6.顔
『……死霊術師らしい方法だと?』
「上手くいくかどうかは判らねぇけどな。首尾好くいけば駄目押しの確認ってやつになるかもしれん。失敗したって、何も失うものは無ぇわけだしな」
『ふむ……』
さすがに旦那も考え込んだか。……頭が無ぇんで判りにくいが……多分、俯いて考え込んでるんだろうな……
『……その前に、何をやろうというのか訊いてもよいか?』
「おっと、確かにそっちが先だったな。俺がやろうとしてんなぁ、復顔法ってやつだ」
『復顔法? ……何なのだ? それは』
――復顔法とは、身許不明の頭骨に粘土などで肉付けして、生前の面差しを復元しようとする方法の事である。
「死霊術の中にな、死者の霊を生前の姿に似せて顕現させるってのがあるんだわ。その基本として、髑髏に肉付けして、生前の顔貌を再現する方法についても習うのよ」
『それが復顔法というやつか』
「あぁ。例えばな、頬の辺りの肉の厚さは平均してこんくらい、額の肉はこんくらい……って判ってれば、それを繋げる事で生前の顔付きが、或る程度推定できる筈……ってぇ話だな」
『ほほぉ、なるほど。……しかし?』
「あぁ。これで判んなぁあくまで、極端に太ったり痩せたりしてねぇ場合の推定値でしかねぇ。ただ、まぁ……騎士なんて商売やってたんなら、不健康に太り過ぎたり痩せ過ぎたりはなかったんじゃねぇか?」
『それは……そうかもしれんな』
「あと、髪や目の色とか、毛深いかどうかとかも判らねぇ。ひげや黒子の有る無しもな。おまけに、粘土を使って復顔した場合、作業に時間がかかるってのも難点だ」
『……思わせぶりな言い方だが……死霊術師の復顔法とやらは違うのか?』
デュラハンの旦那は訝しむように訊いてくるが、ま、見せた方が早いだろ。
・・・・・・・・
『……骨の欠片なぞ持ち出して、一体何をするかと思えば……』
実は、屍体や骨を焼いた煙は、死霊術で或る程度は操れる。術師以外はあまり知らねぇ事だけどな。
『……煙を粘土の代わりに使うわけか。器用な真似をするものだな』
「昔は幻術を使ってたらしいけどな、幻だと能く見えない者も出てくるらしいんだわ。この辺りは個人々々の資質ってやつなんだろうが……依頼人の資質に注文付けるような真似をしてたんじゃ、こちとらの商売上がったりだからな」
実際には、幻をベースに煙で象る感じだな。いきなり煙を形作るような真似をするわけじゃねぇ。
ま、この方法が確立されるまでに、色々と試行錯誤があったようだが……
「……さて、大体こんなところか。旦那が生前金髪だったってのは判ってるし、騎士だったならそこまで歳喰ってなかっただろうから、髪の毛が薄いって事ぁ無かった筈だ。兜なんて面倒臭いもんを被る以上は、髪の毛だってあまり伸ばしちゃいなかっただろう――って事で……どんなもんだい? 旦那」
旦那は暫く俺の「復顔」を見ていたが……
『……髪の毛はもう少し強い癖毛にしてくれ……あぁ、右から左に流れるような感じに……』
……おや?
『……頬から顎にかけては、いつも無精髯が伸びていたな。……むさ苦しいと叱られたものだったが……そうそう、右眼の上から頬にかけて、疵痕があった……』
「……旦那……」
『……感謝するぞ、死霊術師よ。我が名はハミルカス・バークレット。嘗てはユーフィラス王国で、近衛騎士の任に就いていた者だ』
「………………」
『既に我が祖国も滅び家も絶えていようが……思い出した事で、やっと逝ける』
「………………」
『お主の厚意に報いるにはちと足らぬであろうが、我が愛剣と道具を残してゆく。形見として使ってくれるもよし、売り払って金子に換えるもよし、お主の好きにしてくれ』
「………………」
『ただ、我が力少しばかりを宿しておくのでな。何かの役には立つと思うぞ』
「………………」
『ついでにスキルも譲っていこう 旅立つ我には不要のものだ。……ではな、死霊術師よ。改めて感謝の言葉を残していく』
「……エルメントだ」
『む?』
「エルメント・モリー、俺の名だよ。長ぇから面倒だって、エルと縮めて呼ばれちゃいるがな」
『ふふふ……そうか。……ではな、エルよ』
「あぁ、いつか向こうで会ったら、酒の一杯でも奢ってくれや」
『ふふふ……そうだな。楽しみに待つ事にしよう。……ではな、友よ』
「あぁ、先に行っててくれや、兄弟」
・・・・・・・・
……旦那は溶けるように消えていったが、その姿はもう首無し騎士じゃなかった。金髪の癖毛に無精髯、眼の上に疵のある……結構なイケメンだったんだな、旦那。
旦那が旅立った後には、約束どおり旦那の剣と、幾つかの道具が残されていた。……その一つはマジックバッグだったけどな。
俺がここへ来た当初の目的である貴族の屍体は、そのマジックバッグに収納して運ぶ事にした。……あぁ、出口が近くなったらバッグから出して、普通に抱えて運んだけどな。……マジックバッグなんて大層な代物、どこで見付けたんだって突っ込まれんのが落ちだからよ。
それと……後で確かめてみたら、確かに幾つかのスキルが生えてた。旦那の置き土産って事なんだろう。……デュラハンにそんな事ができるなんて、聞いた事も無かったけどな。
あ? 何のスキルを貰ったのかって? そいつはまた今度の話だな。
この話はこれで終わりです。一応シリーズ物として構想を立ててはいますが、次回がいつになるのかは未定です。




