クリミナーの襲撃
富岳スピードウェイ巣食っていた悪の軍団『簡単連合』を聖地のチカラによって駆除し、その後この世界のライダーたちにとっては聖地たるサーキットと同格とも言えるオートバイの故郷『メーカー』への巡礼を終えた男たちは、本来の目的地である聖地『鈴華サーキット』への旅を再開した。
だが、聖地への道は試練の道でもあった。故にまたしても男たちの前に邪魔者が立ち塞がったのである。
その集団は大雑把に言うならば『クリミナー』であった。つまりウオーカー社会からドロップアウトした犯罪者集団である。混同され易いグループとして『エクザイラー』という集団もいるのだが、タチの悪さでは『クリミナー』の方が何倍も上である。
アウトローという点では『簡単連合』も同じようなものだが、それでも『簡単連合』はオーバイを中心に結束した集団であった。
だがクリミナーはオートバイに乗りこそすれ、それはあくまで移動の足としてであり、クリミナーにはオートバイに対する『愛』はなかった。つまりクリミナーは真の『ライダー』ではないのである。
それでも、そんなクリミナーたちに対してもオートバイ神は庇護を与えた。しかもそれはライダーたちが受けるものと大差はなかった。
ここら辺は実に神様らしいと言えるのではないだろうか。そう、神様は結構適当なのだ。一々好きだ嫌いだなどで贔屓をしないのである。
だが、それでもクリミナーたちは、神殿でオートバイ神の前に跪き庇護を受ける事を嫌う。その理由の殆どは、大抵のクリミナーたちはオートバイをぞんざいに扱うので神殿で新たにオートバイを受け取る際にオートバイ神からこんこんと説教をされるからである。
なので大抵のクリミナーたちはそれを嫌い、滅多に神殿からオートバイを拝領しない。ではどうやって手に入れているかというと略奪である。
クリミナーたちが使用しているオートバイは、略奪後にオーナーである事をオートバイが誤認識するパーツを新たに組み込んだものなのだ。もしくは闇市場にて手に入れた、オートバイ神の管理下を離れたニコイチ車輌である。
そしてクリミナーの生活を支えている営みは当然ながら『強奪』だ。所謂社会の寄生虫である。
クリミナーは元々が犯罪者の集団なので強奪行為は当たり前と言われればそうなのだが、強奪される側からしたら堪ったものではない。なのでクリミナーに対しては見つけ次第駆除するのがライダーやウォーカーたちの常識であった。
とは言っても大抵のクリミナーたちは集団で行動する。これは多分自分たちが社会的に嫌われ、且つ狙われている事を理解しているからであろう。身から出た錆ではあるが所詮クリミナーは犯罪者集団だ。なのでその事に情けをかける者はいない。
だが、ひとりふたりなら出会いがしらに殲滅する事も出来なくはないが、集団となるとそうもいかない。なのでクリミナーを見つけて駆除する場合は、ライダーやウォーカー側もクリミナー以上の人数の掃討隊を編成し装備を整えてからそれにあたる。
何故ならとてもではないが個人でクリミナーの集団に向かっていっても数の上で勝ち目がないからだ。それに取りこぼしたりすると、生き残ったやつらは陰湿な復讐に出てくる。しかもそのターゲットにされるのは大抵女子供だった。これはまさに外道の本領発揮である。
そんな社会の厄介者でしかないクリミナーが男たちに目を付けた。実は今男たちは裏社会の情報網によって聖邪神教会から賞金首として指名手配されていたのだ。なのでカモがネギを背負って現れたとばかりに、この地に巣食う殆どのクリミナーたちが男たちを待ち伏せしていたのである。
そうとは知らない男たちはハママツでのオートバイメーカー巡礼の話に花を咲かせながら南へ向け海岸線をゆっくりと走っていた。
「いや~本田神のメーカー遺跡DVDは見ごたえがあったよなぁ。特にあのスーパーカブの生産ラインは面白かった。まるで金太郎飴を切るったみたいに次々とカブが出来上がってくるのには驚いたぜっ!」
「そうだな、でも鈴木神の遺跡だって負けてないぜっ!」
「あーっ、そうだな。あの最終確認工程の丁寧さは見習うべきものがあった。あれが鈴木神系のオートバイのクオリティが高い水準を維持している理由なのかもな。」
「塗装工程もクオリティが高かっただろう?俺のところの若い整備士たちにも見せてやりたかったな。あれは絶対勉強になる。」
「はははっ、そうだな。でも今から思うと山葉神の遺跡も探しておくべきだったか?」
「まぁな、でもそれはまた今度としよう。なんと言ってもウチの修理工場は『鈴木神系』だけじゃなくて全ての車種を扱うからな。そして神々事にこだわりがある事も今回教えられた。やっぱり神々によってそれぞれ『色』ってもんがあるんだなぁ。」
「おうっ、そうだな。特に鈴木神系は熱かったぜっ!」
男は聖地へ葉月を届けた後に、『川崎神』の本拠地と言われているアカシに行きたいからなのか、やたらと非村の担当神である『鈴木神』の事を褒めちぎっている。そんな男のよいしょ攻撃に、非村も最初こそは渋い顔をしていたが自分の信奉する担当神を褒められて悪い気はしないのだろう。
なので男はもう少し押せば落ちるなと感じて更なるおべっかを非村に浴びせようとした。だがそんな男たちの背後からかなりの速度で追い上げてくるオートバイ集団の姿があった。そう、クリミナーたちである。
その排気音を耳にすると男と非村はお喋りを中止して真剣な顔付きとなる。
「あーっ、なんか元気なやつらがやってくるなぁ。」
「そうだな、普通に考えるなら地元の走り屋辺りなんだが、多分違うな。」
「だよなぁ、もしかして俺たちって聖地に嫌われているのか?だから聖地は悪党共を使って妨害してくるのか?」
「そんな訳あるかっ!とにかく逃げるぞっ!厄介事に巻き込まれるのはごめんだっ!」
非村に促され男は900Rの速度を上げ、後ろから追いすがってくる集団を引き離しにかかった。だがそれも直ぐに無理と思い知る。何故なら前方に道路を塞ぐ形で多数のオートバイが停まっていたからだ。
「ちっ、これまた随分組織的な歓迎だな。」
「どうする?お前の900Rに装備しているイージスとやらで強行突破するか?」
「いや、今は葉月を後ろに乗せている。だからリスクは取りたくない。」
「とは言っても前門の狼、後門の虎だぞ。この人数差じゃ撃ち合っても到底太刀打ちできん。」
「いやはや、こんな時こそ東雲のチートマシンガンが恋しくなるな。あれなら1分も掛からずに死体の山だ。」
「無いものねだりはよせ。今は最悪葉月だけでも逃がすんだ。」
「そうだな、ならそこの岩陰に隠れて篭城戦とするかっ!あいつら多分地元のクリミナーだろう?なら騒動を聞きつけた自治会が応援に駆けつけて来てくれるかも知れん。」
「人頼りのなんともな対応策だが、今はそれしか手はないな。」
話がまとまると男と非村は道を塞ぐ集団のかなり手前でオートバイを止め道路脇の岩陰に身を隠した。そしてそれぞれ銃の準備をする。
そんな男たちの対応に、後ろから追ってきた集団も男たちと距離を取って停車し銃の準備を始めた。
「ところであんたは何発持ってる?因みに俺は7.62mmが100発とこいつ用が30発なんだが?」
男はそう言いながら腰に付けたリボルバーをぽんと叩いた。その問い掛けに非村も少し残念な口調で返事を返す。
「俺も似たようなもんだな。しかも俺の銃とお前のとじゃ弾種が違うから融通も出来んときた。」
「あーっ、弾種の共通化は共同戦線を張る上での最重要項目だよなぁ。でも今まで俺ってピンでしか動いた事がないから気にもしていなかったよ。」
「今更後悔しても遅いさ。来るぞっ!お前は前方のやつらを相手にしろっ!葉月は900Rの後ろにいるんだっ!イージスシステムは作動しているんだろうなっ!」
「さっきさせたっ!だが作動時間は6分だっ!」
「ちっ、それで決着がつくとは思えんがやるしかないっ!前方は任せたぞっ!」
「任されたぜっ!あんたこそ、簡単にやられるなよっ!」
「やられてたまるかっ!」
男と非村は互いに激を飛ばしながらそれぞれの相手に対して銃を構えた。そんなふたりに対して、クリミナーたちはゆっくりと前進してくる。その数は前方がおよそ40台。後方が60台程であった。
そして男たちが今いる場所は海岸線の道路上であり、横は防波堤が続いており男たちが身を隠しているところの背後は山を切り崩した急斜面であった。
そんな袋小路ともいえる場所故なのか、男たちに向かって接近してくるクリミナーたちは薄ら笑いをしている者もいた。如何に男たちが銃で武装していると言っても自分たちの人数を持ってすれば一瞬で決着がつくと思っているのだろう。
そしてその考えは正しかった。但し、クリミナーたちが思い浮かべていた結末とは正反対な結末でだ。
ギュオーッンっ!
その時、後方から男たちの方へゆっくりオートバイを進めていたクリミナーたちの更に後方から、まるで電動ノコギリのような連続音が響き渡った。それに併せて後方にいたクリミナーたちが次々と鮮血をほとばしらせながら倒れてゆく。
「がっ!」
「ぐはっ!」
「ぎゃーっ!」
様々な悲鳴を上げながら倒れこむクリミナーの男たち。そんな男たちに尚も銃弾の嵐が襲い掛かる。
ブオーンっ!
その甲高い連続音に男は聞き覚えがあった。なので男はそれを確認するかのように非村に問いかけた。
「おいっ、この射撃音って東雲とか言う女のMG42じゃないのかっ!」
「あの女のかどうかは知らんがこんな高速な発射音は多分そうだろうよっ!」
この世界では銃は戦いの神様から与えられるのだが、その中に機関銃は含まれていない。だが稀に別世界とリンクしている遺跡などから出土する事がある。なので数は少ないが機関銃は存在する。そして男の知っている範囲ではそんなモノを手に入れられた幸運者はひとりだけだった。
男と非村はそんな機関銃と思われるモノがクリミナーたちを撃ち漏らした流れ弾や海側のコンクリート壁から跳弾した弾に身を伏せながら言い合う。だがそのあまりの発砲弾数に男たちは頭を上げられない。なので誰が発砲しているのかすら確かめられなかった。
だが、そんな銃弾の嵐も1分ほどで静まった。それによって漸く男と非村は顔を上げる事が出来た。そんな男たちの横を大柄な大排気量ツアラーがゆっくりと通り過ぎてゆく。
「はぁーい、あなたたちって相変わらずね。もしかして今年の運勢最悪なんじゃないの?お払いした方がいいわよ。」
大排気量ツアラーのライダーはすれ違いざまに男たちにそう言い放って走り去った。だが直ぐにオートバイを停車させると、今度は前方のクリミナーたちに向けてオートバイのリアボックスから自在アームで支持されているMG42汎用機関銃を発砲した。
ブオーンっ!
前方に陣取っていたクリミナーたちの内、何人かは応戦を試みたようだが忽ち銃弾の雨に叩かれて沈黙した。そして射撃開始から1分もしない内にそこに立っている者はいなくなった。
それを確認すると大排気量ツアラーのライダーは小柄な体にも関わらずその大きなオートバイを定上旋回させてオートバイの向きを変えると男の元へとやって来た。
「さて、今回の請求はどっちにすればいいのかしら。ニンジャ?それともそちらの方?」
「いきなり金の話かっ!まっ、取り合えず俺にツケておいてくれ。今回は助かったよ、礼を言うぜ、東雲。」
そう、謎のライダーは非村が予想したように大神宮 東雲であった。なので当然乗っている大型ツアラーも本田神のGL1500ゴールドウィングである。因みに左側のリアボックス上にて真っ赤に焼けた銃身から陽炎を立ち上らせている銃は毎分1200発の発射速度を誇るMG42汎用機関銃だ。
「ふふふっ、あなたたちってなんかいい金づるよね。着いて行けば後から後から賞金首が寄ってくるんですもの。因みにあなたたちにも賞金がかけられているのは知ってる?」
「うるせーっ!それは正規のもんじゃないだろうっ!」
「まぁね、でも結構な額よ。だからこれからも今回みたいな事があると思うの。それで提案なんだけど私を雇わない?あなたたちとは知り合いだから安くしといてあげるわ。」
「お前、働きモンだなぁ。そんなに金を貯めて何に使うつもりなんだ?」
「うふふふふっ、な・い・しょっ!」
そう言いながら東雲は男にウインクして見せた。だが東雲が言っていたとおり男たちには結構な額の賞金が聖邪神教会から賭けられていた。なのでそれに釣られてアウトローたちが群がってくるのだ。
取り敢えずは突然現れた東雲の機関銃無双によりピンチは脱したが、それはあくまで序章にしか過ぎない。そしてこの手の展開では、次に現れる対戦相手は更なる強敵なのが定石だった。
そして放送時間尺の都合なのか、休む間もなく新たな敵が男たちの前にやって来たのである。