聖邪神教会親衛隊
『聖邪神教会』それは鈴華競技場シナガワ支部にて男を襲ってきた『簡単連合』の上部組織と噂さされている集団である。
そんな聖邪神教会は教会と名乗っているのに祭っているのが邪神というとんでもない組織であった。だが何故か若者の信者は多かった。多分それは若者特有の破壊願望をくすぐるものがあるからなのだろう。そう、若い時は何かと『ワル』に憧れるものなのだ。
そして今回首都高C1都心環状線に現れたのは、数ある聖邪神教会の内部組織でも荒事を専門とする通称『親衛隊』と呼ばれる教祖直轄部隊であった。
そんな親衛隊たちが駆るオートバイは全てアメリカンタイプで統一されていた。しかも色は黒一色である。だが、やはり何故か車種はバラバラだった。
このような組織が出てくる場合、通常その装備は統一されているのが普通だと思うのだが何か事情があるのだろうか?もしくはオートバイとは個性を主張するものなのでそれぞれが押す車種に乗るのが当然なのか?
イメージとしては映画『ローライダー』などに出てくるヒッピー集団を思い起こされる。だが、個性の塊のような映画の登場人物たちとは違い、親衛隊のライダーたちは車種はバラバラなれどカラーリングと服装などのスタイルは統一されていたので、集団で走る彼らからは異様な雰囲気が発散されていたのであった。
そんな親衛隊らが乗るオートバイは次のような車種構成だった。
『本田神』Rebel1100
並列2気筒1084cc87ps223kg
『山葉神』Bolt
並列2気筒941cc54ps255kg
『川崎神』Vulcan
並列2気筒649cc61ps229kg
『川崎神』ZL1000
並列4気筒997cc110ps244kg
『川崎神』ELIMENATOR900
並列4気筒908cc108ps238kg
『川崎神』VZ750
V型2気筒749cc66ps223kg
『山葉神』VMAX1200
V型4気筒1197cc145ps264kg
『山葉神』VMAX
V型4気筒1679cc200ps311kg
他にも色々あるようだが面倒なので割愛する。何故か『川崎神』に偏っているような気がしないでもないが気のせいであろう。後、『鈴木神』が見当たらないのはたまたまだ。
またアメリカンタイプの始祖たる『ハーレー』や『インディアン』が含まれていないのは地域の特性です。多分いるところにはいます。まぁ、世界は広いからね。
そしてそんなアメリカン軍団が集団で首都高C1都心環状線に上がってきた。その台数足るや数えるのも面倒なほどである。多分30台は下らないであろう。
これ程のオートバイが一同に介するとその排気音も爆音といえるものとなる。特にアメリカンタイプは大排気量の2気筒エンジンが多いので、鼓動のようなドッドッドッという感じの重低音を響かせていた。
しかし、彼らが出張ってきた目的が何であれ、アメリカンタイプのオートバイではロードを走る事に特化した男のNinjaや非村のKatanaの敵ではない。仮に出合ったとしてもあっという間に置いていかれるであろう。
だがそれれは親衛隊たちも理解していた。なので彼らは集団で狩りをするのだ。そしてその方法は『走路妨害』である。
基本、公道ではオートバイといえども併走するのはマナー違反である。なので集団で走行する時は一列縦隊が基本だ。それも前を走るオートバイの斜め後ろに位置し視界を確保するのが定番である。
だが親衛隊たちのオートバイは道路いっぱいに平行して走り道路を塞いでいた。こうする事によって後ろから来たオートバイの進路を塞ぎ減速させたところを仕留めるのである。なので当然親衛隊は銃で武装していた。
そんな親衛隊が作りだした防壁にまず気づいたのは見定め役のフランコであった。フランコは当初の計画通り親衛隊を排除しようとしたが、如何せん相手の台数が多すぎる。
なので親衛隊によって発生した渋滞を利用して、後ろにいるはずのケニーたちを待つ事とした。そして2分も経たずにケニーが追いついてくる。
「なにやってるんすか、フランコさん。もしかして事故すっか?」
「いや、何やらアメリカンタイプの集団が道を塞いでいるらしい。なのでこの有様だよ。」
「アメリカンタイプの集団?それって・・。」
「ああっ、聖邪神教会の親衛隊だろうな。渋滞が酷くてちらりとしか見えないが、あの統一された服装は親衛隊に間違いない。しかも台数が桁違いだ。」
「げっ、もしかしてあの一番前を走っている黒ずくめ全部が親衛隊っすかっ!うわぁっ、俺初めて見ましたよっ!」
ケニーは速度が低い事を利用してSV-1000Sのステップに立ち上がり視線を上げる。そして前方を見ながら親衛隊の台数の多さに驚きの声をあげた。
「だな。なので俺とお前だけじゃどうにもならん。なのでマルコが追いついてくるのを待って非村さんたちに知らせに行かせる。そして非村さんたちには一旦C1を降りてもらおう。」
「えっ、排除しないんすか?折角活躍できるチャンスなのに・・。」
ケニーはフランコの説明にがっかりしたようだ。だがそんなケニーをフランコが諌める。
「この渋滞を見てから言えよ。こんな状態でドンパチを始めたら自治会に申し開きができないぞ。下手したら担当神にも怒られちまう。そうなったらライセンスを取り上げられちまうぞ。」
「ぐはっ、それはきついっす。」
この世界では法的交通規則や罰則は存在しないが、暗黙のマナーはある。そしてそれを蔑ろにする者はオートバイの神様に叱られた。そんな罰の中でもライダーたちに一番きついのがライダーライセンスの取り上げであった。
そして程なくして連絡係のマルコが追いついてきた。
「なんだ?事故かい?」
マルコはケニーと同じ質問をフランコへしてきた。だがフランコは手短に状況を説明する。
「と言う訳なんでマルコは非村さんに連絡しろ。そして一旦C1を降りて貰え。それで親衛隊のやつらが諦めて帰ればよし、もしも下道に降りてまで非村さんたちを追うようならば俺たちで排除する。因みに戦力的にかなり不利だからマルコは非村さんたちに連絡したら待機している仲間を連れて来い。」
「う~んっ、一番最悪なパターンになっちまったか・・。まっ、仕方ないな。なんせ相手が聖邪神教会では穏便に済むはずがないんだ。そいじゃ、ちょっと行ってくるよ。でも注意してくれよ。特にケニー、お前はくれぐれも飛び出すなっ!」
フランコの説明にマルコは顔をしかめつつ、一番危なっかしいケニーに釘をさす。そして言われたケニー本人は不服そうに言い返した。
「う~んっ、なんか俺って信用ないっすねぇ。」
「当たり前だっ!お前何ざ信用してたらボヤ程度で済む話が忽ち大火災になっちまうっ!」
「ういっす、自重するっす・・。」
日頃のやんちゃな行いを注意されてしょげるケニーだが、まぁそれも若さゆえであろう。なのでマルコはそれ以上追求する事無く次の行動へと移った。
「それじゃな、多分非村さんたちはまだ反対側にいるはずだ。なので会合するまで5分くらいはかかる。その後、仲間が集まるまで30分は必要だろう。それまでは絶対事を起こすな。」
「了解。まっ、そんなに心配するなよ。いざとなったらケニーは蹴飛ばして転ばしておくから。」
「あーっ、そうだな。骨の一本も折ればこいつも暫く大人しくなるだろう。いや、念の為二本くらいにするべきか?」
「びでぇっす、マルコさん。」
「そうか?そうなったらマリから手厚い看護をして貰えるぞ?」
「それってご褒美になってないっす。マリさんっておっかないんすからねっ!」
「はははっ、それじゃ行くわ。じゃあな。」
そう言うとマルコは後ろを確認してからハザードランプを点滅させて思いっきり減速した。そして渋滞の集団から離れてゆく。
そして3分を過ぎた頃、後方から迫り来る甲高い排気音を耳にした。
「うおっ、もう来たよ。一体何キロで走っているだか。俺に気が付いてくれればいいんだが・・。」
そう呟くとマルコはV-ストーム1050のスロットルを全開にし加速を始める。それでも多分後ろから追い上げてくる男たちの速度とは80km/h以上の差があるはずだ。それ程男たちのレース速度は速かったのである。
だが、男たちもスピードに酔いしれていた訳ではない。ちゃんと前方の状況を把握しその中で可能な速度域で走行していた。なので前方にハザードランプを点灯させながら走るマルコの事も確実に視認した。
それでも男は最初速度を落とすのを躊躇したのだが、非村から注意を促すハイビームを浴びせられやむなく減速する。後を追いかけていた2ストブラザーズのメンバーたちも、何か異変があった事を感じ取ったのか非村に速度を併せるように減速した。
そして、男と非村はそれぞれのオートバイをマルコのV-ストーム1050に併走させる。そしてまずは男がマルコへ問い質した。
「何があったっ!」
「この先で聖邪神教会の連中が待ち構えてます。排除したいのは山々なんですけど、ちょっと台数が多過ぎました。しかもあいつらアメリカン系なんでノロくて渋滞が発生しています。なのでニンジャさんたちは一旦下道に降りて下さい。それであいつらが諦めればよし。諦めなかった場合は、仲間を集めて殲滅します。」
「聖邪神教会?なんでそんなやつらが?」
「まぁ、これだけ派手にレースをすればライダーたちの耳には簡単に情報が広がりますからね。」
「ちっ、一応根回しはしたんだがな。それでも這い出してくるか・・。」
マルコの説明に非村は舌打ちする。だがそれでも非村にとっては想定の範囲内だったのだろう。多分舌打ちしたのは気分良く走っていたのを邪魔された事に対してだ。なのでそんな非村に男が対処方法を問いかけた。
「どうする?一旦湾岸線に向かうか?あそこならアメリカン系なら簡単に振り切れるだろう?」
「そうだな湾岸線へ行こう。実はこんな事もあろうかと準備していたんだ。なので湾岸線であいつらを一網打尽にする。」
「なんだよ、実は俺とのレースは口実で聖邪神教会の連中とやらを誘き寄せる餌だったのか?」
「備えあれば憂い無しさ。そもそも害虫退治を兼ねるとでも言っておかないと、誰も公道レースなんか目を瞑らんだろう?」
「つまり聖邪神教会の連中を潰すのを条件に話をまとめたって事か・・。」
「まっ、あくまでリップサービスさ。だが現実となった以上、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。」
「だが、後ろのやつらは聖邪神教会とは関係ないんだろう?」
男は後ろを走る2ストマシーンたちの事を気にして非村に問うた。
「ああ、あいつらは2ストブラザーズと言ってC1をホームベースにしている走り屋さ。聖邪神教会の連中とは関係ない。なので今回はお開きという事で帰って貰おう。」
そう言うと非村は減速して2ストブラザーズの元へと向かい先頭を走っていたRG500ガンマのライダーに事の次第を告げた。
「あーっ、折角楽しく走っていたが邪魔が入った。この先に聖邪神教会のやつらが待ち構えている。なのでレースは終了だ。ただ俺たちはやつらを湾岸線に誘き出すんでもう少し走る。なんでもあいつらあまりにもノロくて渋滞になっているそうだからな。」
「聖邪神教会が?なんだ、お前あいつらともめているのか?」
非村の説明にRG500ガンマのライダー問い返してきた。
「ちょっとな。でもあんたらには関係ない事だ。多分バトる事になるから興味本位で付いてくると怪我じゃすまなくなるぞ。」
「銃撃戦をやるのかよ。参ったな、今回は走るだけのつもりだったから俺たちは何の準備もしていないぞ。」
「だろう?だから今回は引いてくれ。というか下手に大勢で追い詰めてあいつらがこっちの誘導に乗ってこないとC1でぶっ放して来るかも知れないからな。そうなると自治会も黙ってはいまい。」
「はっ、俺たちは2ストブラザーズなんだぜっ!そんな脅しは効かんよ。とは言っても装備無しじゃ徒手空拳だ。なので今回は引き下がるよ。じゃあな、今夜は楽しかったぜっ!Ninjaの兄ちゃんにも伝えてくれ、死ぬんじゃねぇぞっ!」
「誰が死ぬかっ!」
「お前らだよっ!」
RG500ガンマのライダーはそう憎まれ口を言い放つと他の仲間に合図を送り、ゲートから下道へと降りて行った。
その後、非村は男とマルコの下に戻り話が付いたので次の作戦に移ると告げた。
「まず俺とニンジャが囮となって聖邪神教会の連中を湾岸線に誘い出す。その間の時間を利用してマルコは湾岸で待機している連中に作戦の実行を伝えろ。俺たちはなるべくゆっくり湾岸へ向かうつもりだがそれでもそんなに時間はないぞ。」
「了解。それじゃ先に行きます。一応フランコとケニーを置いていきますから何かあったらケニーを連絡係としてよこして下さい。それじゃ御武運をっ!」
そう告げるとマルコは丁度よく現れたキョウバシ・ゲートから一旦下道へと降り、今度は再度C1の外回りへと上り湾岸線へ向けて走り出した。そう、高速道路ではUターンは厳禁なのである。
「どれ、それじゃ俺たちは聖邪神教会の連中に挨拶しに行くとしよう。だが慎重にな。あいつらどこだろうと構わずいきなりぶっ放してくるからよう。あんまり挑発するなよ?」
「ああっ、判った。ところで作戦ってどんなのだよ。」
「まっ、それは道すがら話すさ。」
そう言うと非村はKatanaのスロットルを開けて増速した。なので慌てて男も追随する。だが、これまでも男たちは100km/h程度の速度で走っていたのだが、その速度で会話が成り立つのだろうか?まぁ、そこら辺は触れてはいけない事なのかも知れない。