4.歯の語るもの
「そもそもデュラハンってやつは筋力や敏捷性は高くなってるが、死んだ時の年齢から若返ったりはしねぇもんだ」
『何? そうなのか?』
「……知らなかったのかよ。……まぁ、記憶が無ぇって最初に聞いたからな。そういう事もあるかもしんねぇたぁ思ってたが……」
『うむ。腹立たしい事に、己が享年すら判然とせぬのだ』
「……まぁいいか。続けるぜ? 例えば年喰ってヨボヨボの爺がデュラハンになった場合、背中が曲がって膝がカクカクしたまんま、凄ぇ速さで突っ込んで来たりする訳だ」
そう言ってやると、旦那は面食らったような顔――は無ぇんだが――様子を見せた。
『……見た事があるのか……?』
「俺は無ぇけどな、そんな話があんなぁ確かだ。……で、だ。旦那の身のこなしを見ている限り、そこまでガタが来てるたぁ思えねぇ。けど体格から見ると、育ちきってねぇガキんちょとも思えねぇ」
『…………』
「それに、旦那が着てる鎧とか剣とかを見ると、後方でふんぞり返っているお偉方とも思えねぇ。戦場を駆け廻って斬った張ったの立ち会いをやってたとすると、それなりに若いと考えるのが妥当だろ?」
『……死んだ時の年齢から絞り込もうと言うのか?』
「他にも色々とあるけどな。さて、そんじゃおっ始めんぜ」
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「まずな、頭の骨にあるこの罅、縫合線って言うそうだが、こいつが歳とるにつれて消えちまうのよ。だからその消え具合から年齢を……おぃ旦那、脳天かち割られてんのが結構あんな?」
『う、うむ……そのようだな……』
……なんだ? 妙に落ち着かねぇな。……ひょっとしてアレか? 旦那がかち割ったってオチなのか? まぁともかく……
「これじゃ正確な観察はちと難しいか……」
『……お手上げというわけか?』
「いやいや、年齢の推定ってなぁ、他にも遣りようがあんのよ」
ここで引き下がったんじゃ、死霊術師の名折れだってな。
「年齢推定の前に、まずこいつを見てくれ。所々で歯が欠けちまってんのが判るか?」
『……死後に抜け落ちたのではないのか?』
「いんや。歯そのものじゃなく、歯があった筈の顎の骨を見てくれるか」
『む? ……何やら形が崩れておるような……これは……骨が減っておるのか? 歯の根が剥き出しになっておるようだが……?』
「正解だ。歯の根元の骨が溶けちまって、歯の根が剥き出しになっちまってんのよ。骨の中に残った歯の根だけじゃ歯を支えられなくなっちまって、何ヵ所かで歯が欠け落ちちまったわけだ」
『何と無惨な……呪いか何かか?』
「いんや。呪いでもできるかもしれんが、こりゃ病気の一種だな。歯周病とか歯槽膿漏とか言うらしいが……問題はだな、こんなグラグラの歯じゃ、しっかり噛み締める事ができんのか――って事なんだ」
『……上手く食物が噛めぬとかか……?』
「それもあるけどよ……力を込める時って、無意識に歯を食い縛るもんじゃねぇのか?」
そう言ってやると、デュラハンの旦那は虚を衝かれたように暫く黙り込んだ。
『おぉ……忘れておったが……確かにそうであるな。……つまり?』
「あぁ。こんな歯じゃ、碌に食い縛る事なんかできねぇ筈。つまり、ガチの斬り合い殴り合いだのは、無理なんじゃねぇかって話だ。ま、推測だけどな」
『ふむ……』
「あとな、仮にも騎士様ともあろう者が、そんな不調をそのままにしておくってのもおかしかねぇか?」
『なるほど……だとすると、この頭は我のものではないわけか……』
まぁ、決定的な証拠じゃねぇけどな。状況的に除外できると思うぜ。
「んじゃ、お待ちかねの年齢推定といこうか」
【参考文献】
・埴原和夫(一九九七)「骨はヒトを語る――死体鑑定の科学的最終手段」講談社+α文庫.
・瀬田季茂・井上堯子 編著(一九九八)「犯罪と科学捜査」東京化学同人.
次話は明晩21時頃に更新の予定です。




