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6話 彼女は森の底

中間テストは月曜日から金曜日までの5日間にわたって行われる。そしてテスト明けの土日は、合同キャンプが開催される。


合同キャンプとは、学年混合の親睦会のようなもの。学院の裏に広がる森を使って行われる。


先月には、新1年生だけで行われるレクリエーションがあった。今月の行動キャンプは、同学年同士で結束を固めた後、他学年とも交流を深める目的で行われるものだ。


日中は森の中でレクリエーションを行い、夕方にはバーベキュー。夜はキャンプファイアーをして、それぞれ組み立てたテントで1泊する。


男女混合だけど、当然キャンプ地は別々。間には見回りの先生が立ち、間違いが起きないように細心の注意が払われている。


……とはいえ、非日常を楽しめる刺激的なイベントであるのは確かなわけで。


乙女ゲーム『恋セレ』においては、序盤最大の盛り上がりと言っていいイベントだった。

ここで誰と過ごすかによって、後のルート分岐が大きく左右する。


具体的に言うと、一定の好感度を満たした相手とデートすると、そのキャラとのルートに突入する……というわけだ。


でも、今回のクララはそれどころじゃない。ゲームではフロリナの仕業で片付いたノート紛失事件。


そしてゲームでは発生しなかったマノンの花壇荒らし。この世界では、どちらもはっきりとした決着がついていない。


だからこの世界のクララは、攻略対象たちにあまり関心を向けていないようだった。


由々しき事態だ。だけど私も彼女の恋模様を応援する以上に、やらなければならないことがある。


昼に行われるレクリエーション。今年はオリエンテーリングだ。


私は参加者ではなく、運営側で参加している。チェックポイントの一角を担当し、やって来るチームにアイテムを渡す役割がある。


「ご苦労様。あなたたちが一番よ。はい、アイテムボックスと鍵をあげるわ」

「ありがとうございます!」


アイテムボックスの中には、次のチェックポイントを示すヒントが隠されている。

ちょっとした宝探し気分が味わえる、というわけだ。


ちなみに不正防止の為に、一つ一つのアイテムボックスは、他の鍵では合わないようになっている。


とはいえさすがに魔道具ではないから、ちょっと器用な人が開けようと思えば開けられてしまうんだけどね。


「……」

「フロリナさん? 次のチームが来ましたよ」

「あ……ええ、そのようね。ご苦労様。次のチェックポイントのヒントは、この中に入っているわ」

「ありがとうございます!」


オリエンテーリングが終了するギリギリまで、私はその場で仕事を続けた。



***



オリエンテーリングが終わると、キャンプの準備が始まる。男子と女子に別れてテントを設営して、夕方に差し掛かる頃にはバーベキューが始まった。


肉や野菜の焼ける匂い。バーベキューの後はキャンプファイアーがある。就寝までの間、普段は交流できない人との歓談を楽しめる。


まあ、普段から交流のある相手と過ごしてもいいんだけど。


私はクララの姿を探す。……いない。一抹の胸騒ぎが過る。


『恋セレ』では、このイベントは攻略対象とダンスを踊る恋愛イベントだった。

でも確か……その前にも何か、イベントがあったような……。


「もうだいぶ古い記憶だから、思い出すのに苦労するわね……」


……。

…………。

………………そうだ!!


「マノン! クララの姿を見なかった!?」

「え――? そういえば、さっきから姿が見えない……ような」

「さっきっていつ頃かしら?」

「ええと……ごめんなさい、分からない、です。今日はあたしとクララ、別のチームだったので……」

「そう……あなたたち、今日はずっと一緒だったの?」

「はい」


マノンのチームメイトも首を振る。彼女たちは嘘をついている様子はない。


先日の一件で少し親しくなったリーズ嬢にも尋ねてみる。


リーズ嬢は今回クララと同じチームだ。彼女なら何か知っているかもしれない。


「クララさんですか? そういえば、先程からお姿が見えませんですわね。確か――30分ほど前でしょうか。テント設営で出たゴミを捨てに行ったお姿を見たのが最後ですわ」

「ゴミ捨てね、分かったわ」


ゴミは一度キャンプ場で集めてから、後で学院に持って帰って処分することになっている。


キャンプ場のゴミ捨て場に行ってみるけど、ここにもクララの姿はなかった。が、幸いなことにクララの足跡を知る人がいた。


「ああ、ホフマンさんなら、学院の倉庫にバーベキュー用の網を取りに行っているはずですよ」

「網? どうしてそんなものを?」

「それが実行委員の手違いで、網が足りなくなってしまったようで。たまたま通りかかったクララさんが、委員の人から頼まれたそうです」

「どうしてクララに? 実行委員が取りに行けばいいでしょう」

「さあ……私もたまたま彼女から聞いただけなので、よく分かりません。学院の方へ向かおうとしていたので、どうしたのか声をかけてみたんです。そうしたら、実行委員の方に頼まれたと言われたので」

「何はともあれ、見ていてくれて助かったわ」


女子生徒にお礼を言うと、私はある場所を目指して駆け出す。


……嫌な予感がする。


『恋セレ』本編では、キャンプイベントでは夕方に悪役令嬢フロリナがクララを呼び出し、池に突き落とそうとするイベントがある。


間一髪で攻略対象に救出され、仲を深めるのだけど。


その後、フロリナはさすがに洒落にならないことをしたということで、キャンプが終わった後で退学する。


先月宝石盗難をした挙句、今月に入ってからはクララのノートを焼却炉に捨て、ほとぼりも冷めないうちに池へ突き落そうとしたんだから仕方がない。


これまでゲーム本編におけるフロリナの悪行は、他の誰かにスライドされてきた。


今回も同じことじゃないのか。ならクララは――。


「あら、これは――」


少し開けた場所に出る。森とキャンプ場への分岐点となる空間だ。森へと繋がる道には、通行禁止の立て看板が出ている。


その時、私は奇妙な痕跡を発見した。

通行止めの札の下にある、引きずったような跡。これは――。


背筋が冷たくなる。私は立て看板の横を通り抜け、森へと入っていった。

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