第3話
「寝床だけは…確保しないと…」
「…うん…それは大事…」
夕食を食べ終えた後、家に戻ってからの一言目がこれである。
「ソファーに、掃除機をかければなんとか…」
「…進…お願い…」
正直、眠い!
朝の全力疾走から始まり、昼にこの家についてからは、ずっと掃除をし続けて今に至る。
そして現在、我々が使える場所は…廊下とリビングだけである!
洗面所と風呂?明日以降だね!
二階?それも後日!
ということで、半分眠りながらも、コアラのようにしがみつくソフィを引きずりながら、掃除機をかけていく。
「よし、取り敢えずこんなもんか」
「…むにゃむにゃ…ほめてしんぜよー…」
「はいはい、よっと」
寝ぼけているコアラをソファーへと寝かしつけ、廊下へと出ていく。
「板の上は…固いだろうなぁ…」
しかし、横になれれば関係無いとばかりに、意識が落ちていく。
「…進…起きて…」
「んぁ?」
ここは…そうだ!昨日からここに住むことになったんだった!
「…電話…鳴ってる…」
「電話?」
あっ、廊下に固定電話がある。
昨日はスルーしてたけど、使えるんだなぁ…ってヤバ!
「もしもし?」
寝起きの身体で、バタバタと走って受話器を取る。
『お?繋がったな?』
この声は…
「学園長?」
『そうだそうだ!繋がってるな!』
朝から一体なにを…
『お前達、昨日試験が出来なかっただろ?クラス分け担当から苦情が来てな…寮の変更は出来ないが、この後クラス分けの試験を受けてくれ!』
「今日って休みだったんじゃ…」
『荷物の運び入れ位は手伝ってやるから、ちゃっちゃと来てくれ!今すぐな!』
「んな無茶苦茶…って切れた…」
「…どうしたの?」
「学園長から、クラス分けの試験をするから今すぐ来てくれって…」
「…!…今すぐ?」
「今すぐ…」
「…むー…横暴!」
「でも、行くしかないよなぁ…」
「…むぅ…」
「行くか…」
「…うん…」
「おお!来たか!」
二人で死んだ目をしながら学園へと到着する。
「…学園内の通学で…片道30分…」
「朝食も食べずにこれはキツイ…」
スマホのナビを見た時は思わず二度見したね!徒歩だよ!徒歩!
「よし!じゃあ始めるぞ!」
「…そんな…元気…無い…」
「せめて朝食を…」
「はぁ、しょうがない…ほら、おにぎりだ。コンビニのだけどな」
「「…あなたが神か!」」
つい昨日判明した事実なのだが…我々二人には金がない。
現在の残金は、320円。
この金額で、最低2日は暮らさなければいけない現状…1つ100円もするコンビニのおにぎりは超高級品なのである。
今朝の道中、三食モヤシ生活が確定した瞬間のソフィの顔は、あまり思い出したくない。
悲壮感と絶望感に染まった表情で、目の輝きが消えていくのだ。
思い出す度に、とてつもない罪悪感が襲ってくる。
「おっおい、どうした?コンビニおにぎりは泣きながら食べるものじゃないぞ?」
「ソフィ…俺のも半分お食べ」
「…良い…の?」
「どうした!おい待て、感極まって抱き合うんじゃない!コンビニおにぎりで繰り広げられる光景じゃない!」
「…美味しい…美味しいよぉ…」
「そうかそうか、たーんとお食べ」
「もういい!試験後回しで良いから!先に説明して!」
「なるほど…食費がないのか…」
「ごめんソフィ…俺が先に気付いていれば…」
「…私も…食費渡される日…知らなかったから…お相子…」
シュンと落ち込む俺を尻目に、学園長が1つ頷く。
「流石に生活費の先渡しは出来ないが、1つだけヒントをやろう」
「ヒント…ですか?」
「この試験での評価は、生活費に直結するぞ」
「生活費に…直結?」
「これ以上は言えん」
「…もしかして…寮と…同じ?…」
「ってことは…」
「…低いと…モヤシ生活…」
「そっそんな…」
「あっいや、そこまで酷くは………」
「よっしゃやるぞぉぉぉぉぉ!」
「…オー…」
「………まあ、やる気が出るならば良いか…」
「よし!説明していくぞ!」
「オス!」
「…オス…」
「今回の試験は、出力を見るものだ」
「出力…だと…」
「…むふー…得意…」
対照的な二人を横目に、学園長は奥にある案山子を指差す。
「アイツには、食らった魔法のエネルギー量を計測する機能がついてる」
そうして頷くと、掌から火の玉をだして、案山子へと投げ込んだ。
ドゴン!
まるで、なにか硬いものがぶつかったかのような音を立てた案山子は、突如として左右に揺れだしピタッと止まる。
「レベル3だ!この雑魚が!」
「「…えぇ…」」
唐突な罵倒に引きながら、ゴミを見るような目で学園長を見る二人。
「ん?どうし………っ!?違う!断じて私の趣味ではない!」
「自分で楽しむまでは良いですけど…ねえ?」
「…生徒にまで…押し付けるの…最低…」
「違う!違うから!私じゃなくて制作者の趣味なの!」
「「…じとー…」」
「くそっ!たった1日でここまで仲良くなっているとは…これでは、気まずい二人のアマアマな日常を覗き見ると言う、今日の目的が…」
「「…じとー…」」
「クッ…クハハハハハ!この試験が免除されるのは支援系の魔法を使う者だけだ!さあ、試験を受けて貰おうか!」
「くっそ!ズルいぞ!俺の能力知った上で話し逸らそうとしているだろ!」
「…?…どういうこと?…誰でも1つは…魔法がある…支援系以外は…魔法弾を…射てる…はず…」
「ククク…そうだろうそうだろう!それが我々の常識だ!」
「くっそ!ムカつく!」
「ククク…ソフィア・アイスバーグよ!手本を見せてやれ!」
「…?…いい…けど…」
目を閉じ、片手を上げる。
その手の先には、光が集まり…魔法を形作っていく。
「…アイススピア!」
そうして出来上がった氷の槍は、ソフィが手を下ろすと同時に弾かれる様に案山子へと向かっていく。
ドガゴォン!
その着弾と同時に巻き上げられた砂埃が晴れた時…そこに案山子の姿は無かった。
「す…すげぇ…」
「………あっ…やっちゃった…」
「おぉ…流石だなソフィア・アイスバーグ」
パチパチと拍手をしながら近寄ってくる学園長。
「…?…まるで…破壊されて…当然みたいな…反応?…」
「ん?そりゃそうだ。
あんなものは、実力のある奴なら片手間で破壊できるしな」
「…ってことは…」
「ああ、ソフィア・アイスバーグは合格だ!しかも最高ランクだな!」
「…むふー…ブイ…」
おぉ…スッゴいどや顔。
「次は貴様だ!黒田進!」
………やらなくちゃダメ?