エピローグ フロリナ令嬢と青い鳥
翌日は月曜日。また1週間の始まりだ。
寮の宝石盗難事件は週末のうちに解決した。
だから外部には漏れず、私たちはいつも通りの学院生活を送る――はずだった。
「おい、聞いたか? 女子寮で起きた宝石盗難事件をフロリナ公爵令嬢が解決したんだって!」
「ああ、聞いた聞いた! 事件発覚からわずか3日、電光石火の勢いで真相を突き止めたんだってな!」
「それどころか盗まれた宝石や小物の類も全部取り戻したらしいぞ」
「犯人はどこかの金持ちが逃がした鳥だったんだって? その鳥も捕獲して生息地に戻す手筈を整えたというんだから、さすがだよなあ」
「俺たちも戸締りは気負付けないとな」
……何故か男子たちにも話が伝わっていた!
昼休みに食堂へ入ると、視線が一斉に集まる。
その視線は嫌なものではなく、称賛や羨望の眼差しではあったけれど……うぅ、居心地が悪い。
「おおフロリナ! 聞いたぞ、大活躍だったそうだな」
「ジークフリード殿下……あなたのお耳にも届いているのですか……」
「当然だ。この学院は上品だが刺激に欠けるからな。刺激のある話題はすぐに伝わる」
「もう解決してしまいましたけどね」
「解決まで含めて面白い話だ。俺も関われなかったのが残念でならない」
「まあ、悪趣味ですこと」
ゲーム本編だと、宝石盗難事件は3日では解決しなかった。
翌週にもつれ込み、学院全体を巻き込んだ大騒ぎになる。
クララの立場は危うくなるけど、彼女に同情した殿下たち攻略対象と共に真相を突き止める。
ただし犯人は公爵令嬢フロリナだったので大事にはできなかった。
この事件でフロリナは大きく心証を損なうが、その後も学院に残り続ける――という筋書きだった。
それを私は3日で解決してしまったから、殿下たちとクララが共同作業を行うくだりが丸々カットされてしまった。
……今さらだけど大丈夫なのか、これ?
もちろん悪意なんてまったくなかった。
けど結果的に、クララが殿下たちと仲を深める邪魔をしてしまったのでは……?
「フロリナ様ーっ! あっ、殿下! それにフランツ様にアルマン様! ご、ごきげんよう」
「おや、もう1人の話題の少女が来たな。そう固くなるな。君の口からの事件の顛末を聞きたい。名探偵と容疑者が協力して真相を暴いたのだ。どちらからの話も聞きたい。惜しむらくは犯人が人ではなかったので、犯人視点を聞き出せないことだな。はっははははは!」
「だから悪趣味ですよ、殿下。……けれど、そうね。クララ、殿下にお話して差し上げなさい」
「わ、私が……ですか!? フロリナ様は――」
「私は午後の授業の準備がありますの。殿下、またの機会に」
「残念だが仕方ないな。クララ、まずは君から話を聞かせてくれたまえ」
「は、は、はいっ!? えっと、あの、その、なんといっていいか――」
パニックになるクララをその場に残し、私はそっと席を立った。
涙目で助けを求めるクララにウインクを返す。
うまくやりなさいというアイコンタクトを受けて、クララはますます瞳を潤ませた。
ちょっと可哀相な気もするけど……殿下たちの出番を奪ってしまったのだから、これぐらいは、ね?
一緒に事件を解決するフラグを折ってしまった代わりにはならないかもしれないけど。
それでも少しは親睦を深める、いい機会になるでしょう。
そんなことを考えながら、私は食堂を後にするのだった。




