大地創世
男がいるこの世界にはある神話が語り継がれていた。それはこの世界の創世の物語だ。
その昔、この世界の大地は分断されていた。何故ならこの世界の大地はそれぞれの神々のものだからである。故にそんな大地で生きられるのは神に許された者だけだった。
人間もかつてはそんな神に大地にて生きる事を許された者の一員だった。だがある時、己がチカラを慢心し人々は神々にはむかい敗れた。その報いとして大地を追われた。
しかし、それでも人間を愛する何柱かの神々によって人々は狭い範囲ではあるが大地にて生活する事を許された。人々はその場所に神への感謝の印として神殿を建て崇め敬った。
そして時が経ち、人々は人間を愛する何柱かの神々の加護の元、神殿と神殿とを結ぶ道路を造作し始める。かつて人々を追放した神々はそれを黙認した。まぁ、神様などそんなもんなのである。いちいち細かい事に拘らないのだ。
そして現在、各神殿を結ぶ道路網が大地に網のようにめぐらされている。そんな道路を使って神殿間を駿馬にて走り移動する者を人々はライダーと呼んだ。
そしてそんな人間たちを愛し庇護したその神の御名は『メロス』。走る事を至上の喜びと尊ぶ偉大なる神であった。
そんなメロス神の庇護の元、人々は細々ではあるが暮らしていた。だがやがてメロス神はお隠れになり、それに代わって新たな神が人々の前に現れる。それらの神の名はそれぞれ『本田』、『山葉』、『鈴木』、『川崎』と言った。これらの神以外にも他の土地に神はご降臨なされたらしいが定かではない。それ程この世界は広く、人間はちっぽけな存在だったのだ。
そして新たな神である四神は、人々に駿馬の代わりにオートバイをお与えくださった。かくして人々は神が与えしオートバイのスピードに夢中になる。神もそんな人間たちを温かく見守ってくださり何かと御配慮をして下さった。
その御配慮の中でもっとも重要なのは道路整備だろう。それまでは人間が道路を整備し拡張していたのだが、その質は低く馬ならなんとか走れても、オンロードバイクを走らせるには些か路面状態が悪かった。
なので神は新たに道路整備と拡張を専門に担う自動人形をお創りになった。それらはどのような仕組みで動くのかは判らないが、黙々とそれまで人々が踏みならしただけの道路をアスファルトの道路へと改修していった。また道路の曲率をオートバイ用に拡張したり、新たな道を造ってもいた。
そんな道路の整備が進むと神が人々に与えるオートバイの性能も上がった。今では時速300kmを超える性能を有するオートバイも少なくない。
しかし、人々はオートバイに乗るだけでは生きられない。そう、食べなくては人は生き続けられないのだ。なので生きる為にオートバイを降りる者も現れる。しかし、人々が暮らす大地の殆どは作物を実らせるには痩せていて満足な収穫を得られる土地は限られていた。
そんな人々に対し、4神は手を差し伸べられなかった。何故なら4神はオートバイの神なのでそれ以外の事に対応する能力を有していなかったのだ。
だが、この世界は八百万の神々が存在した。なので4神は大地と豊穣の神『デメテル』に頭を下げ、人々に恵みを与えるようお願いして下さった。
この事により人々は大地からの恵みを口にする事が出来るようになった。だがこの時、豊穣の神『デメテル』はひとつの失敗をしでかす。それは豊かになった人々は徐々にその数を増やしてゆくという至極自然な事を考慮しなかったのである。
なので豊穣の神『デメテル』の加護により豊かな実りを約束された土地だけでは全ての人々を賄いきれなくなった。なので人々はまた神様にお願いして豊かな土地を増やして貰おうとしたが、この願いは却下された。そう、神様とは結構気まぐれなのだ。いつもいつも人間のお願いを聞いてくれる訳ではないのである。
さて、そんな神頼みが袖にされると人々は至極単純な方法で問題を解決しようとした。つまり食べ物の総量が変わらないのなら、それを消費する量を抑制しようとしたのだ。所謂口減らしというやつである。
そして集団の中から役に立たないという烙印を押された者たちを追放した。もっともこの役に立たないという仕分けは集団内のヒエラルキーに負う所が大きい。なので追放された者の大半は老人や怠け者たちだった。また子供が沢山いた家庭では歳が下の方から選ばれた。
子供は大人に比べれば食料の消費量は少なかったが、集団内で決定力を持っていたのは大人たちだったので、そんな大人たちは自らが犠牲になろうとはしなかったのである。
そして身ひとつで荒野に追放された老人や子供たちの多くは餓死した。だが、実りが少ないとはいえ荒野にも僅かながらの実りはあった。なので少数の人々はそれらを口にし生き延びたのであった。
そんな理不尽に集団を追放された人々の子孫たちが、現在ライダーやウォーカーたちから恐れ忌み嫌われているアウトロー集団『エクザイラー』と呼ばれる者たちだ。
もっとも現在の『エクザイラー』を構成している殆どの者は、その昔集団から追放された人々の子孫ではない。それらは町で何かをやらかし、町にいられなくなったやつらが流れ着いて集団化したグループが殆どである。そうゆう意味では、彼らは追放者ではなく正確には犯罪者『クリミナー』と呼ぶべき集団であった。
だが、『エクザイラー』だろうと『クリミナー』であろうと、4神にしてみれば人間である事に変わりはない。なので彼らも誓いを立てればライダーになれた。ただ誓いを立てるには神殿に赴く必要があり、神殿のある場所にはライダーやウォーカーたちが町を営んでいた。
なので『エクザイラー』たちがオートバイを手に入れる機会はまずない。いくつかの大規模『エクザイラー』たちは小さな町をチカラで占拠し自らの神殿を手に入れていたが、殆どの『エクザイラー』たちは追放時に乗っていた自らのオートバイを修理するか、または闇市場から神の管理下を離れたニコイチ車輌を入手し乗っていた。
先にも言ったが、ライダーを殺してオートバイを確保してもオートバイが彼らを承認しないのでこの方法は使えない。だが最近はオートバイに対してオーナーである事を欺瞞させるパーツが出回っている為、オートバイを手に入れる為にライダーやウォーカーを襲う事件が頻発していた。
さて、話は戻るが豊穣の神『デメテル』の加護により豊かな実りを約束された土地だけでは増え過ぎた全ての人々を賄いきれない。だが人々は新たな神の出現によりその難題を解決する事に成功した。
その神の名前は『大気都比売神』と言った。そうこの神様も『デメテル』同様、豊穣の神様だったのである。さすがは八百万と言われる神々だ。同じような加護を授ける神様が何人もいらっしゃるのである。
かくして漸く人々の食料問題は解決した。とは言っても食料は人々自身が種を撒き手入れをしなくては実りは得られない。なので多くの人々は生きる為にウォーカーとして生きる道を選び、ライダーという生き方を否定し始めた。
そう、現代においてライダーはウォーカーに依存して生きる寄生虫のような存在になってしまったのである。
しかし、その昔この世界において神と争い敗れた人間を愛し庇護した神の御名は『メロス』。走る事を至上の喜びと尊ぶ偉大なる神だ。なので神が最初に世界を創世した趣旨に基づくならばライダーこそがこの世界を維持する存在である。
しかし今。またしても人々は慢心し神の加護を離れようとしているのかも知れない。だがそれが人間というものなのだろう。なので神々はそんな人間たちをただ見ているだけなのかも知れなかった。