プロローグ
「ヤッバイ遅れる!」
学園へと入学する朝、盛大に寝坊した俺…黒田 進は、全力で走っていた。
「おっ坊主!今日から学園かい?」
「はい!」
そんな中、手から水を出して、鉢植えに水やりをするおじさんが、何かを投げてくる。
「うわっと!」
「その様子だと朝飯食ってねぇだろ!そのリンゴやるから行きながら食っとけ!」
「有り難うございます!」
「おう!遅れる前にとっとと行けよ!」
「ヤッベそうだった!」
俺は、身体を輝かせながら学園へと向かう。
進化の日…革命の日とも言われるその日を境に、世界は変わった。
個々人が武器を産み出す権利を得たのだ。
その権利に付随する効果は二つ。
単純な身体強化と、魔法能力。
極度に上がった動体視力と身体能力は、当時世界を席巻していた『銃』という武器を衰退させ、その武器を基本としていた大国を滅ぼした。
民主主義が主流だった世界は、王政が息を吹き返し、力こそ全ての国もあったそうだ。
安定期に入った今、国が変わるなんてことはそうそう無いが、力を持つ革命派はまだまだ存在するし、それに対抗する手段を国は欲する。
その結果産まれたのが『学園』と呼ばれる、全寮制の軍学校だ。
『実力・素質さえあれば誰でも入れる』
これを謳い文句に開かれている学園は、学費無料やら生活費保証やらのサービスから、世界最高峰の教師陣まで揃え、他国からの留学生まで受け入れる懐の深さも持ち合わせている。
その分倍率も高い…と、思いきや、求められる実力・素質の高さゆえに、基準さえ満たせば入れるレベルで倍率は低い。
ただ、数年に一度くらいのペースで、他国の王族も入学するため、学園内で気を抜いたりは出来ないだろう。
下手に恨みでも持たれた日には…まあ、学園内では無事だと思う。
『他国の特殊部隊にも突破されない安全性!』って広告を打つレベルで安全らしいし…
問題は、卒業後である。
そこから先、いつ何時も気が抜けない生活なんて、やりたくないわけで…
まあ、よっぽどの事でも無い限りは大丈夫だろう。
「後…すこ……し!」
おじ…おっちゃんから貰ったリンゴを食べる間など無く、もうすぐ学園につく。
「ここのY字路曲がったら後は道なり!」
頭の中で地図を思い浮かべながら、後数分でたどり着けそうだとほくそえむ。
「「よし…ギリギリで間にあ………」」
人!?まずっ…避けきれな………
「わあっ!」
「キャッ!」
お互いに避けようとするも避けきれず、もつれながらゴロゴロと転がって行く。
「いっつつぅ…」
「ううっ…」
痛みを我慢しながら、ぶつかった相手を見る。
「おい、大丈夫か?」
見た感じ、大きな外傷は無さそうだ。
強いて言うなら、その銀髪をツインテールにして留めているゴムが緩んでいる程度か…
「ん…大丈夫…」
手を貸しながら立ち上がる。
まだ…なんとか………間に合うかなぁ?
「…っ!?いったっ…」
「どうした!?」
もしかして見えてないだけでどっかやっちゃった!?
「多分…足…捻挫…」
「あぁ…」
避けようとした時かな…はぁ…
しゃがみながら、鞄を渡す。
「…ん?…何?」
「おぶって行くから、俺の鞄持ってくれない?」
「気にしなくて…いい…その制服…学園のでしょ?」
「そっちも学園の制服着てるだろ?俺がおぶればまだ間に合うかもしれない」
その銀髪の少女は、クスリと笑いながら、鞄を持つ。
「また…事故…おこすの?」
「おいおい、そりゃ言いっこ無しだぜ」
少女をおぶった俺は、よっこいしょと立ち上がりながら、再度身体を輝かせる。
「ゴー…ゴー…」
「よし、行きますか!」
背中からのウキウキした声を聞きながら、グンと速度を上げていく。
「落ちないように掴まっとけよ!」
「…ん!」
「初日から遅刻とは良い度胸だな?」
「「すいませんでした!」」
はい、間に合いませんでした!