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第4話

「う…うぅ…」


「クッハッハッハッ!」


「…?…」


 半ば無理矢理に案山子の前へと立たされた俺は、最後の足掻きを始める。


「ゆ…弓とか使っても…」


「魔法じゃないからダメだな」


「石投げるのとか…」


「魔法じゃないからダメだな」


「ゼロ距離は…」


「試験の特性上禁止だ」


 くっそう!とりつく島もねぇ!


「こうなったら…やるしかねぇ!」


「プッククク…」


「…なんで笑う?…」


 俺は、ついさっき見たソフィを思い出しながら、手を前につきだす。


「なんか出ろハァ!」


 ………


「プッ…ククク…クハハハハハ!」


「酷い!酷すぎる!」


「…?…どうして?…支援系でないのなら…子供でも…なにかは出るはず…」


「ククク…それはなぁ………ん?電話か…なんだ?侵入者を学園闘技場に追い詰めたから手伝え?いや、今試験でそこ使って………」


 ドガァン!


「チッ、教師どももウザ………んー?んんんー?」


 闘技場のようになっている試験会場の壁を破壊してやって来た推定テロリストは、此方を見ながら何故か笑みを深める。


「ターゲットはっけーん!ソフィア王女様?我々の為の糧となるために、態々(わざわざ)ありがとうございまーす!」


「…ひっ…いやっ…」


 にたりと笑うその顔を見て、背筋に冷たい物が走った時…俺の身体は勝手に動いていた。


「…っ!…ダメ!」


「まあ、待て」


 先ずは、奴との距離を詰めるために、全力で近づいていく。


「黒田進…彼奴が入学出来た理由を話してやろう」


「…っ!…今はそんな場合じゃない!…進が!」


 後ろで暴れる音を聞きながら、更に前へ…


「上位数パーセントの使い手のみが発現する権利の行使…」


 …どうやら向こうも、此方に気付いた様だ。


「死ねや小僧!」


 敵が放つのは大玉の火球。


「ヒャーハハハ!俺様の火球は特別製!何てったって氷結王女を殺れると判断された逸品だからなぁ!」


 学園長が放ったそれよりも、数段大きい火球を…俺は………


「ブッタ切る!」


「ヒャーハハハ!丸腰の状態でなに言ってやがる!」


「…進!」



「武器の発現を、奴は既に体得している」



「シャオラ!」


 ザン!ドガァン!


「………うそ…でしょ…」


「なんだと!ふざけるな!事前情報に無いぞ!」


「大人しく捕まっとけ」


 テロリストがわめいている間に、距離を詰めきれた。


「なっ!しまっ!」


 ガン!


「クッ…ソッ…」


 どさりと倒れるテロリストに、後方から来た教師とおぼしき集団が飛び掛かっていく。


「確保ー!」


「「「シャア!」」」


「よし、これで俺の仕事………ちょっと待って!俺は違う!」


「まさか学生服を着て忍び込むとは…私は昨日の試験官だ!こいつが生徒じゃないことは私が証明する!」


「確保ー!」


「「「シャア!」」」


「ちょまっ…違っ…学園長ぉ!」


「ククク…クハッ…面白…過ぎる………クハハハハハ!」


「ちっくしょう!役に立たねぇ!」


「よし今だ!押さえ込め!」


「「「シャア!」」」


「…進…進ー!」



 その日の夕方、段ボールが積み上げられた寮の前で、俺は猛烈に不貞腐れていた。


「いや、すまなかった………プクク…本当に…ククッ…」


「けっ…俺はどうせ欠陥品ですよ…」


「…?…どういうこと?…」


「クッ…ククク…こいつはな、武器の発現が出来る代わりに魔法が使えないんだ」


「違いますー!身体強化は出来るんですー!」


「それも武器の発現中は出来ぬのだろう?」


「ぐっ…ぐぬぬぅ…」


「…なるほど…だから…」


「そうだよ…武器の発現は出来るけど、それ以外が出来ない」


「…だから…欠陥品…」


「ククク…初代学園長の但し書きがあって良かったなぁ?」


「それは…そうですけど…」


「武器発現者は、無条件での入学許可…良かったなぁ?」


「くっそ!やっぱりムカつく!」


「ハッハッハッ!」


「…そろそろ…家…入ろ?…」


「はぁ…そうだな…」


「クックックッ!久々の木吹き荘だな…懐かしい」


 ガチャリと鍵を開け、中へと入っていく。


「なっなんじゃこりゃー!」


「「…うるさい…」」


「だって…だって…」


「管理者不在だったせいでしょうけど、この辺り一面ホコリまみれだったんですよ。

 これでも掃除したんですからね?」


「なっなんで?現状維持の魔方陣は起動してたはずなのに…」


「あぁ、それで家具とか痛んでなかったんですね」


 結構不思議だったんだ。


 寮の中はホコリまみれだったりするのに、傷んだ家具や、床板なんかが無かったから。


「ホコリに効果がないってことは…」


「粗悪品掴まされましたね」


「うわあぁぁぁぁぁ!」


 現状維持の魔方陣は、長期間の旅行・出張などで家を多く空ける人が利用するのもので、大抵は業者に頼む。


 今回の学園長みたいに個人で使う人は、販売元から魔方陣を買い取る訳なんだが…ちょくちょく粗悪品を掴まされる。


 というのも、この魔方陣は製作過程的に一定数粗悪品が出る代物らしく、業者なんかは複数買ってカバーするのだが…


 流石に、個人で買うには高い買い物なので、複数枚買って確認を…なんてことは出来ない。


 結果、一定数でる粗悪品に当たる人が出てくるわけだ。


 勿論、一定期間内…一年以内なら返品・交換も出来る…が…


「因みにこれ買ったのって…」


「数年前になるな…」


「ですよねぇ…」


 こんなになるまで放置されてたんだから、そのくらい経ちますよね…


「…進…ちゃっちゃと…掃除…する…」


「はーい」


「…今日こそは…お風呂に入る!」


「じゃあ、モヤシと醤油を冷蔵庫に入れてくるわ」


「…終わったら…風呂掃除…」


「わかった。ブラシ持ってくな」


「なんか…すまない…」


「学園長は、外の段ボールをリビングに運んでくれると嬉しいです」


「あい判った。溢れた分は廊下に置くぞ?」


「お願いします」


「…じゃあ…始める…」


 そうして今日も、掃除が始まる。

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