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9. 王子の頑張りに期待する

「では、私は『解呪』の準備をしてきます。メープル、手伝ってくれる?」


 そう言って、シンシアたんはさっさと部屋を出て行った。

 あ、でも扉開いたままだし、影からスカートと足が見えてるからそこにいるわ。

 部屋の中で待ってればいいのに。

 くいっとカップの紅茶を飲み干して、メープルちゃんも席を立った。

 扉に向かいかけ、クルっとターンしてこちらに小走りで寄ってくる。


「あ、あの……」


 ん? と小首を傾げると、メープルちゃんが顔を右耳に寄せてきた。


「私とも、仲良かったからね? ほら、あの、助けてくれるぐらいには、気に、かけてくれてたみたいだ、し……?」


 そう言って顔を真っ赤にすると、メープルちゃんはスカートをひるがえしてダッと扉から出て行った。

 やっべ、何だあの可愛い生物。さっきの情報云々に絡めてるのか、策士だなー、メープルちゃん。

 うーん、さすがだな、主人公、惚れるわ、これは。

 モテモテだな、王子。でもどうせなら、シンシアたんの好感度を上げといてちょうだいよ、王子。

 まぁ、とりあえず。


「ねぇ、ちょっと二人に聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「?」


 ゼファーが居住まいを正し、リカルドくんが小首を傾げた。


「シンシアたん、なんか変じゃなかった?」

「いや、アレックスが言うな」

「ア、アレクの方が、変」

「変って口調のこと? それは今は無視してくれると嬉しい。それよりも、シンシアたんのことでしょっ!」

「だから、そのシンシアたんって何だよ――、何ですか」

「あ、いいよ、普通の口調で。ゼファーが丁寧に話してくるのって、なんか気持ち悪い」

「きっ――」


 ゲームではため口キャラだったからなー。

 そういえば王子には怒られなかったんだろうか? 俺にもため口で話しかけろ、とか。


「……アレックスにため口を利いた覚えは無いのですが?」

「ちょこちょこ素が出てるよ?」

「――っ、昨日は、慌ててたのと安心で素が出ていたのかもしれませんが、今は、いや、いい、わかった。要望どおりにしよう」


 まるで別人だな、とゼファーが小さくつぶやいていた。するどいじゃないか。


「話を戻して、変じゃないのなら、シンシアたんは昔から王子、俺にきつかったの? 何したの、過去の俺?」

「え? そんなことないよ?」

「クラスも違うし、そんなに接触も無かったが、少なくともさっきみたいな態度は見たこと無いな」

「それじゃ、やっぱり変なんじゃないの?」

「変と言えば変だが、アレックスがそれにも増して変だからな」

「う、うん。なんか、えーっと……」


 リカルドくんが言いよどんでる。遠慮しなくていいのよ?


「王子、少しよろしいですか?」


 もじもじしているリカルドくんを見詰めていると、エルリスさんが声を掛けてきた。


「はい、なんでしょう?」

「率直に申しますが、先ほどの王子のシンシア様へ対する下心の籠もった眼差しは気持ち悪いです。同じ女性として、シンシア様に同情を禁じ得ません」

「えっ?! 純粋な好意だよっ!?」


 そんなひどいっ!? 下心なんて、そんなっ!!

 ……籠もってたのかしら? 興奮しすぎてたか?


「少なくとも、見られる側としては気分の良いものではございませんでした。特にシンシア様は衆目を集めることも多く、そういう視線には敏感かと思われます。好意なのでしたら、態度を改めることをお勧めします」


 そう言ってエルリスさんが深く頭を下げた。

 リカルドくんも激しくうなづいてるな。

 くっ、確かにそういう視線はわかる。気持悪いのも理解出来るが、女同士なら多少は――

 ……あぁ、王子だったわ、今。


「あ、今、理解しました。おっしゃるとおりです、気をつけます」


 ぺこりとエルリスさんに頭を下げた。


「いえ、出過ぎた真似を致しました、申し訳ございません」


 再度頭を下げ、エルリスさんは一歩下がった。

 いや、しかしさすがエルリスさん、大人の女性だな。私より年下っぽいけど。


「でも、誤解しないでね。シンシアたんとどうこうしたいとか邪な想いじゃないの。ただ、そのお姿を眺めたいだけだし、出来れば微笑みかけてくれたらなー、ってぐらいで」

「十分邪な気もするが…… 俺は特に微笑みかけられた記憶は無いな」

「そ、そうだね。微笑んでいるところは見るけど。あ、あと、メープルとはよく笑い合ってる……」

「確かに。 ……そういえば、男子生徒に笑いかけてる姿は見たこと無いか?」

「あまり、話しかけることも無い、かも。僕は、たまに話すけど」

「え、何? それは嫉妬してくれ、ってこと?」

「えっ、えっ?」

「アレックス、リカルドに絡むな」


 ついでに、ちょこちょこと学園生活について聞いてみた。

 リカルドくんも大分話してくれるようになったなー。

 あと、シンシア『たん』は止めろ、と強く言われたので気をつけることにする。

 コンコンコン、とノックの音が聞こえた。

 エルリスさんが対応して扉を開ける。

 開けた扉から、シンシアたんが――


「教会服、キターーーーッッッ!!!!」



  *****



 ……

 …………


 ……さて。

 王子には謝りのメールを書いておこうと思います。

 あと、なんとかシンシアたんとの仲を回復しておくようにもお願いしておこうと思います。

 あわよくば、手をつないでも不自然じゃないぐらいまでになっておいてくれるといいな。

 療養のため、庭を手をつなぎながら散歩、アリだな。

 あ、途中で疲れてベンチに座って膝枕とか?

 ぐふふ……

 おっと、いかんいかん、手紙手紙。

 現在は晩御飯も終わり、就寝前。あまり妄想してると寝ちゃうからね。

 えーっと。


 『解呪』は効果なかった。まぁ、呪いじゃなくて入れ替わりだしなぁ。

 あ、呪いが原因の入れ替わりなら効果あったかもしれないのか。まぁ、とりあえず違ったようです。

 シンシアたんより高レベルな呪術師かもしれない、との話も出たけど、まぁ、呪いっぽくないそうです。

 しかし、すごいね、本当に魔法ってあるんだねー、この世界。

 まぁ、エバシンなら無いと困るわな。バトルパートあるし。

 ……バトルパートあるな。あれ、私大丈夫かな、魔法使い方わかんないけど。

 まぁ、怪我人だからすぐにどうこうは無いと思うけど。

 ……出来れば、王子がこっちにいる間にバトルパートは済ませておいて欲しいなぁ。

 話がそれた。

 シンシアたんからの反応は変わらなかった、というか悪化したが、晩御飯は一緒に取ってくれた。

 その後、メープルちゃんたちとおしゃべりする時も残ってくれてた。目は一切あわせてくれなかったけど。

 ……おかしい。シンシアたんはもっとこう、優しくて気さくだったはずなんだけどなぁ?

 下心だけであんなに嫌われるものか?

 ……私でも嫌うかも知れない。いや、でも知り合いならあそこまで嫌わなくても?

 なんだろ、中身違うってばれてるのかしら?

 まぁ、そこらへんは王子に期待しよう。頼むから、親密度を上げておいておくれ。

 あ、ここ、強調しておこう。

 そういえば、おしゃべりの時に学園の時の様子や思い出話を聞いたついでに、今後の予定とか状況も聞いた。

 森の視察はまだこれかららしい。場合によっては、王子が抜ける代わりにシンシアたんが入って視察することも視野に入れているらしい。王子の状況次第とのお話だ。

 まぁ、王子がこっちにいる間にしてくれたらいいんじゃないでしょうか?


 と、こんなことをまとめて記しておいた。

 あとはコレを封筒にまとめて入れてエルリスさんに渡しとけばいいのか。

 今日貰った手紙の封筒にそのまま入れといたらいいかな?

 わかりづらいか?

 あ、口調や人物のメモは残しといて、も書き記して一緒に渡すか。

 ……そういえば、封筒ってあるのかな? 王子からのやつ切っちゃったしなー。

 エルリスさんに頼むか。

 ベッドから出て扉に向かう。

 ……向こうでも魔法使えたら骨折治せるのになー。王子、魔法で治してくれてないかなー?


「エルリスさんいます?」


 扉を開けて外を覗くと、騎士っぽい人がいた。反対側にもいるな。

 見張り?


「王子、療養しておいていただかないと困ります。用事の際は、ベルを鳴らすかお声を掛けていただければ」


 別の扉が開き、中からエルリスさんが出てきた。

 そのまま部屋に入ってこようとする。


「あ、たいした用じゃないので。これを――」

「中でお伺い致します」


 渡そうとした手紙を押し留め、するっとエルリスさんが中に入ってきた。

 そのまま手を取ってベッドの方に誘導される。

 返って申し訳なかったかな?


「あの、この手紙をまた王子に渡して欲しいのですが」

「それは構いませんが、封蝋は……?」

「あ、封筒も無いので、ついでにやっといていただければ、駄目ですか?」


 封蝋の仕方とかわかんないし。


「では、一式お持ちいたします」

「あ、いいですいいです。というか、出来ればやっておいていただけるとありがたいんですが」

「さすがにそれは……」

「どうしても駄目ならしますけど……」


 エルリスさんが困ったようにこちらを見つめてくるが、すっとお辞儀をしてきた。


「……承りました。ただ、少しお待ちください。運ぶ準備をして参ります」


 そう言ってエルリスさんは部屋の外に出た。

 少し経った後、ワゴンを押してまた部屋を訪れ、紅茶を入れてくれた。

 ワゴンに隠すように手紙を受け取ると、一礼して部屋を出て行った。


 よーし、じゃ、これ飲んで寝ますか。

 明日は病院かな? それともここかな?

 病院がいいなー。ゲームもだけど、攻略本も和文くんに買ってきてもらおうっと。

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