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雑文アクション「ロングラン・ハイライダー」  作者: ぽっち先生/監修俺
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メーカー遺跡

さて、漸く葉月の機嫌が直った翌日。男たちは地元の人たちから得た情報を元にオートバイ神の遺跡探しへと繰り出した。だが当然ながら簡単には見つからない。それでも朝から探し回った結果、正午間際にそれらしき場所を探り当てた。

その場所はハママツから30km程離れた海沿いの場所にある周回コースであった。地元のライダーには『竜洋コース』と呼ばれており、仲間内でのちょっとしたレースなどに使われているとの事だった。

ただこのコースは、神がこの世界に使わした道路整備と拡張を専門に担う為に遣わした自動人形たちの管轄外なのか日常的なメンテナンスがされていない。なので路面状況は良くなかった。

それでも最低限の整備は地元のライダーたちが行っているのだろう。コース上のオートバイが走るライン上だけは小石ひとつ転がっておらずそこだけきれいなラインとなっていた。

男たちはそんな『竜洋コース』の脇に、雑草や雑木で目隠しされるように建っていた建物を見つける。その建物の入り口と思しき場所には『2輪技術開発センター竜洋テストコース管制室』と書かれた看板が掲げられていた。


「おーっ、見つけたぜっ!はははっ、すげーボロいな。これじゃガキ共の秘密基地にもならないか。道理で誰も近寄った形跡がない訳だ。」

「そうだな、でも本当にこれが遺跡なのか?俺にはただの一軒屋にしか見えないが・・。」

「だが看板には竜洋テストコースとあるぜ?」

「竜洋テストコースの管理棟、もしくは当直小屋とかいうオチなんじゃないのか?」

「あーっ、あり得るかも・・。でもまぁ、折角見つけたんだから一応確認しておこう。」

男は非村にそう言うと入り口のドアノブを引く。だがその扉はびくとも動かなかった。


「ちっ、鍵が掛かってやがる。」

「そうなのか?もしかして引くんじゃなくて押すんじゃないのか?もしくは引き戸だとか?」

「なんでだよっ!そんなコントみたいな仕掛けな訳あるかっ!」

「ドアノブ自体は回るんだろう?」

「回るね、しかも鍵穴らしきものもないからな。となると単に錆びついているだけか?」

男はそう言うと扉に向かって思いっきり体当たりした。だが扉はうんとも開こうとしなかった。そんな男の行動に非村が突っ込みを入れてくる。


「お前、さっき俺に押し戸じゃないって言ってなかったか?」

「あれ?そうだったか?ならやっぱり引くのか。」

男はそう言うと今度は壁に片足をかけ、両手でドアノブを握り締めて思いっきり引っ張る。だが結果は同じであった。


「かーっ、駄目だな。むーっ、他に入り口はないんだろうか?と言うかこの小屋、窓すらないんだな。入り口がひとつあるだけだ。」

「実はこの小屋自体が遺跡盗掘対策用の目くらましとか?そもそも遺跡にちゃんと看板が掛かっている事自体が不自然だろう?もしかしたらトラップなんじゃないのか?下手に力尽くでこじ開けると異世界へ飛ばされるとか?」

「お前、実はラノベ読みだったのか?そんな訳あるかっ!異世界なんて空想上のなんちゃって設定だよっ!ガキんちょたちの願望が作りだしたご都合主義なのっ!」

いや、男よ。お前がそれを言うのか?そもそもこの世界には神が存在するんだろう?神の存在は否定しないくせに異世界の事は笑うのか・・。う~んっ、これが文化の違いというものなのだろうか。


だが男と非村がそんな会話をしている時、ひとり葉月は小屋の傍にあった石のリリーフの前に立っていた。そして葉月がそのリリーフにそっと手をかざすと突然大地が割れて轟音と共に地面の下から何かがせり上がって来た。


「なっ、なんだぁ?」

突然の出来事に男は咄嗟に葉月の元に駆け寄ると、葉月を庇うように覆いかぶさった。だが葉月は無言でせり上がって来た物体を指差す。

その物体は3メートル四方の大きさであった。そして葉月が指差す面には扉がありその扉は既に開かれていたのである。しかもご丁寧に扉の上には『鈴木テクニカルレガシー博物館への正式な入り口』と書かれていた。


「『鈴木テクニカルレガシー博物館への正式な入り口』・・、う~んっ、胡散臭すぎる・・。でも入るしかないのかな。」

「そうだなぁ、まぁ正式と書いてあるくらいだから大丈夫だろう。それじゃまずお前から入れよ。」

「俺からかよっ!」

「遺跡に行きたいと言ったのはお前なんだからお前が率先して前を行くべきだろう?」

「くっ、確かに・・。ちっ、行ってやらぁーっ!」

男は腰のホルスターからリボルバーを手にすると恐る恐る『鈴木テクニカルレガシー博物館への正式な入り口』と書かれた入り口の中へと進んだ。


「すいませーん、通りすがりの者なんですがどなたかいらっしゃいますかぁ。」

男はまず入り口から中へ声を掛けた。まぁ、この辺は自分の部屋でないのだから当然であろう。霊峰富士だって入山する前には神へ挨拶し、許可を頂くのが礼儀だという事は子供だって知っている。

だがこれまた当然ながら男の問い掛けに返事はなかった。ここでならばと中に入ると普通は不法侵入です。声は掛けたんだが・・、などと言い訳しても許されません。それを許したら全ての泥棒を許す事になるからね。


「どうしよう、誰もいないみたいだ。今回は帰るか?」

「お前アホかっ!遺跡なんだから人なんざいねぇよっ!逆にいたら怖いわっ!多分それってゾンビかミイラだぞっ!」

「あーっ、ミイラはともかくゾンビは嫌だな。あいつら噛み付いてくるって話だからなぁ。」

「いや、冗談だから真に取るなよ。と言うかさっさと入れ。」

「うーっ、ゾンビは嫌だなぁ。」

人は一旦疑いだすと風にそよぐ柳の葉にすら幽霊の姿を見るという。この時の男の心境はまさにそれだった。


だが覚悟を決めて一旦中に入ってしまうと男の恐れは忽ち氷解した。何故なら勝手に明かりがついて天井のスピーカーから女性の声で案内のアナウンスがあったからだ。


「本日は『鈴木テクニカルレガシー博物館』へお越しいただきありがとうございます。それでは案内板に従って先へお進み下さい。」

「うわっ、なんだよ、人がいるよっ!もうっ、びっくりしたなぁ。」

「いや、これは合成音声だろう。かなりクオリティーは高いが息遣いが感じられない。」

「そうなのか?まぁいいじゃないか。案内してくれるってんだから先に行ってみよう。」

ゾンビが出てくる心配がなくなったせいなのか、男は先程とはうって変わってさくさくと先に進みだした。既に手にしていたリボルバーも腰に戻している。

そうして男たちが案内された場所はシアターであった。


「それでは皆さんお席にお座り下さい。これよりスズキが世界へ誇るモノ作りの現場をご紹介致します。尚、上映中のご飲食はご遠慮願います。」

案内役のアナウンスがそう告げると、シアター内の照明がすーっと暗くなった。そして目の前のスクリーンにでかでかと『鈴木神』のロゴマークが映し出されると本編が始まった。

その内容は別世界での鈴木神浜松工場におけるオートバイの生産工程を記録した映像だった。しかもそれは年代事に変化してゆく。そんな中、非村の相棒であるGSX-S1100Katanaの生産ライン映像が映し出される。その映像に非村は大興奮だ。仕舞いには男に映像の解説までする始末である。

男としても大好きなオートバイが産まれてくる映像は大変刺激的だったのだろう。なので非村に劣らず男も興奮していた。

ただ、そんな映像を見て興奮している男たちと違い、葉月は椅子に座った途端寝てしまった。まぁ、ここら辺は男の子と女の子の差なのかも知れない。これが一部の少女たちの憧れ『タカラヅカ公演』だったら多分逆だろうからね。


その後、別世界におけるスズキの新入社員用研修ビデオを見ただけで何故か満足してしまった男は、ならば次だとばかりに今度は『本田神』の遺跡に向かった。

そして『本田神』の遺跡は簡単に見つかった。何故なら『鈴木テクニカルレガシー博物館』の中に置いてあった『ニホンのオートバイメーカー国内生産拠点2001年度版』というパンフレットに場所が記載されていたからだ。

だが男たちがその場所に行ってみると、そこに遺跡はなく更地となっていた。その更地の端には『本田技術研究ハママツ工場はクマモト工場へ移転しました。御用の方はそちらへお尋ね下さい』と書かれた看板だけが立っていた。


「遺跡も引越しするのか・・。クマモトってナイン・ステーツのクマモトの事だよな?わーっ、すげー遠いぞ。」

男は看板の前で肩透かしを喰ったかのように呆然としてしまった。まぁ、確かに企業の工場は地元との兼ね合いから滅多な事では移転しない。何故なら工場で働いている人たちは大抵地元の人々だ。なので工場が移転してしまってはその人たちの職がなくなってしまう。

工場と一緒に配置転換し雇用は維持するなどと言うのは企業側の建前で、裏を返せば肩叩きでしかないのだ。独身者ならまだしも家庭を持ち生活の基盤を確立しているものにとって、そう簡単に転勤など出来るものではないのである。そう、農耕民族とは土地に定住して暮らすものなのだ。遊牧民族とは生活スタイルが違うのである。

だがそんな男に葉月が1冊の冊子を差し出した。


「ニンジャ、こんなのが落ちてた。」

「えっ?おーっ、『鈴華サーキット』ご案内パンフレットだとっ!」

男は葉月から手渡されたパンフレットをめくる。そしてその中に『鈴華サーキット』への移動経路が書かれているページを発見したっ!


「でかしたっ、葉月っ!これで迷わず聖地にいけるぜっ!」

「そうなの?良かったっ!」

男の言葉に葉月も嬉しそうであった。ただ非村だけが、何故こうも都合よく『鈴華サーキット』案内パンフレットが落ちていたのかと訝ったが、葉月が喜んでいるから良しとしたようだった。はい、この男たちって葉月には甘々です。お前たちは初孫を前にしたじじいかっ!


しかも葉月は『鈴華サーキット』ご案内パンフレットの他に1枚のDVDも見付けていた。そのDVDケースには『本田スーパーカブ~世界で最も多く製造されたオートバイ~』とタイトルが書かれていた。


「おーっ、スーパーカブのDVDだとっ!さすがは本田神の神殿跡地だな。お宝がざくざくだっ!」

男は先程まで更地となっていた『本田神』の遺跡に愕然としていたのも忘れて葉月が次々に見つけてる情報に大喜びである。

とはいえ、本田神のハママツにおけるメーカー遺跡が残念だった事には変わりはない。なので男は残りの山葉神遺跡を訪ねる気力をなくしてしまったようだった。それを察した非村は寄り道はこれくらいにしておこうと男を促す。男はそれを素直に受け入れ宿へと戻った。

そう、このふたりは『鈴木神』と『川崎神』信者なので『山葉神』には然程執着がなかったのだ。『本田神』の所へ来たのも、男たちの目的地である鈴華サーキットが『本田神』絡みだったからでしかない。

だが、それでも遺跡を訪ねた事により収穫はあった。『鈴木神』の遺跡では「人と同じ事はやらない。やるなら世界一を目指すっ!」との掛け声の下、社員が情熱を持ってオートバイ作りに汗を流すビデオに非村は元より男も感涙の涙を流していた。

また、『本田神』の遺跡では偶然なのかそれとも仕掛けられていたのか、当初の目的である『鈴華サーキット』に関する資料も手に入れた。

なので男たちのオートバイメーカー生産工場遺跡巡りは十分な収穫があったと言えよう。そしてオートバイに関する偉人たちの業績を知った男たちは、自分たちに課せられた聖地『鈴華サーキット』へ葉月を連れて行くという目的に対して新たな気持ちで立ち向かう事を決意したのであった。

因みに川崎神の遺跡はこの地区にはない。残念だったな、ニンジャっ!だがお楽しみは後に取っておくものだっ!川崎神の二輪車製造拠点であるアカシ工場は兵庫県明石市できっと君を待っているぞっ!

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