プロローグ
サキュバスってエロいよな。
一七の夜、ふとそんなことを思った。
「ふぅ……」
ドサッとベッドに大の字になる。
枕元のごみ箱にはティッシュの山が築かれていた。
これらは俺の、まあアレだ。
そんなことよりサキュバスである。
なぜ今の今までそのエロさに気付かなかったのだろうか。
もっと前に気付いていたら更なる楽しみが増えただろうに。
しかしこんな時は逆に考えよう、今気付けて良かったと。
これがもっと遅れていたら、更にそのショックは大きかっただろう。
「……」
さっきまで見ていたスマホのページをそっと閉じる。
また明日、きっとお世話になるだろう。
神崎瑞樹は今の今まで彼女なんか出来た事がない。
学校のクラスメイトの男どもは卒業しているやつが結構いるのだ。
そんな中俺は未だに在学中と。
こんなの俺は俺自身が不憫でならない。
そしてクラスの男どもは俺を煽ってくるのだ。
『お、まだ在学中なのか?』と。
俺はそいつらのニヤけ顔を殴りたくてしかたがない。
そして俺も『魔法使いになりたいだけだからいつでも卒業できる』とかよく分からない言い訳をしてしまう始末。
本当は俺だって卒業したいわ!
とまあ、そんなこんなで俺はきっと明日もサキュバスのお世話になるだろう。
「はぁ……」
ため息を吐きながらwebの閲覧履歴を削除して俺は目を閉じた。
彼女、出来ないかなぁ……。
一体俺はいつのいつまでサキュバスに頼ることになるのだろうか。
心の中で小さな涙を流しながら俺はそんな事を思った。
この時はまさか自分がサキュバスになるなんて思いもしていなかった。
♂→♀
「あ! やっとお目覚め? いっぱい寝てたわね」
「……え?」
俺は寝ぼけているのか……?
目を二、三度ぱちぱちする、が見える景色は変わらない。
超が付くほどの赤髪ロングも美少女が俺を覗き込んでいた。
それだけじゃない、よく見ると彼女の頭には何やらツノのような物も生えていた。
いや、更によく見ると、黒い羽も黒くて長い尻尾も……!
「よ、よくできた、ゆめ……?」
余りにも現実離れをしている目の前の光景に言葉も掠れる、訳が分からない。
「まあ、そうなるのも無理はないわね」
にひっと白い歯を見せて彼女は笑った。
余談だが美少女×笑顔は最強だと思う、うん。
「でもまあ、とりあえず起きてみようか。そっちのほうが手っ取り早いしね」
そう言って彼女は俺に白くて細い手を差し出す。
見るだけで分かるすべすべした美しい手に俺なんかが触れて良いのだろうか。
いや、なんか知らないけどこんな美少女の手を握れるチャンスなんだ、この際夢でも何でも良い!
俺はゆっくりと彼女の手を握った、細くて白い指で。
「えっ……」
何かがおかしい。
立ち上がろうとした身体を反射的に引き留める。
俺の手はこんなに奇麗ではない、そしてこんなに細くもない。
「あ、気付いた?」
「っ!?」
問題は手だけではなかった。
まず視界に飛び込んできたのは胸、というよりこれは、
「おっぱい……?」
黄色ベースの可愛らしい寝間着から零れんばかりの大きさだった。
そして次の違和感は髪の毛だった。
髪の毛のさらさらとした感触が、普段は絶対に感じない肩や背中にあった。
「な、なんですかこれは……」
出した自分の声は高くて可愛らしかった。
「あはは、最初は慣れないかもだけどごめんね。今の君の姿は見ての通りだわ。そしてさらに」
彼女は鏡を片手に俺の姿を映し出した。
「っ!」
鏡に映るのは絶世の美少女だった。
髪の毛は長い金髪、目はぱっちり二重、鼻はすっと通っていて美しく、唇はぷっくりと奇麗な形をしていた。
そして極めつけは、
「ツノ……?」
まるで夜に見たサキュバスの漫画だった。
「ツノだけじゃないわ」
ほらと彼女は鏡で俺の背中の方を映した。
鏡には紺色の小さい羽が生えていた。
そしてよく見るとその後ろ側には尻尾がぴょんぴょんと踊っている。
「こ、これは……?」
全くもって訳が分からない。
今のこの状況が!
一体何が起きているのか!
「まあ、話すと長くなるから簡潔にするわ。とりあえず君の人間としての生活は終わり。これからはサキュバスとして生きるのよ。これからよろしくね!」