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東京九龍デーヴィー  作者: 高月満
5/13

東京九龍デーヴィー 5

 眩しい。

遠田は思わず目を瞑った。

建物の中が薄暗かったために、日光がなおさら目に染みた。

 「こちらです。」

羅志が指した場所には一体の仏像と色とりどりの花が祀られていた。

敷物はインドの物のようであった。

一礼して中に入る。人は誰も見当たらない。

 「午前だとお年寄りの女性がいるのですが……いまは誰も参拝しにきていないようですね。」

羅志が少し申し訳なさそうに言った。

 「いえ、大丈夫です。」

仏像には本来よく見る螺髪の代わりに、黒髪がたくわえられていた。琵琶を持ち、口元には柔らかい微笑みが浮かんでいる。先ほど羅志は弁財天が祀られると言っていたがその言葉に嘘はないようだ。

 「信者はどれくらいいますか?」

 「インド人の方は頻繁に訪れて祈ることも多いです、特にご高齢の女性の方は。中国人の方は時おり来て祈る人がいる程度です。一応、自治体を中心に住民でこの施設の維持や掃除は行っています。」

 「なるほど…ここの写真撮っても大丈夫ですか?」

 「ええ、構いません。」

この後、森松教授に資料を提供しなければならない。

遠田はなるべく細部まで写真に収めた。

 「ありがとうございます。これで大丈夫です。」

 「何か他にご質問が有ればお答えしますが……。」

遠田は羅志の好意を丁寧に断った。

質問と言っても、遠田は下請けの下請け程度の立場で調査に来ている。これだけ情報があればとりあえずはいいだろう。

 「それでは出口までお送りします。ここは作りが複雑ですから。」

羅志は先ほどとは異なる扉から建物の中に入った。

再び香辛料の香りが漂ってきた。

 「そういえば、ここに来るとき子どもが自治会の事務室まで案内をしてくれまして」

遠田はふと思い出して羅志に話しかけた。

羅志の口からふっと息がこぼれた。

 「それはチャリタリだと思いますよ。よく自治会の手伝いをしてくれる子どもです。日本語も私達が話しているのを聞いて自然と覚えてしまって……話しかけられたのでしょう?」

全てを見透かすように羅志は話した。

どうやらそのチャリタリという子供とは仲が良いようで横顔が柔らかい。

 「ええ、上手な日本語でしたよ。」

 「チャリタリに伝えておきますね。きっと喜びます。」

羅志と話しているうちに、赤い提灯が道を照らすようになっていた。

いつの間に景色が変わったのか。

 「着きました。お気をつけてお帰りください。」

来た時に見た門が前に現れていた。

 「ご協力ありがとうございました。」

 「こちらこそ、ご足労ありがとうございます。」

森松教授にこれ以上頼まれごとをしないと良いが…遠田は帰路に着いた。

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