表となるのです!!そうなれば、当然新たな名が必要でしょ?」


リジオンの言ってることは彼らにはさっぱりだった。というか、どこの誰が聞いても同じように理解はできない…………それほど、無茶苦茶なことをリジオンは言っていた。やはり、神という存在は人間の常識では推し量れないのだろうか。


「で、私が今、指名したあなた!」


「は、はいっ!!」


「そうですね、何がいいか………………はっ!そういえば、この国には暦というものがあるそうですね?」


「ありますが……………それが何か?」


「確か、それは数にして、十二……………ちょうど、あなた達と同じ数ですね」


「えっ……………まさか」


「あなた!今、この瞬間から"如月"という名字を名乗りなさい!暦の中でも最初のものに選ばれたというのは名誉なことですよ!感謝なさい」


ふふんっ、と得意げに語るリジオン。そして、続け様に彼女はこう言った。


「それから、この土地は今日から"最も蒼く光り輝いた土地"ということで"蒼最"と名付けましょう♪」


終始、上機嫌な神、リジオン。しかし、ここでたった今"如月"という姓を受けた男からツッコミが入る。


「あの…………それじゃ、"最蒼"という名前になるんじゃないでしょうか?」


「…………………あ」


その瞬間、真っ赤な顔になるリジオン。彼女はそこで慌てて取り繕うように言い訳を始めた。


「わざとだから!ほら、逆の方がなんかカッコいいし?……………本当なんだから!だから、その疑いの眼差しはやめて!!」


「では、"蒼最"でいくと?」


「いくの!!絶対に!!」


こうして急遽、神の……………勢いにまみれ、意地を張った意見によって、土地と彼らの名前が決められてしまったのだった。そして、ここから"蒼最"の全てが始まったのである。






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