第10話:革命集団メシア
私は強くなんか無かった。
だから毎日姉さんの真似をしていた。
「行くわよリリー」
「姉さんまってよー!」
姉さんは優しかった。
私が納得するまで稽古に付き合ってくれた。
姉さんは私の目標で、憧れだった。
でも何時間も何日も何年も経っても、私が姉さんに追いつく事はなかった。
それもその筈で、姉さんの体内には物凄い量の魔力が有るらしいのだ。
そしてその膨大な魔力を使って放つ魔術は姉さんだけの特別な物なのだ。
私が憧れていくら努力したところで追いつけるものではないのだ。
私はそれを知った時、姉さんを目標にするのを辞めた。
私は自分のために自分に合った魔力の使い方を勉強した。
姉さんほどの派手さは要らない、私だけの魔術を。
そんな時に初めて彼女に出会った。
彼女の名は――。
♂→♀
闇の塊が消えたあとの城下町は静かで騒がしかった。
「……わからない。ただ身体が勝手に動いた」
ただ俺のことが分からないのは俺も一緒なのだ。
俺を囲む見物人もリリーも俺も、誰もが呆然としていた。
さっきまで右手に突き刺さっていた塊ももうない。
黒い霧となって消えてしまったのだ。
「街が……」
一人の見物人が俺の奥の方を見て言った。
街は半壊状態だった。
通りは丸く抉れ、その中には木片や果物や肉片が散らばっていた。
通りを両側から挟むように建てられていたお店も半壊、中の様子が丸分かりになってしまっていた。
紛れもない、これはあの黒い塊がやったのだ。
そしてそれを俺が倒したのだ、信じられない。
「おお! これはこれは!」
「……!」
上から声が聞こえてきた。
ある一つの半壊した建物の屋上に一人の男が立っていた。
黒いマントを羽織りこっちを不敵な笑みを浮かべながら見ていた。
「メシア……ッ!」
「リリーさん、あいつ知ってるんですか?」
「簡単に言うと私たちの敵よ」
敵!?
あいつが……!?
「いやぁ、そんなに睨んで怖いねぇっと」
バシッと男が一瞬で消えて俺らの前に移動した。
「うわぁっ!?」
瞬間移動か……!?
魔力にはそんなことも可能なのか。
「でも、君の能力は実に興味深い」
ぐいっと俺の顔に男の顔が近づいてくる。
その赤い目の奥に含まれている何か不穏な闇が見え隠れしている気がする。
「……お前、何者だ」
「ちょっと! 彼女から離れなさい!」
リリーが男に向かって言い放った。
俺は男から離れる。
なんかこいつはやばい気がする。
「まあまあ、そんな殺気立たなくてもいいじゃないか。今はまだ時ではない」
ズバッとまたもや男は店の屋上へと戻った。
「とりあえず今日は挨拶のつもりだ。またいずれ私は現れるよ、ではまた」
バシュッと男は今度は完全に消え去った。
「……」
皆口をぽかーんと開けていた。
一瞬の出来事で何が何だか分かっていないようだ。
そしてそれは俺もそうだった。
「リリーさん、何なんですかあいつは?」
「あいつは革命集団メシアの幹部」
「革命集団メシア……?」
聞き覚えの一切ない言葉に俺は首を傾げた、が周りの人間は違った。
皆がおどろいた表情をしていた。
ああ、この世界では常識なんだな。
「簡単に言うと、メシアは今の魔王を殺して、世界の舵を握ろうとしている集団よ」
「こ、殺す!? な、なんで!?」
「今の魔王のやり方が気に食わないからよ。今の魔王は世界のバランスが壊れないようにしているの。ただメシアはそれが気に食わないみたい。メシアは自分たちの利益の為なら他がどうなってもいいと思ってる。そして世界を動かす権利は魔王が持っているの。だから魔王を殺してその権利を奪おうとしているの。簡単に言うとね」
どこの世界でもこういうのはあるのか。
人間界でもよくあることだ、自分のことしか考えない奴は多くいた。
「どうにかすることは出来ないんですか!?」
一部の人間の圧倒的で独占の幸福よりも、全員の微小の幸福の方が絶対に大事なのだ。
それを奪おうとしている奴ら、冗談じゃない。
「うーんそうだね。まあさっき分かったけどアリアの戦闘能力は何かセンスを感じたわ。良かったら私と一緒にメシアと戦ってみない?」