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雑文アクション「ロングラン・ハイライダー」  作者: ぽっち先生/監修俺
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いざ、聖地へっ!

さて、朝の早い時間に朝食を済ませオートバイの点検を終えると男は取り合えずやる事が無くなった。

既に持っていくものはマジックボックスへ積み込んであり燃料も満タンにしてある。なので後は出発するだけだ。だが肝心の葉月が中々部屋から出てこなかった。朝食は一緒にとったので寝ている訳ではない。いや、二度寝している可能性は無い訳ではないがさすがにそれはないだろう。

なので男はマリに頼んで様子を見に行って貰った。


とんとん

マリが葉月の部屋のドアをノックする。だが返事は無い。


「葉月、いるんでしょ?入るわよ。」

マリは部屋の中へそう声を掛けると一拍間を置いてからドアを開けて中を覗き込む。そしてそこには床にひざまずき祈りを捧げる葉月の姿があった。


「我、神の御意思により成すべき事を成す者なり。その道は険しく困難なれど、走る事に情熱を傾けし者たちの助力にて、必ずや再度この世界に輝かしい栄光の光を取り戻さん。願わくば彼の者たちに神のご加護のあらん事を我は願う。」

葉月はマリが入ってきた事にも気付かず、一心に祈っていた。その願いはただひとつ。男たちの無事である。

そんな葉月の姿を見てマリはそっとドアを閉める。そして自らも神に祈りを捧げるとその場を離れ男たちの元へ戻った。

そんなマリの姿を見て男が冗談交じりに問いかけてきた。


「おっ、どうだった?もしかして聖地に行くのが嫌になって部屋で篭城でもしてたか?」

「馬鹿っ、そんな訳ないでしょっ!女の子は何かと支度が大変なのよ。がさつなあなたたちとは違うの。だから大人しく待ってなさいっ!」

何故か男の冗談をマリは強い口調で叱責した。なので男は少し驚いたようだった。だが、男はマリにがさつだと窘められるだけの事はあり、マリがお冠なのは葉月に女の子特有の事情が発生したのだと勘違いしたようだ。


「あーっ、もしかして生理でも始まっちゃったのか?だとしたら今日の出発は無理か?」

「ニンジャ~っ、あなたって本当に能天気なのねっ!いいから黙って待ってなさいっ!」

マリは葉月が自分の使命だけではなく、心の底からこの男の身の安全を願っていた事に男が全く気にもしていない事に苛立った。だがよく考えれば男は祈りを捧げる葉月の姿を見ていない。なのでこのマリの感情は的外れなものだろう。マリ本人もそれは理解しているのだが、感情がそれを否定するのだろう。共有されない情報とは時に些細な行き違いをもたらすものなのだ。


そして待つ事30分。漸く葉月が男たちの元にやって来た。その表情はいつもと変わらない。だが男は先程のマリの剣幕から葉月が遅れた事を茶化すのを躊躇ったのか、至って普通に声を掛けた。


「遅いぞ、なんだ?便秘にでもなったか?」


ぱこんっ!

男の言葉にマリの拳骨が飛ぶ。確かに男は先程茶化すのを躊躇ったはずなのにその言葉はないであろう。だが葉月の反応は至って普通だった。


「いーっ、だっ!ニンジャのエッチっ!」

「えっ、なに?もしかして図星だったか?」


ぱこんっ!

空気を読めない男の言動にまたしてもマリの拳骨が決まる。そんな男に対して非村が助け舟を出してきた。


「あーっ、まぁ葉月も緊張しているんだろう。でも走り出せば気分もよくなるさ。それにちゃんと薬も用意してある。街道沿いには民家も多いからトイレの心配もしなくていい。逆に郊外に出れば人目も無くなるからどこでも野糞し放題だっ!ほら、ちゃんと穴を掘るスコップも準備してあるから大丈夫だよ、葉月。」


どんっ!

非村の言葉に今度は葉月本人が思いっきり蹴りを入れてきた。本当にこの男たちはデリカシーというものを解さないようだった。


さて、そんなこんなで漸く出発の準備が整い、男と非村はそれぞれのオートバイのエンジンに火をいれた。


グウォンッ!

ドゥオンっ!


GPz-900R NinjaとGSX-S1100Katana。二台の大排気量エンジンが揃って目を覚まし咆哮する。


「それじゃいってくるよ。土産は冷凍たこ焼きでいいよな?」

非村は見送るマリたちに冗談まじりの挨拶を送る。それをマリはさらりと返した。

「ええ、それでいいわ。因みにそれを食べるのはあなただけどね。」

「うっ・・、冗談だったのに・・。」

マジックボックスには食料は入れられない。それにそもそもオオサカウォーターシティから冷凍食品を保冷もせずに持ち帰ったりしたらどんな状況になっているかは想像するのも憚られる。


「でも私としては豹柄のドレスの方がいいな。それとオオサカウォーターシティでは下着類は虎柄が定番なんでしょ?」

これはマリの冗談だ。真に受けて本当に買って来たら多分一週間は口を聞いて貰えなくなる。実にお土産とは送る側の神経をすり減らすものなのだ。

なので非村は軽く笑ってその場を誤魔化した。そんな微妙となったふたりに割り込む形で葉月が挨拶してきた。


「今回は本当にありがとうございました。それじぁ、行ってきます。」

「あら、やだ。もう葉月ったら他人行儀ね。でも道中気をつけてね。いざとなったら非村を盾にして逃げるのよ。大丈夫、この人は丈夫だから。多分どろどろに溶けた冷凍たこ焼きを食べたっておならがでるくらいのはずだから。」

「まだそのネタを続けるのか・・。」

マリの容赦ない嫌味に非村はげんなりしている。まぁ、この手の事は注意1秒、怪我一生なのであろう。この状態を打破するにはそれ相応の貢物が必要なはずである。有体に言えばジュエリーあたりか?


こんなやり取りを見ていたので男は挨拶するのを控えた。なので軽く手を上げると静かに900Rを走らせ始めた。非村もそそくさとそれに続く。


「いってらっしゃーいっ!くれぐれも食べ物には気をつけるのよぉっ!」

マリの追い討ちに背中を押されて2台のオートバイは勘弁してくれとばかりに加速した。そしてそのままカサイ・ゲートから首都高へ上がり、湾岸線を一路南を目指して疾走した。

そんな3人の目線の先には遠くに富岳が見えている。富岳の山頂には既に雪はなかったが、それでもその姿は美しい。それは並び立つもののない孤高の美とでも表現すればよいのだろうか。

だがその美しさを支えているのは裾野に広がる台地だ。その土台無くして富岳は存在しえない。その事は富岳自身も知っているはずだ。なのでそれらの助力に感謝しつつも、自らは成しえなかった彼らの希望に応える為に、富岳は今日も美しくそこにそびえ続けているのである。


さて、その後三人は順調に湾岸線を南へと走った。ただ途中のトウキョーベイトンネルでは聖邪神教会との戦闘で破壊された箇所の修理が、神がお創りになった道路整備と拡張を専門に担う自動人形たちによって行われており渋滞していた。

しかし、そこを過ぎると渋滞も解消され、ほぼ直線に近い道路を男たちは徐々に速度を上げていく。こうなるともうライダーたちは停まらない。何故なら彼らは走る事に喜びを感じる者たちだからだ。しかもその喜びの度合いは速度が増すほど増大してゆく。

そしてそんな走りに最初に根を上げたのは葉月であった。そんな葉月を見て非村が男に注意する。


「おいっ、速度を落とせっ!葉月が参っているっ!」

「えっ?あっ、だ、大丈夫か?すまんっ、調子に乗り過ぎたっ!」

男は葉月の状態に気付き、激しくブレーキを掛け急減速した。だがここら辺もひとりで走る事の多いライダーの欠点であろう。同乗者の事を気遣っての減速だったがその仕方が荒っぽかった。


「ぷはぁーっ、う~んっ、風が強過ぎて息が止まっちゃったわ。」

「あーっ、すまん。やっぱりヘルメットはフルフェイスにしておくべきだったかなぁ。」

そう、男たちと違い葉月のヘルメットはオープンフェイスタイプであった。これはフルフェイスとは違い顔のほぼ全面がシールドなので視界が広く、またあご周りを覆っていないので開放感もあつた。故に葉月はこちらのタイプを選んだのだ。

だがオープンフェイスタイプはシールドが大きく且つ下部を支える部分がない為、風圧には弱い。つまり安物だとシールドの強度が足りず風圧に押されて口元を覆ってしまうのだ。

もっとも今回葉月が選んだヘルメットは安物ではない。なので葉月の息を止めてしまった原因は別にあった。それは差圧である。

差圧とは読んで字の如く空気の圧力差だ。気体である空気の中を物体が移動すると空気が押しのけられて物体に沿って流れてゆく。その時、物体の左右や上下に形の違いがあると、空気が後ろに達する時間に差が生じる。その差によって流れの遅い方には周りから空気が流れ込もうとするのだ。

だが物体の速度が上がると空気の流れが追いつかずに逆に空気が剥がれてゆく。つまり空気が薄くなるのだ。

もっともこれは相当な速さでないと酸欠を起こすまでには至らない。男たちも相当な速度で走っていたが、葉月が呼吸困難になった本当の原因はあまりの速度に男の背中にしがみ付いて、顔を埋め続けてしまった故であろう。

なので葉月も男たちを心配させないように気丈に返事をした。


「うんっ、もう大丈夫。でもあんまり飛ばさないでね。」

「そうだな、もうすぐヨコハマガルフブリッジが見えてくるし、ゆっくり走ろう。葉月はここら辺は来た事があるのか?」

「ううん、ない。」

「そうかっ!まっ、ヨコハマガルフブリッジもトウキョーベイに架かるトリコロールブリッジとなにが違う訳でもないが見ておけば土産話にはなる。それにそこを過ぎれば下道に降りるからスピードもそんなに出さないよ。」

「うん、ありがとう。」

男は自分のミスで葉月を参らせてしまった負い目からなのかやたらと話しかけてきた。だが、その度に後ろを振り向くので葉月としては気が気ではなかった。


その後、男たちはオオイ埠頭にて下道へと降りた。そして今度は進路を一旦内陸方面へときる。そしてチガサキ・シティを経由しオオイソ・タウンにつくと、またしても目の前に海が現れた。

そしてそんな海沿いの道をゆっくりと走っていると今度は右手に霊峰『富岳』の姿が見えてくる。だがそのスケールはメトロポリス・トウキョーで見た時より格段に大きい。なので葉月ははしゃぎまくりだった。


「うわーっ、おっきぃーっ!うわーっ、うわーっ!」

「ふふふっ、でかいだろうっ!」

男は別に自分のものでもないのに何故か自慢した。しかも先程の葉月に対する失点を挽回するつもりなのかとんでもない提案をした。


「よしっ、ちょっと寄り道すっかっ!富岳は5合目まではオートバイで登れるんだっ!近くで見るともっとでかいぞっ!」

「ほんとうっ!うわーっ、見てみたいっ!」

男の提案に葉月上機嫌だ。なのでいきなりの予定外行動ではあるが、非村も駄目だとは言えないようである。そして苦虫を噛み潰したような顔をしつつも男の提案に乗った。

そして男たちは富岳目指してオダワラ・シティにて進路をルート138へと変える。そのままゴテンバ・シティを通り抜け、ヤマナカラークの脇を通り富岳スバルラインへと進んだ。

だが富岳スバルラインの入り口を示す看板の横には次のような注意が追加されていた。


『この先、魔物出没情報多数あり。進入は自己責任です。』

霊峰富岳の裾野でとうとう魔物の陰が男たちに忍び寄るのであろうか?というかこの世界の魔物ってどんななの?やっぱり初めに遭遇するのはスライムとか何だろうか?そして段階を踏んで最後は魔王戦っ!・・さすがにその展開はないか。

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