ふくよかでやわらかなお嬢様アピール
私は、毎日ダイエットの神である王子様の公式サイトの動画を鑑賞している。運動している姿がス・テ・キ。そして、細マッチョな腹筋も腕も足も、彼の全てがいい感じなのだ。つまり、恋している状態の私は明日の個人レッスンに備えて舞い上がる喜びに満ちる。自分でも小さいとは感じていない、でかいけれどハリと弾力のあるおしりを振りながら、全身が映る大きな鏡でジャージのおしりの部分を自らチェックする。何気にぴったりしたジャージの贅肉でぱんぱんのおしりには、下着のあとがくっきりうつっている。下着のラインを見て、彼はどう思うかしら? やっぱり私の下着の形や色を想像したりするわよね?
誘惑作戦よ。男性は女性のおしりに魅力を感じる割合が高いという統計を見た事があるわ。どこで見たのかは忘れたが、そんな統計などに頼らなくても、私のようなやわらかでふくよかなおしりに魅力を感じない男はいないはずだ。特にデブ専ならば顔立ちこそきれいで気品のある私のおしりを見たら、見ているだけではものたりなくなり、つい触れたくなることは間違いがない。明日のフィットネスの個人レッスンのときに、どのような姿勢で、いかにおしりを美しく見せるかというポーズの練習を一人で夜な夜な練習する。私は真剣だ。恋は勝負なのだから。
そして、巨乳というよりは、贅肉がつまった乳をどういった角度から王子様にお見せするか、これも毎日特訓している。毎晩私の姿を鏡で映し、美しいポージングと決めポーズを考案する幸せな時間。
しかし、現実は厳しい。せっかくの美しいポージングも筋トレの時間には辛さと筋肉の痛みでそれどころではなくなっている。王子の個人レッスンは厳しい。だから、水をのんだら、即次の運動という連鎖的な運動で、美しいポーズを決める余裕などなくなってしまうのだ。汗がだらだらで、せっかくの化粧は崩れ落ち、ファンデーションははがれ落ちる。元々色白なので、美白には自信はあるが、好きな人の前では化粧をばっちりした姿でいたい。乙女心はファンデーションと共に崩れ去る。残念なのだが、太っている人は汗を人一倍かくからなのか、汗だくで髪の毛がぼさぼさの状態で顔を真っ赤にして腹筋を鍛えていると、王子のとどめのひとことがわたしの肛門に突き刺さる。
「息を止めない!! 呼吸を忘れるな!! 顔がサルみたいにまっかだぞ」
と半笑いの王子様。
そうだ、おしりを突き出す運動ならば、私の美しい桃のようなヒップをアピールできるはず。
汗だくでビショビショになったジャージ姿の私は、先生に大きな自慢のおしりを突き出す。
「汗でびしょびしょじゃないか。でかいケツのあたりがしみになってるぞ」
え……私、そんなに汗で濡れてる? まさか、お尻がしみになってるなんて??
「先生、ちょっと私のおしりに興奮しなかった? だって、こんなにふくよかで弾力のあるやわらかなおしりってそうそういないと思わない?」
見上げると先生は目のやり場に困った顔を一瞬見せたが、
「もっとしごいてやる。メス豚からメスになりたい奴だけついてこい。ここからは更に過酷だ」
私の白いTシャツは汗だくで、ブラジャーが透けて見えるかもしれない。若い男を目の前に……これって、公開処刑? いいえ、公開アピールよ。濡れた女の美しさをアピールするいいチャンスじゃない。
練習した一番かわいく見える角度で彼を下から見上げて胸を強調してみる。
「少しは私にときめいてくれた?」
「おまえ、贅肉、脂肪が多すぎだぞ。その体型で、毎日あんなに自分の姿をモデルが如く写真に撮って送ってくる生徒は初めてだ。早死にしないように適度な体重を維持しないと未来はないぞ」
先生は、動揺することなく事実を述べる。悪口ではない、仕方がないことに事実なのだ。
「あのなー、まぁ、筋トレをちゃんとやっている動画を欠かさず送ってくるのは俺としては、成長を感じる喜ばしいことだがな。ケツだけアップで送ってくるのはどうかと思うぞ。他人が見たら俺が趣味で女のケツ動画を見ていると思われるだろうが」
「私、おしりには自信あるの。あと、豊満な胸も」
「この手のタイプは痩せたらなくなる胸だな。贅肉のおかげで大きく見えているだけだと思うがな」
「先生、詳しいのね」
「……」
「とりあえず、風邪ひくから、ぐしょぐしょになった服は着替えてこい」
「私、先生にもっとぐしょぐしょにしてほしいなぁ」
「ここからは、マジできついトレーニング入れるぞ」
「やっぱり、今日はこれくらいで終わりにしまーす」
やっぱりデブな女がいくら頑張っても振り向いてもらえない、これが現実だ。ため息が出る。