第1話
「はぁ…学園に着くまでに魔力を使い果たしたと?」
「…はい」
「それでそっちは、捻挫したと…」
「…治療して貰ったけど…今日は安静…」
見事に遅刻した俺達は、何故か学園長室に通され、正座…は俺だけがさせられ、説教を受けていた。
因みに、あれだけの事があってもなお無傷だったリンゴは、おぶってた少女に食べられた。
なんでも、朝食を食べていなかったらしい。
…いや、俺もなんですけど!
「私の説教中に別の事を考えるとは良い度胸だな?」
「…ひゃっひゃいすいません!」
「…プフッ…」
おい、笑うなよ!噛んで恥ずかしいんだから!
「ククク…二人揃ってそんな態度か…良いだろう…」
うわっ!ゾクッてした!背筋に悪寒が…
「老朽化で取り壊し予定の寮が有ってな…ん?これは…」
え?なに?どういうこと?
「フフフフフ…いい嫌がらせを思い付いたぞ…」
嫌がらせ!嫌がらせって言ったよこの人!
「まず黒田進!」
「はっはい!」
「貴様はどうせ評価基準的に最低ランクだ!」
「酷い!あまりにも無茶苦茶すぎる!」
「そしてソフィア・アイスバーグ!」
「…ん」
「貴様は事前試験的に最高ランクだろう…」
「…ん!」
あっ胸張ってる!どや顔でこっち見てる!
「だが、捻挫で試験は受けられない…」
「…ん………ん?」
「よって!自動的に最低ランク判定とする!」
「…横暴!…反対!」
「ハハハ安心しろ!次回の試験で高得点を取れば良いだけだ!」
「…なら…良い?」
「だが、最初の試験で定められた寮からは変わらないがなぁ!」
「…っ!?どういうこと?」
「最初の試験で決まるのは寮のグレードだ!そして入寮した後の変更は無い!」
「…横暴!…反対!」
「そうだそうだ!」
寮のグレードが決まる試験で最低ランク?それは嫌だ!
「ハハハ!決定は覆らないぞ!桐生!案内して差し上げろ!」
学園長が笑いながらパンパンと手を叩く。
「畏まりました」
すると何処からか若い執事の様な人が現れ、退室するよう促される。
非難するような視線を学園長に向ける…あっダメだ、自分の世界から戻ってこない。
「「はぁ…」」
ため息を吐きながら、少女…ソフィアをおぶって歩きだす。
最低ランクの寮…一体どんな所なんだろうか…
「こちらでございます」
うっそん…
「…本当に…最低ランク?」
目の前に有るのは、寮…というか、ただの一軒家である。
少し古そうに見えるものの、なんの問題も無さそうだ。
「はい、こちらが最低ランク様の寮でございます」
「…これで最低なら…他のランクって…」
呆然とする俺をよそに、ソフィアが桐生さんと話している。
「通常ランク以上は、基本的にマンションにお住まい頂いています。
一番の違いは…レストランや、ジムスペース等の有無ですね」
「…じゃあ…家の大きさだけで言ったら…」
「此方が一番でしょう」
ほへー
「…進…そろそろ正気に戻って…」
「…はっ!」
ヤバイ!意識がどっか行ってた!
「ですが…」
「「…ですが?」」
「立地が最悪ですね」
「というと?」
「此方は、学園の旧校舎の最寄りに建てられたものですので…現校舎に行くには、少々時間が…そもそも、この寮が閉鎖される原因となったのが、遅刻の多発ですからなぁ…」
ん?もしかして…
「…学園長が…ここを選んだのって…」
「そうでしょうなぁ…」
「学園長…」
嫌がらせって…そういうことかよ…
「旧校舎近辺で使える寮は此方のみですので、御二人で御使いください」
「え?まっさかー?」
「…流石に…それは…」
「学園長の決定ですので」
「「えぇぇぇぇ!?」」
学園初日…女の子との同居が決まりました…
「おっ桐生!戻ってきたか」
「はい、只今」
「フフフ…二人とも驚いていただろう」
「そうですね…黒田様なんかは、まさか女の子と同居するなんて…と言っておられましたし」
「ハッハッハッ!それは滑稽だ!別々に住むからそんなこと等起きぬのにな!」
「は?」
「は?」
「え?いや、まさか…一つの寮に二人とも入れたのか?」
「学園長…先月の工事で旧寮を解体したのを忘れたのですか?」
「え?あれ?もしかして…」
「今残ってる寮は、木吹き荘だけですよ…」
「あああ!やらかした!」
「はぁ…そんなことだろうと思いましたよ…」
「どうする?前言撤回するか?」
「はいはい、ちゃっちゃと謝ってくださいね」
「い…嫌だ!それは嫌だ!」
「なに言ってるんですか…黒田様はともかく、ソフィア様はアイスバーグ王家の王女様ですよ?間違いでもあったらどうするんですか…」
「フッフハハハハハ!大丈夫だ!あそこの国妃からは、恋愛結婚なら良いと伝言を受けている!」
「いや、それは国妃様からの内々の伝言でしょう?大体、会って1日もたってない両人に、恋愛も何もないでしょう…」
「嫌だ嫌だ!大体、二人とも特殊すぎるから旧寮に入れた方が良いって言ったの義人じゃない!」
「旧寮だって複数箇所に有るのに、1ヶ所に…よりにもよって一つしか寮がない所を選んだのはお前だろ?ちゃっちゃと謝ってこい!」
「もう良いもん!同じ寮になっただけで間違えが起こる訳じゃないし!私の責任じゃないもん!」
「うっわ開き直った…」
「というか…もう判子押しちゃったからどうしようもないのよ…」
「あぁ…かわいそうに…」
「ムッキー!大体あんたねぇ………」
「それを言うならそっちだって………」
そうして、二人は忘れ去られていく…