再登場!大神宮東雲
ビューンっ!
まるで電動ノコギリが回転しているかのような射撃音を轟かせながら『MG42汎用機関銃』は毎分1200発の発射速度にて7.92mm-57弾を男たちの前にいるゴブリンとグールたちに浴びせかけ、あっという間になぎ払った。
そして謎のライダーは、道路上に立つゴブリンの姿がなくなると、オートバイのサイドボックスからにょきりとせり上がる自在架脚に固定してあると思われる『MG42汎用機関銃』をヘルメットに連動していると思われる照準機構により森の中へと銃口を向けた。
ビューンっ!
横殴りに送り込まれる銃弾の雨の中、忽ち森の中は大混乱に陥った。そこでは弾丸だけでなく、弾丸に削り飛ばされた樹木の破片までもがゴブリンたちを襲っている。なのでゴブリンたちは我先にと逃げ惑うがどこに逃げようともMG42汎用機関銃の毎分1200発に及ぶ銃弾の嵐からは逃れようが無かった。
そして1分後に射撃音が止まった時、森の中には動くものは一匹たりとも存在していなかった。これぞまさに機関銃の連続射撃の威力であろう。
さて、魔物には魔物専用の弾丸がある事は先に説明した。この説明から魔物は通常の弾丸では倒せないと思った方もいたかもしれない。しかも魔物にはランクと言うものが存在し、対魔物弾もそれぞれのランクに対応したものがあるとも話した。
だが実は魔物は通常弾でも倒せるのだ。但しそれには数が必要となる。それこそ何十発と撃ち込む必要があるのだ。
もしくは魔物のコアに的確に命中させられれば通常弾でも1発で仕留める事は可能だが、大抵の魔物は戦闘時にコアを防御フィールドで覆い防御するので、仕留めるにはフィールドを展開される前に弾丸を撃ち込む必要がある。もしくは防御フィールドを展開する器官を破壊してからだ。
なので対魔物弾は通常弾より値段が高いのだが総合的には多数の通常弾を使うよりはちゃんと魔物専用の弾丸を使った方が結果的には安上がりになる。
だが、今ゴブリンたちに7.92mm弾をばら撒いたライダーには経済観念と言うものがないらしい。数えた訳ではないがあのライダーは魔物たちへ向けて2千発は撃ったはずだ。金額に換算すると20万、いや30万ギール以上かも知れない。
確かに命に関わる事なので金額に換算するのは不謹慎かも知れないが、それでもたった2分余りで30万ギールを使い切るのは普通なら躊躇うであろう。もしかしてMG42汎用機関銃をぶっ放したライダーはお金持ちなのだろうか?
そんな謎のライダーはもはや動く魔物がいない事を確認すると、自在アームでリアボックスより伸びているMG42汎用機関銃の銃身を冷やす為なのか、銃を出したままでゆっくりと男たちの方へとオートバイを走らせてきた。途中何体かのゴブリンを踏んづけたが謎のライダーは気にもしていないようである。
そして、自分たちに向かってやって来るライダーの姿を見て、男は大きくため息をついた。そう、謎のライダーは男が首都高C1都心環状線で出会ったあのGL1500ゴールドウィングに乗る女性だったのである。
「はぁ~い、ニンジャ。また会ったわね。」
「やぁ、東雲。なんとも派手な登場だな。画像に収めておけたら今年のVチューブ大賞のアクション部門を狙えたんじゃないのか?」
「あら、そう?それは失敗したかな。でももう弾切れよ。」
「そりゃそうだろうよ。あれだけぶっ放せばな。と言うかその機関銃はどこで手に入れたんだよ。マルス神やアテナ神は機関銃は支給しないはずだぞ?」
「ふふふっ、ないしょっ!まぁ、古代の戦場鉱脈を見つけたとだけ言っておくわ。そこには銃弾もたんまりあるから今回みたいな無駄遣いもできるのよ。」
「げっ、お前が古代遺跡を見つけたっていう噂は本当だったのか・・。」
そう、この世界では銃は戦いの神である『マルス神』と『アテナ神』にお願いし、銃が埋まっている場所の啓示を受け掘り起こす事により手に入れるのだ。
だがそんな神々もアサルトライフルはお与えくださっても機関銃は与えなかった。その理由は定かではないが、神様にも何かしらかのシバリがあるらしい。
しかし、実は神々から与えられなくても銃を手に入れられる事があるのだ。それが先程東雲が言っていた戦場鉱脈である。戦場鉱脈とは過去の戦場がそのまま埋没している場所の事だ。因みにここで言う過去とはこの世界の過去とは限らない。別の世界の遺跡が埋まっている事もあるのだ。
そして東雲はそんな過去の戦場鉱脈のひとつを発見したのだろう。因みに彼女が装備しているMG42汎用機関銃とは別世界の戦場で恐れられた機関銃である。その開発国の名は『ナチスドイツ第三帝国』と言った。
そしてMG42汎用機関銃の諸データは、全長:1220mm。重量:11.5kg。7.92mm-57弾をベルトにて給弾し、連続射撃による銃身の焼け付きに対しては銃身ごと交換する事により毎分1200発もの発射速度を誇っていた。
ついでに蛇足ではあるが東雲の乗るオートバイの名前は『本田神』のGL1500ゴールドウィングという。諸元は
全長:2630mm 軸間距離:1700mm シート高さ:770mm
乾燥重量:391kg
タイヤ 前:130/70-18 後:160/80-16
エンジン形式:水冷水平対抗6気筒 排気量:1520cc
最大馬力:97馬力。最大トルク:15.2kg/m
という何から何までモンスター級のオートバイであった。
そして東雲のGL1500ゴールドウィングにもマジックボックスがふたつ装備されており、左側のボックスにMG42汎用機関銃は収納されていた。
しかもこの機関銃は東雲のヘルメットのバイザーに施してある照準表示機能にに連動して動くので、東雲は銃に触れる事無く目標を目視するだけでMG42汎用機関銃を遠隔操作で射撃する事ができた。
そんな東雲のマジックボックスは男のモノより高性能でその収納上限重量はぶっ飛びの2048kgであった。なのでMG42汎用機関銃と数千発の弾丸でも楽々収納できたのだろう。う~んっ、チート過ぎる・・。
さて、東雲がこの世界では珍しい機関銃を装備していた理由は判ったが、何故こんなベストなタイミングで男の前に現れたのかはまだ判らなかった。なので男は素直に質問する。
「それにしても随分タイムリーなお出ましだな。富岳を見に行くとは言っていたが、もしかして毎日ここを登っているのか?」
「まさかっ!確かに私は富岳が大好きだけど、それは全体の大きさが好きなの。だけどこんなに近づいては全体を見渡せないじゃない。だから私がここに来たのは別の理由よ。」
「ほうっ、それって教えて貰えるのかな?」
「まっ、あなたたちにも関係する事みたいだからね。実は私は今とある組織から悪の軍団『簡単連合』の勢力を削って欲しいと依頼されてるの。それであいつらの本拠地がここいら辺にあるという情報を手に入れたから探っていたのよ。」
東雲の説明に男はまた厄介事に巻き込まれたとばかりに愚痴った。
「あーっ、なんだ、お前もあいつらに一枚噛んでいたのか。」
「噛んでいたって何よ?なに?もしかして何かあったの?」
「まぁな、何もう済んだ事だ。それで?本拠地とやらは見つかったのかい?」
東雲から逆に質問され、男は説明するのも面倒と話を反らして誤魔化す。
「それが全然。ちょっと前まではここら辺にうようよいたらしいんだけど、ここ数日は見かけなくなったんですって。何でもメトロポリス・トウキョー方面に出向いた一隊が誰かに殲滅されたらしくてなりを潜めているらしいわ。」
「あーっ、そりゃ災難だったな。でもあいつらはアホだからほとぼりが冷めたらまた出てくるんじゃないのか。それまではゆっくりしていなよ。」
男は図らずも東雲の仕事の邪魔をしたらしい。なのでその矛先が自分に向いてこないように誤魔化した。だが東雲は相当お冠らしく自分の仕事の邪魔をしたやつらを競合相手と呼び男に愚痴りだした。
「そうもいかないのよ。さっきも言ったけどなんか競合相手が出てきたみたいだからさ。のんびりしていると油揚げをさらわれちゃうかもしれないでしょ?」
「ん~っ、大丈夫だと思うけどなぁ。」
「ニンジャ、ピンで仕事をしている以上、競合相手は最大の脅威なのよ。こうゆう仕事は結果を出さなきゃ報酬を得られないんだから。何時間働いたからこれだけ払って下さいとはいかないのっ!」
「あーっ、うんっ、すまん。」
怒り出した東雲に男は何故か謝ってしまった。だが話をしていて興奮しているのか東雲は気付かない。なのでひとりで話を進めてきた。
「それで何とか『簡単連合』のやつらを見つけようと走っていたら、なんだか魔物たちがざわざわと騒いでいるじゃない。で、気になって来てみたらあなたたちがいたって言う訳。」
「そうか、まっ、取り合えず礼を言うよ。いや、本当に助かった。だから俺たちがいるにも関わらず撃ち込んで来た事は水に流そう。」
男は敢えて話を簡単連合から反らす為に、今回自分たち目掛けて東雲が銃撃してきた事の無作法を無かった事にする事によって話を切り上げようとした。だが、そんな男の意図を東雲は軽くいなす。
「うんっ、まぁニンジャの900Rはイージスシステムが乗っているからね。多分大丈夫だと思ったの。実際大丈夫だったでしょ?」
「いや、非村のKatanaのシールドに1発喰らった。右のバックミラーも吹き飛んだが非村は寛大なやつだからな。多分怒ってないよ。」
「あら、ごめんなさい。次はちゃんと全損になるように撃ち込んであげるわ。その方が神様にも言い訳がし易いでしょ?」
この世界ではオートバイの修理は神殿で行われる。それ以外にも町の修理工場でも直せるが、ライダーである東雲にはオートバイの修理は神様に頼むものだという固定観念があるのかも知れない。
「言ってろ。だが、なんでそんなに魔物が騒いだのかな。確かにこいつらは集団で襲ってくるが大抵は一連射喰らわせれば逃げ出すのに今回はしつこかったぞ?」
男は周囲に散らばるゴブリンの遺体を見ながら、今回の襲撃の異常なしつこさを振り返った。だがそんな男の疑問を東雲が呆れたように払拭した。
「何よ、あなたたちそんな事も判らなかったの?」
「そんな事って何だよ。」
「魔物たちがざわついていた原因はその子でしょ?」
東雲は男の後ろに隠れるようにしがみ付いている葉月を指差した。
「はっ?何言ってるんだお前。確かにこの子はお前よりは可愛いが、だからって魔物たちが襲う理由にはならないだろう?」
東雲は、男がさも当然のように葉月と自分を比べて葉月の方が可愛いと言った事にムカついたようだった。なので少し語気を強めて別の原因を指摘した。
「その子が私より可愛いかは別にして、魔物たちがあなた方を襲ったのはその子から漏れ出ている波長が原因よ。」
「波長?なんだそれ。」
「波長というよりオーラって言うべきかな。その子巫女でしょ?」
「へっ?」
男は東雲の言葉を理解できないようだった。だが非村は東雲の言葉に顔をしかめた。そう、実は葉月は東雲が言い当てたように『巫女』だったのである。
そして聖地の巫女たる葉月は、各地に埋もれている聖地からの波長を感じる事ができた。
逆に聖地もそんな巫女の存在を感じると巫女を呼び寄せる何かを発するらしい。それらのオーラが魔物たちには判るのか、それが今回魔物たちが男たちを襲撃して来た原因らしかった。つまり魔物は葉月の発するオーラに引き寄せられていたのである。
そして葉月が男の後ろで男にしがみ付いていたのは魔物のせいだけではなかった。そう、葉月は何かに呼ばれている気がして怖くなったのだ。
確かに葉月は鈴華競技場シナガワ支部にいた当時から、遠く鈴華の聖地からの呼び声を微かに聞く事はあった。だが今回葉月を呼んでいる声は葉月にとっては異質なものだった。なので葉月は恐れたのだ。そして葉月は漸く男にその事を告げた。
「ねぇ、ニンジャ。何かが近くで私の事を呼ぶの。でもその声はいつも私を呼ぶ鈴華の聖地の声じゃないわ。でもとても苦しそうなの。私、怖い・・。」
「お前を呼ぶ声だと?なんだ?鈴華以外の聖地がここらにあるってのか?」
「判らない・・、でもとても苦しそうなの。」
葉月の言葉に男はどうしていいのか判らなかった。だがそんな男に助け舟を出す者がいた。東雲である。
「あーっ、それは多分、富岳スピードウェイね。でもあそこはオートバイ用じゃないって噂を聞いてるわ。だから神様も祭られていないから今は廃墟になっているはずよ。」
東雲の説明を男は理解できなかったようだが非村は合点がいったようだった。なので安心するように葉月に告げた。
そう、この世界はオーバイのある世界である。なので自動車は存在しない。そして存在しないものには神様も宿らないのだ。
だが何故か富岳スピードウェイは存在していた。これは神様たちの手違いなのだろうか。富岳スピードウェイは基本4輪車のレース場である。なのでレース場とは言ってもオートバイとはそれ程関係が深くない。確かに鈴華でも4輪車のレースは行われているが知名度としてはオートバイのレースの方が上のはずである。何故なら鈴華サーキットを作ったのは『本田神』なのだから。
もっとも『本田神』も別の世界では自動車を生産しているので話がややこしい。だがそれはあくまで別の世界の話だ。この世界では『本田神』とはオートバイの神様なのである。
だが非村に声をかけられても葉月の不安は治まらなかった。なので男は近くにあるのならちょっと寄り道して挨拶して行こうと葉月に提案した。顔を出せばこの世界では異種である4輪車の聖地も鎮まると思ったらしい。
なので葉月も男の提案にうなづく。そして何故か東雲も付き合うこととなった。
「あなたたちは私に貸しがあるんだから、一緒に簡単連合のやつらを探して貰うわよっ!それまでは逃がさないんだからっ!」
東雲の随分な物言いに男は時間がないと言い返そうと思ったが、助けられたのは事実である。なので取り合えず東雲の事は富岳スピードウェイを参詣してから決める事とした。
どの道、いざとなったらバックレればいいだけである。男たちが本気で走れば東雲のゴールドウィングは到底ついて来れない。まぁ、次に会った時はいきなりMG42汎用機関銃をぶっ放されるかも知れないが、その時はその時である。
こうして新たに東雲を加え4人となった男たちは一旦来た道を戻り、東雲の案内でこの世界では異種である聖地『富岳スピードウェイ』へと向かったのであった。