第2話
「取り敢えず…中…入ろ?」
「そうだな…」
桐生さんが帰って暫くして、ようやく再起動した俺達は、貰った鍵で中へと入る。
「…うわぁ!」
「うん!普通!」
入って直ぐの廊下には、うっすらとホコリが積もっており、掃除は必要だろうが、住むには問題ないだろう。
「よし!掃除道具探してくるから、ちょっと待っててくれ」
「…うん!」
いや、お嬢さん…そんなに目を輝かせても、特別なものは出てきませんよ?
靴と靴下を脱いで廊下を歩きながら、階段の下の引き戸をあける。
「おっビンゴ!」
少し年代物っぽい掃除機だが、まあ…使えればなんでも良いか。
それを持って玄関まで戻り、近場のコンセントに刺して起動する。
ふぉぉんという音と共に、掃除機のローラー…は、髪の毛が絡まって動かないが、ホコリは吸いとられていく。
「…凄い!…凄い!」
あの、ソフィアさん?そんなピョンピョン跳ねなくても良くないですか?ホコリが舞いますよ?
あの、その…キラキラした目が辛い!なに?なにがしたいの?
「…それ…」
「ん?掃除機?これやりたいのか?」
むっちゃ頷いてる!
「えっと…はい」
うおっ!目の輝きが増した!
「…♪…♪…」
スッゴい楽しそう…あっ、ちゃんと靴脱いでる。
…取り敢えず、さっき見た引き戸の中に、雑巾とバケツがあったからそれ使うか…
えーっと水場は…っと、洗面所があった。
奥の扉は…風呂場か。
取り敢えずここは後回しかな?
食事を取るところと、寝る場所は確保しないとな…
「アイスバーグさん、リビングあった?」
「…♪…♪…」
聞こえてないなこりゃ…
「アイスバーグさんってば」
流石に、肩叩けば気付くだろ。
「!?」
むっちゃ驚いてるな…肩ビクッってしたぞ…
「…心臓…止まるかと思った…」
「そこまで驚かないでも…」
「…ソフィって…呼んで…アイスバーグだと…反応できない…」
「じゃあ、ソフィアさんで」
「…違う…ソフィ…」
「ソフィさん」
「…さんも…いらない…」
「いや、でも…」
「…一緒に…暮らすのに…堅苦しいのは…辛い…」
そっソフィアさん?泣き顔は…ダメですって…
「じゃあ…ソフィ…」
「…うん!…進!…なに?」
笑顔が輝いてるなぁ…
「あぁそうだ、リビングって見つけた?」
「…リビング?…まだ見てない…」
「じゃあ、俺はリビング探しとくから、掃除機お願い」
「…ん…わかった…」
よし、探すか…
と、意気込んで一つ目の扉がリビングでした…
いや、良いんだけどさ…なんか…こう…もやっと…ね?
「…ん…次はここ?」
「そうそう、お願い」
「…ん…わかった…」
ソフィに掃除機を頼みつつ、水を汲みに台所へ。
「水は………出るな」
若干不安だったが、水道も通ってるみたいだな。
「よし、拭いてこう」
まずはガスコンロから。
何かの弾みに引火しても怖いので、念入りにホコリを取る。
その後、台所を調べてみた。
結果、当たり前ではあるが、食糧は愚か調味料すらも、欠片も無かった。
チラッと窓から外を覗く。
汚れすぎて磨りガラスみたいになっているが…それでも、日がくれているのはわかる。
「…ヤッベ!飯無いじゃん!」
急いでスマホを取り、近場の飲食店を探す。
「よし!まだ開いてる!」
時間と距離的にギリギリではあるが、開いているファミレスを発見した。
「ソフィ!晩食べに行くぞ!もう時間無い!」
「…ん!…わかった!」
そうして、ルンルン気分のソフィと共に、近くのファミレスへと駆け込む。
………今回は、間に合ったよ?
「………以上でよろしいですか?ラストオーダーとなりますので、以降の注文は出来かねますが…」
「はい。お願いします」
「…私も…大丈夫…」
「畏まりました!では、失礼します!」
いやぁ、なんとかギリギリセーフ…
頼んだ金額的にもギリギリセーフ…
ソフィ…財布持ってきて無かったからなぁ…
「…ハンバーグ…楽しみ!」
でも、あの目の輝きには勝てないよ…
「…今日は…最高の1日…」
「なんでまた…」
「…ハンバーグも…食べれる…掃除機も…出来た…そしてなにより…呼び捨てで呼べる友達ができた!」
「おっおう…」
なんだろうこの子…涙出そうなんですけど…
「…いっぱい夢が叶った今日は…最高の1日…」
「そう…だな…」
なんかもう…うん…泣きそう…
「ハンバーグのお客様~」
「…!?…はい!」
「お待たせしました~」
スッゴい目がキラキラしてる。
「………はむっ………っ!?」
おぉ…キラキラ度が増した!
「…これと…これと…」
ライスと…ハンバーグで…
「………はむっ………むぅぅ…幸せ…」
ああ、むっちゃ旨そう!そっちにすれば良かった!
「ピザのお客様~」
「あっはい!こっちです!」
「お待たせしました~」
ふう…やっと来た!待ちわびたぜ今日の夕食!
「…じー…」
うっ…目の前からキラキラの光線が…
「…じー…」
しっしかし…これは…俺の…夕………
「食べる?」
「…うん!」
キラキラの目には…勝てなかったよ…
因みにお返しは、ハンバーグ一切れでした。
美味しかったです。