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小話とか卒業パーティとか等

モテる公爵令嬢は、話の通じない王太子殿下や竜神を振り切り、幸せを掴みたい。

作者: ユミヨシ

「やぁ。君達。今日の私は一段と眩しいだろう。」


白い歯を煌めかせて、学園の廊下を歩きながら、金色の髪の王太子エルンストはにこやかに令嬢達に笑顔を振りまく。


「きゃぁ。王太子殿下。今日も麗しいですわーー。」

「本当に、なんてお美しい。目の保養ですわー。」

「これ、わたくしが刺繍したハンカチですの。受け取って下さいませ。」


沢山の令嬢達が、王太子殿下に群がって、プレゼントを渡したり、黄色い声を上げたり、

今日も華やかな一日が始まるようだ。(王太子殿下にとってだが)


その様子を生温かい目で見ている令嬢がいた。


「何でわたくしは、アレの婚約者なんでしょう。」


ディアナ・サリスティリア公爵令嬢である。

この銀の髪をロール巻きにした美しい令嬢は、非常に不服であった。

アレの…エルンスト王太子の婚約者と言う立場である。


将来はこの国の国王になるのだ。

だから、苦言を呈した事もあった。


「王太子殿下とあろうお方が、役者みたいに愛想を振りまいて、よろしいのでしょうか?

もっと、自分の行動に威厳を持たれたら良いとわたくしは思いますが。」


エルンスト王太子は白い歯を煌めかせながら、


「私の美しさに皆、酔いしれているのだ。良いではないか。そんな令嬢達に私はサービスをしたいのだ。飛び切りの笑顔でな。」


ディアナは思った。


これ程、イタい行動をとる(おバカな)王太子殿下を婚約者に持った令嬢は過去にいただろうか?

もうこれは、何としても婚約破棄してもらいたい。

それで思い切ってエルンストに言ってみる。


「わたくしと結婚しなくても、あれだけファンがいるのですから、あの中から選んだらよろしいのではなくて?」


エルンストは真顔で、


「何を言う。ディアナ程、聡明で美しく高貴な令嬢はいないのだ。だから、王妃にするのならディアナだ。しかし、他の令嬢も捨てがたい。側室は何人にしようか。これは選び放題だな。」


あああ…何としてもこのおバカ王太子から逃げ出したい。


ディアナはしばらく領地に戻る事にした。

学園の卒業に必要な単位はすでに取得している。

だから、もう学園に通う必要性は感じなかった。


ともかく、あのエルンストから距離を取りたい。


休学届を出し、翌日、公爵家の馬車に乗って、ディアナが向かおうとすれば、

向こうから、豪華な王家の馬車がこちらにやってきて、

そこから降りて来たのは、そう、エルンスト王太子殿下だった。


「やぁ、ディアナ。君が休学届を出して領地に帰るって聞いたから、ついでに私も休みを取る事にしてね。君の領地で過ごそうと思うんだ。素敵だろう?」


「え????王太子殿下…お休みして学園を卒業できるのですか?」


「もう、単位は取得済だし。君がいない学園生活なんて、退屈でね。

沢山の女性達を寂しがらせてしまうが、愛するディアナの為だ。

君も私がいなくて寂しいだろう?」


キラリと白い歯を煌めかせて微笑むエルンスト王太子。


ディアナは切れた。


「不敬を承知で、言わせて頂きますが。わたくしは、貴方様と離れたくて、

領地に帰ろうとしているのです。ですから、ついてこないで下さいますか?」


「ああ…なんてツンデレなんだろう。そこの所が私の好みだ。

でも、時には素直になった方がいい。ディアナ。素直な女性は可愛いものだよ。」


「ですから。わたくしは、素直に物を言っているのです。

いつも言っているではありませんか。行動に威厳を持てと。それなのに、ヘラヘラと愛想を振りまいて。わたくしは、嫌になったのです。ですから、領地に帰ります。

婚約破棄でも何でもしてくださいませんか?その方がわたくしは幸せになると思いますわ。」


「それは出来ない。王妃はディアナじゃないとダメだ。側室は誰でもいいけれどね。」


バンと馬車の扉を閉める。


「出発して。」


御者に領地へ向けて馬車を出すように、命令した。


背後を振り返ってみると、エルンスト王太子が馬車に乗る姿が見えた。


着いてくるのね…頭がとても痛くなるディアナであった。



領地へ着くと、顔馴染みの、豊穣の神様が出迎えてくれた。


彼は竜の化身で、サリスティリア公爵家の領地を守ってくれている神様でもある。


美しき長い銀髪を持ち、角が生えている、美男の神様、ゼティウスは、

屋敷の前で待ち伏せしていて、ディアナに会うと嬉しそうに、


「ああ、久しぶりに会えて嬉しい。我はずっとディアナの帰りを待っていた。」


「ゼティウス。久しぶりね。わたくしの事なんて忘れたと思っていたのに。」


「忘れる事なんてありえない。我が番。どうか私の妻になっておくれ。」


「それはお断りしたはずだわ。わたくしはエルンスト王太子殿下の婚約者なのですから。」


この竜神も結構、しつこく付きまとってくる。

我が番とかなんとか言って何回もプロポーズしてくるのだ。

領地を守ってくれる神様なので、冷たく出来ないのが悩みだ。


そこへ、後をしつこくついて来たエルンスト王太子が馬車から降りて、

竜神ゼティウスを見ると近づいて来た。


「お前はディアナの何だ?」


「私はディアナの番だ。」


「番?それなら私はディアナの婚約者だ。ディアナは私の物だ。近づかないでもらいたい。」


「お前が婚約者か。人間ごときが生意気な。ディアナの美しさ、聡明さは私にこそふさわしい。」


「何を言うか。こんな田舎に埋もれさせるのは惜しい美しきディアナは、我が王妃にふさわしいのだ。」


「何が田舎だ。この壮大なる自然こそ、ディアナの美しさにふさわしい。」



ディアナは頭が痛くなった。


そこへ、幼馴染のアレク・ハルゲルトが通りかかった。

彼は伯爵家の次男で、魔導士に弟子入りをし、魔法を勉強している青年である。


ディアナはアルクに駆け寄って。


「ねぇ。アレクお願い。あの二人がしつこくて。わたくしをこの場から連れていって。」


いきなり言われても困るだろうと思いながらも、アレクに頼むディアナ。


アレクは目を見開いて驚いていたが。


「いいのかい?」


「ええ。構わないわ。」


「それなら…」


アレクが呪文を唱える。


魔法陣が展開して、ディアナの身体を抱き締め、アレクが熱くディアナの耳元で囁いてきた。



「君の事がずっと好きだったんだ。王太子の婚約者になってしまって、諦めていたんだけど…俺と一緒に逃げよう。」


「ええええ???」


この場から連れていってとは言ったけれども、逃げよう???って…


ディアナはアレクに抱き上げられて、魔法陣でその場を転移した。




そして…今、ディアナはどうしているかというと…


王都から遠く離れた地方都市で、アレクの婚約者となって暮らしている。

もうすぐ18歳になるので、誕生日を迎えたら結婚するつもりだ。


どうしてこうなったのかしら…


両親とは仲があまりよくなかったので、家族に対する情も無かった。

幼い頃からアレクの事は好ましく思っていた。だから、思わず縋ってしまったのだ。

そして今、アレクはディアナを愛してくれて、優しく大事にしてくれる。

ディアナ自身も、アレクの事が好きで好きでたまらなくなって、とても毎日が幸せだ。


しかし、あのストーカーじみたエルンスト王太子と、竜神ゼティウスをあの場に置いて来てしまった。


見つからない事を祈っていたのだが…



茶髪で髪の短いアレクは笑うと八重歯が可愛い青年である。


得意の魔法を使い、人々の役に立つ仕事をして、お金を稼いできてくれる。

ディアナも何か役に立ちたいと、子供達に文字を教える仕事についたのであった。

教会で、子供達に文字を教えながら、過ごす日々は充実していてとても幸せである。


夕方、アレクが迎えに来てくれて、

魔法陣を使うのは、とても魔力を使うので、二人で手を繋いで、家に帰る。


「今日はシチューを俺が作ってあげるよ。」


「まぁ、アレクのシチュー美味しいからわたくし、好きだわ。」


なんて穏やかで愛しい日々。ディアナは幸せだった。



そこへ、現れたのだ。


二人一緒に、エルンスト王太子と、竜神ゼティウスが。


「こんな所にいたとは、私と共に帰ろう、王都へ。そして王妃になっておくれ。」


エルンスト王太子が熱くプロポーズすれば、


ゼティウスも負けじと、


「我が番。どうか私と一緒に来ておくれ。ディアナがいない日々はとても寂しい。

愛しているよ。ディアナ。」


ディアナはブチ切れた。


「わたくしは、もう、アレクの婚約者なのです。ですからほっておいて下さらない?そもそも、女性が嫌がっているのに、追いかけ回すって最低な男のする事ですわ。

エルンスト王太子殿下。わたくしが好きでしたら、どうして、他の女にヘラヘラしていらしたのかしら?わたくし、そういう男性大嫌いなんですの。

それから、ゼティウス。

番ってどういうことかしら?わたくし、あなたの番になった覚えがなくてよ。

わたくしの愛するお方はアレク一人。

ですから、帰って下さらない?」


アレクが抱き締めてくれた。


「俺の愛するディアナにこれ以上付きまとうようだったら、どうしてくれようか…

俺はこの国で、師匠に褒められるくらいの魔導士なんだけど…。

攻撃魔法なら得意なんだよね。それとも、呪いの魔法を発動させようか?二人とも顔には自信があるようだから…それを壊してもいいかもしれないね…」


二人は真っ青になって、


エルンスト王太子は、


「すまなかった。二度と、ディアナには近づかない。」


ゼティウスも後ずさって、


「私も同様だ。すまなかった。」



そして、二人とも一目散に逃げていったのであった。


アレクが笑って、


「ちょっと脅しすぎたかな。魔法の腕はまだまだなんだけど…」


「あれくらいがちょうどいいですわ。アレク…有難う。」


「愛しいディアナの為なら、俺は戦うよ。」



まさか、まだまだしつこく二人が現れるとは、その時のディアナとアレクは思いもしなかった。




丁度、一週間後、エルンスト王太子殿が、魔導士と騎士団100人を連れて、豪華な馬車で二人の家の前に再び現れた。


キラキラの豪華衣装のエルンスト王太子は、扉を騎士団長に強引に開けさせると、驚くディアナに向かって。


「迎えに来た。魔導士も連れて来たから、呪いの魔法は効かないよ。

よくよく考えてみたら、ディアナとの婚約を破棄した覚えはないのだ。

それなのに、他の男と婚約を結ぶとは、お前は罪人ではないのか?

この王太子たる私の寛大な心を持って許してあげよう。

さぁディアナ。私と共に来るがいい…行きたくないというのなら、強引に連れて行く。」


その時、


「ちょっと待った。」


こちらもキラキラの衣装で、竜神ゼティウスが100人の部下を連れて、

現れた。


「私が番と言っているのだ。ディアナ。私は竜神ぞ。神のお召しを断るとは。

許さぬ。強引にもさらっていこう。愛しのディアナ。」


アレクはディアナを抱き締めて。


「ディアナは渡さない。転移っ。」


魔法陣を展開すると転移した。


街の広場に転移する。

勿論、エルンスト王太子も、竜神ゼティウスも、その騎士団や部下達も魔法陣を展開し、追いかけて来た。


しかし、二人の前で見えない壁に弾かれて、

ばらばらと皆、広場に転がる。


二人に近づく事が出来ないのだ。


エルンスト王太子が叫ぶ。


「何故、弾かれたっ?」


竜神ゼティウスも悔しそうに。


「何故だ?」


すると、金色に光る門がバンと音を立てて、二人と、エルンスト王太子、ゼティウス達の間に出現する。


アレクがニンマリ笑って。


「この門が何か解るよね。」


ディアナもにっこり微笑んで。


「この門を越えたら、国境を越える事になるわ。まずいですわね。」


エルンスト王太子が叫ぶ。


「何故?お前らは越えられたのだ?」


アレクが説明する。


「俺さ。こちらの王国の王族に貸しがあるんだよね。だから、こちらの国の通行手形持っているんだ。勿論、ディアナの分もね。だから、魔法陣で移動も出来るんだよ。ほらほら、こっちにおいでーー。来たら、一気に国同士の戦争になるよーー。困ったねぇ。」


すると、竜神ゼティウスが叫ぶ。


「私は、そちらへ行けるはずだ。何故?何故、行けない。」


すると、金色に輝く一人の女性が現れて。


「わたくしの治める都市を、竜神ごときが荒らすというのか?」


「女神アリエナスっ。」


「おや、お前は…なかなかいい男じゃないか。こちらへ来たいというのなら、わたくしの男にしてやりましょう。さぁ…いらっしゃい。」


「いや…遠慮をっ。」


「遠慮しなくていいのよ。さぁ…」


竜神ゼティウスの部下たちがなすすべもなく、ゼティウスは女神アリエナスにさらわれてしまった。


女神アリエナスは男好きで知られているどうしようもない女神なのだ。骨の髄まで吸い尽くされるだろう。


エルンスト王太子が歯ぎしりしていると、そこへ、エルンスト王太子の父である国王が魔法陣を展開して、魔導士と共に現れた。


「お前は隣国と戦争をするつもりか?」


「いえっ。父上。私はディアナを取り返そうと。私とディアナとの婚約は破棄されておりません。ですからっ。」


「えええええいっ。ディアナとの婚約以前に、なんだ?この企画書は。

側室100人計画だと?我が王室を破産させるつもりか?

今回の件といい、お前には愛想が尽きた。

廃嫡を申し渡す。どこぞなりと行けばいい。」


「そんなっーーー。父上っーーーー。」


国王陛下は、ディアナに向かって。


「息子が申し訳ない事をした。ディアナ。安心して暮らすとよい。

こやつは王太子ではなくなった。婚約もなかった事にする。」


「有難うございます。国王陛下。」


アレクと共に、ディアナはにっこりと笑う。


やっと愛するアレクと共に安心して暮らせるのだ。



それから、風の噂に聞いた話によると、

エルンストは、平民に落ちた後、劇団に入り、キラキラ王子役でそれはもう、

人気者になっているそうだ。天職なのだろう。女性関係は相変わらず派手でとっかえひっかえしているらしい。


ゼティウスがどうなったのかは知らない。

女神アリエナスに捕らえられているのか、二度と姿を見せる事はなかった。





やっと平和になりましたわ。

あれ以来、二人とは縁が切れました。


わたくしは、アレクと結婚して、可愛い子供達に文字を教えながら、

幸せに暮らしております。


もうじき、わたくしの子も産まれますの。

色々ありましたけれども。愛する人と平和に暮らせるのが一番幸せだと思います。












☆☆☆(アレクサイド)



アレク・ハルゲルト伯爵令息が、ディアナ・サリスティリア公爵令嬢に初めて出会ったのが、互いにまだ10歳の時であった。


父である伯爵に連れられて、公爵家に挨拶に伺った時に、紹介されたのだ。

銀の髪の碧い瞳の美しい令嬢を。


ああ…なんて美しくて可愛い方なのだろう。


幼いながらもアレクはディアナを見た途端、恋に落ちた。


しかし、そんなアレクの様子を見て何か察したのか、父であるハルゲルト伯爵は、


「ディアナ様は、王家の第一王子エルンスト様と婚約なさっている。

高貴な方だ。過ぎた望みを抱くではないぞ。」


エルンスト王子が羨ましい。


王族と言うだけで、ディアナを婚約者に出来るのだ。


ディアナがアレクを見てにっこり微笑んだ。


「アレクって言うの?わたくし、ディアナと申します。よろしくお願い致しますね。」


「よろしくお願い致します。ディアナ様。」



何としてもディアナを手に入れて見せる。


この頃から、アレクはどうやってディアナを手に入れるかだけを考えて、生きる事となった。



ディアナがサリスティリア公爵領地に滞在している時は、よく遊びに行った。


「ディアナ様。綺麗な花を見つけました。差し上げたくて。」


小さな花束を作って持っていけば、ディアナはとても喜んでくれた。


「有難う。アレク。アレクは優しいですね。」


「いえ。ディアナ様の為なら。」


「様はいらないわ。わたくしはアレクとお友達になりたいの。」


「そ、それじゃ…ディアナ。」


「はい。アレク。」



領地でディアナと幸せな時を過ごしたアレク。

本当に幸せだった。だから、13歳になって、ディアナが王立学園で勉学に励むために王都へ行ってしまった時は寂しくて寂しくて。


王都に用事がある風を装って、時々、ディアナに会いに行く。


ディアナは喜んで出迎えてくれた。


「アレクが訪ねてきてくれるととても嬉しいわ。」


「俺も、ディアナに会えると嬉しいし、幸せだ。これ、うちの伯爵家の事業で作ったロールケーキ。好きだろう?」


「ええ。葡萄が入っていて美味しいのよね。これ…」


ディアナは浮かない顔をしていた。


「何か悩みでも?」


「ええ…実は、エルンスト王太子殿下の事ですの。

女性にモテてモテて。わたくしは、王太子殿下らしく、威厳のある行動をといつも言っているんだけど。」


「それは、頭が痛い話だね。」


「ええ…毎朝、学園の廊下で待ち受けている女生徒に、キラキラと笑顔を振りまいて喜んでいるの。どうしたらよいかしら。」


「そうだね…君は婚約者なのだから、注意した方がいいんじゃないかな。」


「ええ、そうね。注意する事にするわ。」



- 上手くいっているようだな。俺のたくらみが -


あああ…そう、エルンスト王太子が女生徒達に興味を持つようになったのは…

実はアレクのせいなのである。


ディアナを愛すれば愛する程、浮気がしたくなる魔の薬を、エルンスト王太子が口にするように、メイドに頼んで盛ったのだ。


この薬を作ったのは、自分の母である女神アリエナス。男関係が激しいこの女神は、色々な男に手を出して、ハルゲルト伯爵との間に生まれたのが、アレクなのである。

ちなみに兄は女神の子ではないのであるが、ハルゲルト伯爵は美男の部類だ。

だから、女神アリエナスに目をつけられて誘惑に乗ってしまったのである。


女神アリエナスはアレクを産んだら、育てる気もなく、ハルゲルト伯爵に押し付けた。

妻に先立たれていたハルゲルト伯爵は乳母を雇い、何とかアレクを育てたのである。


自分の母と言うにはあまりにも、軽蔑に値する女神アリエナス。


そのアリエナスにアレクは会いに行った。


そして、頼んだのだ。


「俺の母親なら、一つぐらい、息子の頼みを聞いてくれてもいいでしょう。アリエナス。」


数人の愛人たちに囲まれながら、女神アリエナスは口端を引き上げて邪悪に笑う。


「そうじゃの。お前の望みはなんじゃ?」


「ディアナ・サリスティリア公爵令嬢を手に入れる事。

それから、エルンスト王太子の破滅。もし、力を貸してくれたら、いい男を紹介するよ。」


「ほほう。いい男とは?」


「ディアナに竜神が付きまとっているんだ。我が番とか言って。領地に居座っている。

そいつを上手く、おびき寄せるからさ。それからはアリエナスが、いや母上が上手くやるといいよ。すごい美男だし…」


「解った。それならば、薬を作ってやろう。王太子を破滅させる薬をな。」


「嬉しいな。母上。大好きだよ。」


心にもない事を言ってしまったが、アレクはその薬を使って、エルンスト王太子を破滅させるつもりだった。


ディアナを愛する程、他の女性を好ましく思う魔の薬。


それが、効いているみたいなのだ。


ディアナに悟られてはならない。


ディアナはきっと、エルンスト王太子に見切りをつけるだろう。


その時は、自分がさらって、ディアナの傷心を癒やし、その心を手に入れてみせる。


だから、その時まで。じっと牙を磨いて待つのだ。



アレクは邪悪にニンマリと笑った。



ディアナがついに王太子エルンストに愛想をつかして、領地に戻ったと言う話を聞いた。


こっそりと様子を伺いにサリスティリア公爵家に向かえば、屋敷の前で二人の男がディアナを前に言い争いをしている。王太子エルンストと、竜神ゼティウスだ。


「お前はディアナの何だ?」


「私はディアナの番だ。」


「番?それなら私はディアナの婚約者だ。ディアナは私の物だ。近づかないでもらいたい。」


「お前が婚約者か。人間ごときが生意気な。ディアナの美しさ、聡明さは私にこそふさわしい。」


「何を言うか。こんな田舎に埋もれさせるのは惜しい美しきディアナは、我が王妃にふさわしいのだ。」


「何が田舎だ。この壮大なる自然こそ、ディアナの美しさにふさわしい。」



ディアナが困った顔をしている。


だから、偶然を装ってディアナに近づいた。ディアナがアレクに頼んで来る。


「ねぇ。アレクお願い。あの二人がしつこくて。わたくしをこの場から連れていって。」


「いいのかい?」


「ええ。構わないわ。」


「それなら…」


アレクが呪文を唱える。


魔法陣が展開して、ディアナの身体を抱き締め、アレクが熱くディアナの耳元で囁いてきた。



「君の事がずっと好きだったんだ。王太子の婚約者になってしまって、諦めていたんだけど…俺と一緒に逃げよう。」


「ええええ???」


強引に魔法陣を展開してディアナを連れて、アレクはその場から逃げた。



ついにディアナを手にいれた。


遠く離れた町で、ディアナと二人きりで暮らせるこの幸せ。


あれから、しつこく、エルンスト王太子と、竜神ゼティウスが追いかけてきたが、


国境近くまでおびき寄せて、エルンスト王太子は、国王陛下に見限られて廃嫡されてしまった。


竜神ゼティウスは、国境近くまでやってきた母、女神アリエナスに上手く引き渡す事が出来た。


あああ…全て上手くいった。


アレクはディアナを抱き締めて、幸せに浸るのであった。









☆☆☆(もう一人の男の思惑)





ああ…なんて自由で幸せなんだろう。


まさか、こうも上手くいくとは思わなかったな。


エルンスト王太子は幸せだった。


王族を抜けて、俳優として、今、人気絶頂である。


女性にもモテてモテて仕方がない。


王様になんてなりたくなかった。


だから…なんとしても王族を抜けて、自由に生きられる道を探していた。


ただ、自分は一人息子。国王は自分を離したがらないであろう。


その時、怪しげな薬が毎朝飲む、紅茶に混ぜられている事に気が付いた。

巧妙な薬だ。だが、王家は優秀な魔術師が都度、王族が口にする食べ物、飲み物をチェックし、悪い薬を見つけると発見してくれる。


女神が作った魔の薬。

成程、ディアナが好きであれば好きである程、他の女性にうつつを抜かす薬か…

利用させて貰おう。


エルンスト王太子は薬が効いているように、ふるまう事にした。


ディアナの事は、まぁ政略として王妃にふさわしい女であるとは思うが…

愛しているふりをしてやれば…上手くやれば自分は王族から抜けられるかもしれない。


側室100人計画書を作り、国王に提出した。

しつこくディアナに付きまとって、どうしようもない王太子を演じた。

結果、平民に落とされて。王位は従弟が継ぐことになるであろう。


ああ…自由って素晴らしい。


「自由っていいでしょう?エルンスト様。」


アレクに頼まれて、エルンストに魔の薬を盛っていたメイドの女性が微笑みかける。


「ああ。本当に。毎日が楽しくて楽しくて。」


「それは良かったですわ。出来れば、私の事も、見てくれるといいんですけどね。」


そう、彼女はエルンストの大ファンの一人で、学園に通っていた時、よく刺しゅう入りのハンカチをくれた令嬢である。


「勿論。君の事も見ているよ。世界中の女性は私の物だ。」


「そうですの。ああ、愛しているわ。エルンスト様。」


「愛してあげよう。沢山の女性の中の一人としてね。」


ウインクをするエルンスト王太子。



騒ぎの中心にいたディアナは、何も知る事もなく、アレクに愛されて、今日も幸せ三昧な日々を送っている。


巻き込まれてしまった竜神ゼティウスも、行方不明のままだ(笑)


二人の男達の望むがままの結末で、

今日も平和な日々が静かに過ぎて行くのであった。


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