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兄さんのランクアップ

カズナリの拳が岩のようなものを纏い、熊のスケルトンの顔を殴ると簡単に骨が砕けて動かなくなる。


アイナの魔法で強化されているからだろうか、それとも地の魔法があのスケルトンに有効なのだろうか。


一応僕もスケルトンとの戦闘経験はあり、スケルトンの弱点は少しは把握している。


スケルトンは普通の生き物と違って骨同士を筋肉が繋いでいるわけではない。


見た目だと骨同士の間は何もないのだが、実際は魔力が筋肉の代わりを担っている。


なので剣などで骨を切ってもなかなか倒すことはできない。


兄さんはサザラテラ周辺で最も初心者向きで数が多いモンスターがスケルトンとゴブリンだと調べてから武器を選んだ。


本当は刀を使いたかったのだが、僕のナイフは切れ味が高い事からバランスをとる為にロングソードを選んだ。


僕はロングソードも切り裂くタイプなので同じだと思ったが、実は全然違うらしい。


刀は切断。


剣は叩き切るものなのだとか。


剣はもともと全身を鎧で覆っている対人間用に作られた武器である。


なので戦う時に相手を叩き切って殺すことが難しい。


ならばどう戦うと言うと、鎧を叩いて相手を気絶させる。


金属の鎧を金属の剣で叩くことによって中で音や振動が増幅して眩暈を起こす。


実際に武器屋で全身の鎧を着てみたが、兜を被った状態でコンコンと鎧を叩かれるだけでかなり響く。


あとは体勢を崩した相手に止めを刺せばいい。


「護って」


アイナがナイフを地面に刺し、カズナリに突進してきたイノシシのスケルトンの前に壁を作る。


僕がタイラント戦で作った壁と色が全然違う。


かなり魔力を使って硬度を上げているに違いない。


その証拠にイノシシのスケルトンは壁にぶつかると自らの力で頭が粉々になった。


「兄さん!兄さん!」


兄さんの体を全力で揺するが目を覚ます気配がない。


一見アイナとカズナリのお陰でこちらが有利になるが、アイナたちは逃げると言っていた。


「ちょっと早くして」


「でも、兄さんが目を覚まさなくて」


「もう、手がかかる」


アイナが兄さんに馬乗りになり思い切りビンタをする。


バチンと大きな音が鳴るが、アイナは兄さんの反応を待たずに2度、3度と連続でお見舞いする。


「ぅぇあ・・・」


兄さんが変な声を出して目を覚ます。


「逃げるからさっさと目を覚まして」


「え?」


アイナがどくと兄さんが直ぐに跳び起きる。


カズナリが例のローブを纏ったスケルトンに接近しているが、よくわからない攻撃に苦戦しているように見える。


地面や空、ありとあらゆる場所から先端の尖った骨が現れて攻撃しているのだ。


手に持った杖で操作しているようだが、足元と上空からのと飛び道具に対して拳で戦わなければいけないカズナリはかなりやりにくそうだ。


「戦えないよね?」


「いや、そんな事は言ってられないでしょ」


「いいえ。無理して命を賭ける必要はない」


アイナは僕と兄に荷物を持たせると背中を押して走らせる。


まさかカズナリを置いて逃げるつもりだろうか。


「まって、君の兄さんは」


「足止めは必要でしょ。それに生きていれば何とかなる」


僕が何を言ってもアイナは聞いてくれない。


兄さんは状況を察しているのか僕の分の荷物を持って走りだしている。


僕たちは振り向かず、そのままサザラテラの方角へ全力で走った。



―――どのくらい走っただろうか。


街の方からやって来た馬車を見てやっと足を止める。


「はぁはぁ・・・」


2キロ程度だと思うが息が上がって苦しい。


来た道を見ると、遮るものがないので先ほどまでいた場所が見えるのだが、視力の悪い僕には戦闘の様子は見えない。


「タイラントはどうした?冒険者ギルドにいた強いやつらに頼んでついてきてもらったぞ」


そう言って馬車から跳び降りたのは護衛のクエストを一緒にしていたパーティのリーダー。


作業員を非難させた後、僕たちを助けるために人を集めてきてくれたみたいだ。


「タイラントは倒したけど、その後にまずいやつが現れて逃げてきた」


「やばいやつ?」


「とりあえず、私たちじゃ無理。一度ギルドに行って正式にクエストを組んでもらった方がいい」


「本当だ。なんだあれ」


馬車の上に一人の冒険者が上り、手を双眼鏡の様にして様子を見ている。


背中に弓を背負っているので索敵スキルで様子を見ることが出来るのだろう。


「でも、誰かが戦っているみたいだけど」


「私の兄さん。でも、大丈夫」


アイナがナイフを構えて詠唱をする。


「今すぐ私の元へ戻って」


そう言うと兄さんを召喚したときと同じ光が現れ、その中にカズナリが片膝をついていた。


「倒せそう?」


「無理だ。接近も難しいし、攻撃を当ててもやたら硬い骨で防がれた」


二人とも何事もなかったように話しているが、まわりは見慣れない光景に唖然としていた。


「あぁ、私召喚術師なので」


「なんだそうだったのか。俺初めて見たよ」


「俺もだ。嬢ちゃん若いのにすげぇな」


召喚術師は珍しいのか、全員がアイナの実力を認めてすぐさま引き返す。


結局のところこれが大正解で、冒険者ギルドの調査によるとあのローブを纏ったスケルトンはサマエルというスケルトン系のアンデットの上位種だった。


強力な魔法を駆使するリッチに並ぶモンスターで、精霊の力が関係する魔法を使う事は出来ないが、強力な死霊術と魔力を骨に変化させて攻撃と防御を行うなどかなり手ごわい相手だ。


現在、大陸の西に魔王軍との最前線があるのだが、そこにある建設中の都市ミズガルズにいるような冒険者じゃないと歯が立たない。


残念なことに北北西の開拓はしばらく延期されることになり、僕たちは護衛のクエストを失った。


幸いなことに倒したタイラントの核をアイナが回収してくれていて、討伐報酬として40シルバーが冒険者ギルドから支払われた。


さらに僕たちの状況を知ってアイナが自分たちの分のタイラントの報酬も譲ってくれた。


それに今回の報酬で所持金がぎりぎり1ゴールドと50シルバーに届く。


僕たちはマイスナー流通に急いだ。


「ニャニャ、君たちは運がいいニャンね」


出迎えてくれた二足歩行する三毛猫、タマリが出迎えてくれる。


アイテムの購入はいつでもできるのだが、アイテムの合成はドラゴン達しかできないので指定された日時にしかできない。


だが、どうやら今日は合成が出来るドラゴンがここにきているようだ。


「私にやれと?」


「まぁまぁ、今回の世代は優秀ニャンよ」


タマリに言われてか、奥の部屋から見慣れたドラゴンが顔を出す。


ドラゴン達はみな同じ顔に見えるが、司祭服を着て錫杖を持ったそのドラゴンは強く印象に残っていた。


僕たちのサバイバルを仕切っていたドラゴンだ。


「生き残ったものの中でこの人間は最も非力。ポイントも2ポイントとお世辞にも優秀とは言えないが」


「大器晩成タイプかもしれないニャン」


「ほう」


そこからタマリがドラゴンを説得してくらた。


どうやらアイナたちは随分と強いと思っていたが、素行の悪い男はすでに西に向かっているらしい。


サザラテラから西に向かうほどモンスターたちは強くなり、その分モンスターの素材やクエスト報酬は高くなる。


アイナたちも西へ向かうために仲間を募集している期間の穴埋めとして護衛クエストを受けていた。


最後に残った女の人も今はマイスナー流通で働いており、バリバリと仕事をこなしているらしい。


「わかった。奥にいるから準備が出来次第くるといい」


「ニャニャン。コーヒーを入れさせるニャン」


タマリの説得が効いたのか、ドラゴンが奥の部屋へ歩いていく。


「ありがとうございます」


「気にしなくていいニャン。情けは人のためならずってやつニャン」


「頑張ります」


兄さんとタマリが仲良く話しているが、僕にはそんな余裕はなかった。


今でも兄さんの知性は蝕まれ続けている。


それは僕が不甲斐ないせいだ。


一番安い1ゴールドの腕輪を買って、ドラゴンの部屋へ向かう。


この合成に50シルバーの費用が掛かる。


そして次にランクアップをする場合は2ゴールド50シルバーのアイテムと合成代で3ゴールド。


先が思いやられるが、まずは目先の事に集中しよう。


ドラゴンは兄さんを椅子に座らせると兄さんの頭に手を当てる。


そして暫くすると謝った。


「先ほどの無礼を謝ろう。召喚主は非力だが、この使い魔は優秀だ」



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