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雑文アクション「ロングラン・ハイライダー」  作者: ぽっち先生/監修俺
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いざっ、聖地へっ!

事前の予想どおり鈴華地方の山中は迷路であった。オートバイ神のしもべである自動人形たちによって道路自体はちゃんと舗装され管理されているのだが、男たちは気付くと元の場所に戻っていたり、はたまた全く違う場所へと出てしまっていた。

それでも男は色々と試しながら手探りで聖地への道を探ってゆく。そんな方法の中には一定間隔でパンくずを落としてゆくという古典的手法もあったが、これは当然ながら野鳥に啄ばまれて失敗する。これは手本とした童話にも描かれていたのだから試すだけ無駄だと思うのだが、男はやってみなくちゃ判らない精神でチャレンジし、見事玉砕したのであった。

なので男は一旦オートバイを停めると誰に言うでもなく愚痴が口を出た。


「ちっ、鳥共めっ!パンが食べたきゃケーキを食べろと教わっていないのかっ!」

いや、その例えは間違っていないか?確か「パンが手に入らないならケーキを食べればいいのに。」だった気がするんだが?


「参ったな、葉月が居れば案内表示板が現れて誘導してくれるくらいのサービスがあると思ったんだが・・。アテが外れたか・・。」

男の言葉に葉月がしゅんとしてしまう。それに気付いて男は慌てて訂正した。


「いや、葉月が悪いんじゃないぞっ!そうっ、これは試練だからなっ!それを乗り越えるのは俺の役目だ。そう、悪いのは俺であって葉月じゃないっ!」

だが男の言い訳を聞いても葉月の機嫌は直らなかった。そこに東雲が更に追い討ちを掛けて来た。


「そうよ、悪いのは全部ニンジャだわ。多分別世界の景気が中々復活しないのもニンジャのせいだし、流行り病が蔓延したのもニンジャが原因よ。もしかしたらアダムとイブが楽園から追放されたのもニンジャのせいかもね。」

「全部俺のせいかいっ!と言うか別世界って何だよっ!そんな事まで責任持てるかっ!」

「あら、なら目の前の事は責任を取ってくれるのね?さすがだわ、ニンジャ。不言実行ねっ!で、どうやるの?」

「ぐっ、なんか結局うまい事誘導された気がする・・。」

そんな男と東雲のやり取りに非村が理論整然とした状況確認を伝えて来た。


「まぁ、道が変なのは致し方あるまい。なんせここは聖地の近くだからな。侵入者を排除する機能でもあるんだろう。だから漫然と走り回っても駄目なはずだ。となると、ニンジャが言ったように何か道を開くキーのような物が必要なのかもしれん。」

男はそんな非村の説明に俺だってそれくらいは考えたさとばかりに渋い顔をした。と言うか、男が考えていたキーが葉月だったのだ。だが残念ながら葉月はキーではなかったようである。

そこへ東雲が話に加わってきた。


「キーって何よ、もしかして生贄?あら、やだ。なら私しかいないじゃない。古来より神への捧げモノは美女と決まっているからね。」

「葉月を差し置いて自分から名乗り出るとは大した度胸だ。もしかして心臓に毛が生えているのか?」

「よく聞こえなかったわニンジャ。もう一度言ってみて。」

そう言うと東雲はGL1500ゴールドウィングの左側のリアボックスからMG42汎用機関銃をせり立たせてその銃口を男に向けた。


「馬鹿っ、よせよ。危ねぇじゃないかっ!」

「大丈夫、まだ初弾はチャージしていないから。でもニンジャの態度次第では暴発しちゃうかもね。」

「重ね重ねおっかないやつだな。あーっ、悪かだよ、俺が言い過ぎた。」

「そう?なら生贄の役はニンジャに譲るわ。葉月、危ないからオートバイから降りなさい。今から聖地に生贄を捧げるからっ!」

東雲の言葉に葉月は男にぎゅっと抱きついてイヤイヤと首を振った。それを見て東雲も漸く矛を収める事にしたようだ。


「命拾いしたわね、ニンジャ。葉月に感謝なさい。で、他に方法はないの?」

「本田神と川崎神の神殿で見つけた資料ではこのルートでいいはずなんだ。ルートは合っているはずなんだが何故か着かないんだよな。」

「その資料っていつの時代のやつなのよ。もしかしてバージョンアップしているんじゃないの?ニンジャあなた古くなって破棄された資料を拾ってきたんじゃないでしょうね?」

「うっ・・、どうだろう。なんか自信がなくなった・・。」

男たちがそんな会話をしていると、急に周囲の空気が冷たくなる。そして瞬く間に男たちの周りに霧が立ち込めてきた。


「うわっ、霧まで出てきやがったよ。参ったな、一旦戻った方がいいか・・。だが霧の中、迷路みたいな道を戻っても元の場所に戻れる気がしない・・。」

「そうね、闇雲に走っても燃料を消費するだけだわ。なのでご飯でも食べながら霧が晴れるのを待ちましょう。」

男の言葉に東雲がランチタイムを提案してきた。折りしも時計の針は12時近くを指している。なので男も素直に東雲の提案を受け入れた。


「それじゃ、オオサカウォーターシティで買ってきた粉モンでも食べて待つとしよう。」

そう言うと男はリアボックスから結構な量のお好み焼きとたこ焼きの入った容器を取り出し、加熱剤と一緒に断熱シートで包んだ。そして待つ事3分。断熱シートを開くとそこにはあつあつのお好み焼きとたこ焼きが湯気を上げていた。


「ほら、葉月。熱いから気をつけろよ。」

男は紙皿にお好み焼きとたこ焼きを取り分けると上に青海苔を散らして葉月へ渡した。非村と東雲もそれぞれ持参したお弁当を取り出して食べ始めた。


「マヨネーズとソースは好きなだけかけろ。あっ、お茶もあるからな。これも暖めた方がいいか?」

男は甲斐甲斐しく葉月の世話をする。まぁ多分、男としては先程先程葉月をしょんぼりさせてしまった負い目があるのだろう。そんな男の気持ちを察してか、葉月も男に薦められるがままにニコニコしてたこ焼きを頬張った。


「うまいか?」

「うんっ、おいしいっ!」

「おしっ、いっぱいあるからな。じゃんじゃん食べろっ!」

男はそう言って葉月の皿にお好み焼きとたこ焼きを載せてゆく。終いには葉月の皿はお好み焼きとたこ焼きが山となっていた。さすがにその量は12歳の女の子には多過ぎるだろう。いや、オオサカではこれくらい食べてしまうものなのか?


そんなこんなで楽しくお弁当?を食べた4人であったが、未だ霧が晴れる様子はない。だがその時突然葉月が空を見上げた。つられて男たちも見上げる。するとそこには1羽の大きな鳥が飛んでいた。しかもその鳥の翼は黄金色に輝いていたのである。


「ゴールドウイング・・、もしかしてあの鳥は本田神のお使いなの?」

東雲が上空を舞う鳥の姿を見て呟いた。そう、ウイングマークこそ『本田神』のトレードマーク。そして『鈴華サーキット』は本田神のレース拠点だ。それらを重ね合わせれば東雲があの鳥を自分たちへ道を示す為に本田神が遣わした案内役だと思ってもおかしくはないであろう。

男はその事を葉月に聞いてみようと後ろを振り向く。そしてそこには天に向かって祈りを捧げている葉月の姿をみた。

するとどうだろう。先程まであれ程男たちの周囲を囲っていた霧が忽ち霧散していくではないか。そして霧が晴れた先に広大なサーキットが現れたのである。

コース全長5.821km。コーナー数は全部で18。途中でコースが立体交差するというレイアウトは珍しいものなのでまず間違いはない。そう、このサーキットこそ、男がタイラーに葉月を連れてゆくと約束した聖地『鈴華サーキット』であった。


「ここが聖地・・『鈴華サーキット』なのか?」

男は目の前に現れたサーキットを前に声を震わせる。しかも男は初めて鈴華サーキットを目にしたはずなのに何故か懐かしさを感じていた。それは男の中に潜んでいるエディーの感情だったのであろうか。

しかも東雲や非村たちも目の前に現れたサーキットに心を奪われたかのようにただただサーキットを見つめているだけだった。

なのでそんな3人に対してひとりだけ普段と変わらない様子の葉月が声を掛けた。


「ニンジャ、誰かがこっちへ来るわ。」

「へっ?あっ、本当だ。俺たち以外にも聖地を目指していたやつがいた・・、いや、あれはどう見てもライダーじゃないな。」

男は自分たちの方へ近づいてくる人影を見て自分の考えを取り消した。そう、何故なら男たちへ近づいてくる人影はどう見ても人ではなかったのだ。

とは言っても魔物でもない。その者の姿かたちは人間の女性であった。だがその姿からは凄まじいまでの神々さが溢れている。なので男は誰に言われるでもなく近づいてくる女性の正体を理解した。

そう、その女性こそ聖地『鈴華サーキット』の女神『鈴華天照様』であった。

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