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雑文アクション「ロングラン・ハイライダー」  作者: ぽっち先生/監修俺
19/40

公道レース スタートっ!

ドゥルルルルっ!ウォンっ!

午前0時10分前。大都会『メトロポリス・トウキョー』の一角で、7台の大排気量オートバイが一斉にエンジンを目覚めさせその雄叫びを周囲に撒き散らした。

そんなオートバイたちの排気音はほぼ二通りに分かれていた。それは主にエンジンの種類と形状による区分だ。

男の900Rも含めGSX系のエンジンは全て並列4気筒という形状なのに対して、SVとV-ストームはV型2気筒エンジンを搭載していた。この違いが排気音にも如実に現れていた。

そして十分に暖気が済んだ頃、非村が男にレースの開始を告げた。


「それじゃ走るぜ。着いて来なっ!」

非村は男の返事を待たずにGSX-S1100Katanaを走らせる。とは言ってもその速度は普通だ。やはり本気で走るのはC1に乗ってからなのだろう。なので男もさして慌てる様子もなく非村を追った。

そんなふたりのオートバイに続いて見届け人役のひとりであるケビンがGSX-R1000Rで追いかける。だが他の四人は動こうとしなかった。何故なら見届け人たちはC1全体に散らばってふたりのバトルを撮影するので、ある程度時間を空けて一台づづ走り出す事になっていたからだ。

そして男と非村が『カサイ・ゲート』を通過し、それぞれのオートバイに鞭を入れた頃、漸く連絡係のマルコがV-ストーム1050にて『カサイ・ゲート』に向けて走り始めた。


グウォーンッ!

非村と男は『カサイ・ゲート』を通過後、一気にスロットルを全開にし本線への接続路を加速してゆく。そして昼間に比べればガラガラとも言える首都高湾岸線を200km近い速度で『アリアケ・ジャンクション』へ向けて疾走した。


カタログ上での基本性能では男の900Rは非村のKatanaを凌駕する。特にトップスピードでは20km/h以上の差があるはずだ。それは主に空力による差だった。男の900Rに比べて非村のKatanaは空気力学上の係数であるcd値が劣る。その原因はオートバイに付帯するカウルの有無だ。

非村のKatanaはヘッドライト周りにデザイン性を兼ねたカウルが備わっているだけでエンジン周りなどはむき出しのままである。カウルの上にライダーを風圧から守るスクリーンはあったが、それはかなり角度が立っており100km/h前後の速度なら快適な整流効果をライダーにもたらすが、200km/hを超える速度域ではそれなりに抵抗が増してしまっていた。

その点、男の900Rはヘッドライトからエンジン周りまで整流に秀でたカウルで覆われいてる。エンジン側面こそむき出しのままだったが、そこには常に更なる空気抵抗となるライダーの足があるのでそれ程のデメリットはなかった。

そんな900Rの非公式最高速度は250km/hオーバーである。これは北米のラグナセガレース場でのお披露目の時にプレスたちの目の前で実証して見せた数字だ。今でこそこの数字に驚愕の声を上げる者はいないが、当時としてはレーシングチューンを施しているのではないかと勘ぐる記者もいたぐらいである。


そんなカタログ上の数値性能ではNinjaに劣るKatanaだが、それはあくまでノーマル状態での話だ。その点、非村のKatanaは耐久性のマージンと引き換えに様々なチューニングを施されていた。

その最たる追加点は『ニトロ噴射機構』であろう。これは云わば燃料のドーピングである。

本来、エンジンの出力は排気量で決まる。なので排気量の大きいエンジンの方が当然出力は大きくなるのだ。これはエンジンと言うものが燃料を燃焼させて、その膨張圧力を軸出力に変換させる仕組みだからだ。なので燃焼させる燃料の量が多ければそれだけ膨張圧力も増え、当然それに合わせて軸出力も増加するからである。

ならば排気量の小さいエンジンも大排気量と同じ量の燃料を供給すればよいではないかと思うかも知れないがそうはいかない。

燃料が燃焼する為には酸素が必要であり、自然吸気方式のエンジンではその取り込める酸素の量は排気量によって決まっているからである。なのでそこに燃料だけ供給量を増やしてもエンジン内で正常な燃焼が起こらない。これは燃料と酸素の組み合わせには適切な混合比と言うものがあるからだ。

この混合比というものは結構シビアで、供給する燃料が少ないとエンジン内で異常燃焼を起こしてしまい温度が上昇してしまう。その結果最悪エンジンがブローしてしまうのだ。

また多過ぎても今度は燃焼が阻害され燃焼圧力が低下する。なのでただ単に供給する燃料を増やせば出力が上がるというものではないのだ。


しかし、それなら酸素の供給量も増やせばいいだろうと考えた者がいた。そして考案されたのが『スーパーチャージャー』であり『ターボ』という加圧装置だ。

これらは云わば空気の圧縮機である。動作方法は異なるが『スーパーチャージャー』も『ターボ』もどちらもタービンという超高速で回転するプレートで空気を圧縮しエンジンへ送り込む装置である。

この装置によってエンジン内へ送り込める酸素の量を増大させる事が出来た。そして、それに合わせて燃料の供給量も増やせば当然出力も上がるのである。そう、『スーパーチャージャー』と『ターボ』は夢のような装置なのだ。

だが、ならそれらの装置を組み付ければどんなエンジンでも出力が上がるのかというとそうではない。そこにはまた調整という難問が立ちはだかるのだ。


その代表的なものが圧縮比である。圧縮比とはエンジン内に取り込んだ燃料と空気の混合気体をピストンを使って圧縮した時の容積の比である。この値が大きいと着火効率も上がり燃焼圧力も増大する。

そして主にエンジンの回転数にて出力を稼ぐオートバイのエンジンは概ねこの圧縮比が高かった。

だがこの圧縮比が『スーパーチャージャー』や『ターボ』などの加圧装置と相性が悪かったのである。

気体を圧縮した場合、圧縮すればするほど圧力は高まる。そこへ点火してやると燃焼による圧力も増加して主力も増加する。だがこれにも程度があり、やり過ぎると急激な圧力膨張にメカニカル的な部分が追いつかずスムーズな動きを阻害してしまうのだ。

そこに加圧装置により力尽くで大量の混合燃料を注入したりすると、スパークプラグで点火させる前に圧縮熱により混合燃料が自然着火してしまう現象が起きる。そうなるともう出力増大どころではなくなる。それどころかかなりの確率でエンジンがブローする。

それを避ける為に加圧装置を装備したエンジンは圧縮比を低く設定するのが常識なのだ。だがこれとてこうしておけばよいという数値はエンジンによって様々である。なので後付で加圧装置などを取り付けた場合は調整作業が必要なのである。


だがそんな面倒な事をしなくてもエンジン出力をアップできる魔法の添加剤が存在する。それが『ニトロ』だっ!

因みにニトロはダイナマイトの原料にもなるくらいの危険物なのでその成分構成や取り扱い方法はここでは説明しません。なので皆さんも真似してはいけません。まぁ、これを注入すると一時的に燃焼圧力が増大してパワーが上がる程度に思っていて下さい。

但しその使用可能時間はちょっとです。だってあまりの燃焼発熱量と圧力にエンジンが壊れるから・・。しかもKatanaって空冷だし・・。よくもまぁ、非村はそんなの入れる気になったな。さすがは『スズキ』乗りだっ!?


対する男の900Rはそれ程のドーピング・・、もといチューニングはされていない。精々マフラーを4in1の集合管にし、ブレーキ周りやタイヤを高性能なものへ変更しているくらいだ。いや、もしかしたら排気量を997ccへボアアップしているかも知れないが、それを外観からうかがい知る事は出来ない。


なのでふたりのオートバイに数字上の優劣はないはずである。となれば勝負は腕の差となるであろう。しかし、非村には地元というアドバンテージがある。多分C1を走った回数だけなら男の数十倍は経験があるはずだ。

だが勝負はやってみなければ判らない。やる前からデータ上の数字だけで結果が読めるのはアクションばかりが派手で作りの雑なゲームだけだ。


なのでふたりを乗せた2台のオートバイは雌雄を決する為に今、戦いの場へと爆音を轟かせながら疾走していた。

走る、走る、どこまでも走る。2台のオートバイはそれらが誕生したその瞬間より走る事を至上の喜びとされたマシーンなのである。

しかし、ただ走るだけでは物足りない。そこに仲間がいれば一層楽しく走れるのだ。そしてそんな仲間は時としてライバルとなる。

そう、『Ninja』と『Katana』というオートバイは生まれながらに覇を競い合うライバル同士であったのである。

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