表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

8. 王子何やってんのよ、もう!

 シンシア・シーソルト。

 ここ、聖・バーディニア王国の国教である、パティール教の現・女教皇様の下の娘。

 ちなみに、パティール教は家族愛をメインの教義にしているので、結婚はOKだ。というか、結婚していないと重要な役職に就けないらしい。

 えーっと、話を戻して、ゲーム誌でキャラの立ち絵とスチル絵を見て、私はシンシアたんに一目惚れした。

 肩甲骨辺りまであるハニーブロンドの髪、桜色の瞳、可愛いより綺麗系。薄く微笑みを浮かべる凛とした立ち姿に深めのスリットから覗く御御足(おみあし)が美しかった。

 そんな立ち絵の横にある、主人公と二人サンドイッチらしきものを食べ歩きながらこぼれんばかりの満面の笑みを浮かべているスチルのギャップに一目ぼれした。この美人さんが、こんなに可愛く笑うのか! と。

 シンシアたん最高!

 実際プレイしても、最初は大人しくて儚げだけど、好感度をあげるうちにだんだん打ち解け、ノリも良くなり、包容力に溢れるタイプで悪乗りにも付き合ってくれる。

 優秀な母親やお姉さんを誇りに思うと共に自分の未熟さに悩んだり嫉妬したり。忙しい家族に寂しい思いをしたり、当たり前に思っていた家族からの思いやりや愛に気づいて涙したり喜んだり。

 結構寂しがり屋で甘えん坊だったり、落ち込む主人公の隣に何も言わずずっといてくれたり、サボってると厳しく叱ってくれたりあーーーーーっっ、シンシアたーーーーーーーーーんっっっっ!!!!!!!!


 そんなシンシアたんが生でお目見えですとっ!?

 やばい、お風呂に入って体を清めなきゃっ!

 一張羅、一張羅ださなきゃ! あ、でもシンシアたん教会服で来るのかな? それとも制服?

 教会服の方がいいなー。制服も可愛いけど、スリットみたいよねー。

 それによって私も服装変えた方がいいかな? って、そもそもこれ、王子の体だぁーーーっ!!

 シンシアたんと2ショットとっても王子と一緒になるのかー。うーん、まぁいいかー。王子なら横に立ってもそれなりに映えるだろう。

 とりあえず、お風呂だな、お風呂。


 と思ってお風呂に向かおうとすると、エルリスさんに止められてベッドに寝かしつけられました。

 もしかして、思考が口から出ていたのかしら? エルリスさんはすまし顔のままだし、メープルちゃんはぽかんとした顔のままだったからよくわかんなかった。



  *****



 ……いつの間にか寝てしまっていたらしい。

 エルリスさんの子守唄は魔法か何かなのかしら? 楓子にも効くのなら、教えて欲しいなー?

 どのくらい寝たんだろう? 時計が無いの不便だな、魔法でなんか出来ないものなんだろうか?

 と、遠くで鐘の音がした。なんだこれ?

 と、コンコンコン、とドアがノックされた。


「はい」

「王子、お昼をお持ちしました」

「あ、お願いします」


 お、とすると、さっきのは時報かな? そうか、鐘で知らせるのか。日時計や水時計的なやつかな?

 エルリスさんがワゴンを押して中に入ってきた。その後ろからえーっと、ウィンデルさんだっけ? も、ワゴンを押してやってきた。って、お昼多くない?

 その後ろから、メープルちゃんがニコニコ笑いながら入ってきた、さらにもう一人――


「シンシアたんっ!!」


 いやん、思わず声が出ちゃった!


「え、キモい」


 ……

 …………


「――でしょ? せっかくだからここで食べよう、って。大丈夫だったかな? ……アレク?」


 あれ? いつの間にかメープルちゃんがベッドサイドでしゃがんで、というか、ひざ立ちになって、私に話しかけて来てた。


「あ、ごめんなさい、えっと、お昼?」

「うん、そう。シンシアも到着したばかりだから、ひとまず一緒に食べて様子を見てもらおうかな、って。……迷惑だった?」

「そんなっ! ありがとう、メープルちゃん!」


 シンシアたんを連れて来てくれるなんて! しかも一緒にご飯かー、わー、生シンシアたんだー!

 メイドさんたちがテーブルを用意し、昼食の準備をしている。その少し後ろでシンシアたんが佇んでいる。

 いやっほぅ! うんうん、綺麗な顔だなぁ。

 OKよ、シンシアたん。この実写化なら、私十分愛せるよ、シンシアたん!


「……チッ」


 ……

 …………

 あれ、ゼファーとリカルドくんがすごい顔してシンシアたん見てる。

 何があったんだろう?

 シンシアたんはいつもの優しい笑顔でこちらを見ているわ。あぁ、天使!


「シンシア、こっちに来て、外傷だけでも確認する? この通り、クレスト先生の治療でもう大丈夫だとは思うんだけど」


 うぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉっっっ!!!

 シンシアたん、こっち来た!

 メープルちゃん横にずれた、シンシアたん、変わりにかがんだっ!!


「アレックス王子、ご無沙汰しております。私でお役に立てるかわかりませんが、よろしくお願いいたします」


 うわぁっぁぁあぁぁぁぁあっぁあぁぁ!!

 生声だーーっっ!!

 がっくんがっくんと首を揺らしてうなづいた。やばい、もっとソウルを込めて応えないと駄目かしら、もっとバンキングするべきかしら!?

 シンシアたんが「失礼します」と言って私の手を取り、服の袖をまくって腕の様子を見たり、上半身の様子をみたりしている。

 あ、触れる手が、指がっ、あぁっ、今、私、シンシアたんに診られてるぅっ!


「気持ち悪いのでそのにやけ顔止めて下さい。後、私を見ないで下さい」


 ……

 …………

 ……あれ? 今、耳元で囁き声で何言われたの、私?

 いや、なんでもいいや、シンシアたんに耳元で囁かれるなんて、最高っ! 耳が犯さ――


「止めて、って言いましたよね」


 ……

 …………

 ゲームでは見たことないような目でにらまれました。


「お昼の準備が出来ました」


 エルリスさんがそう声を掛けてきた。トレイには、私用の食事が乗っているっぽい。

 あ、私はベッドで食べるんですね。

 ベッドサイドから立ち上がり、メープルちゃんとテーブルに向かうシンシアたんの顔はゲームで見たことのある優しげな顔でした。

 シンシアたんとメープルちゃんが席に着き、食事が始まった。

 すでに席に着いていたゼファーとリカルドくん、あとメープルちゃんはさっさと食事に手をつけている。

 シンシアたんは何やら神に祈っているっぽい。目を瞑り手を合わせ、祈りをささげるシンシアたんマジ天使!

 きゃっ!? 祈りを終えたシンシアたんと目が逢っちゃった!

 ……射殺さんばかりの視線だったけど。

 …………あ、私もお昼食べなきゃ、スープが冷めちゃうしね。

 あー、エルリスさんにお手伝いしましょうか、って聞かれた時に断らなきゃ良かった。それなら、ご飯食べながらシンシアたんをずーっと見つめていられたのに。

 まぁ、でもさすがに行儀が悪いか。


「ねぇ、シンシア、アレクの怪我の様子はどうだった?」

「外傷的には問題ないように見えるわ。病気の可能性もあるけど、クレスト先生の言う通り呪いを疑った方がいいかも。食後に、『解呪』を試してみようかと思ってるんだけど」

「いいんじゃないか。アレックス、それでよろしいですか?」

「うーん、私には呪いというか悪い感じはしないんだけどなぁ……」

「可能性を削っていくためにも意味はあると思うわ。私も呪いの線は薄いと思うけど、本当に記憶喪失なら私でどうにかできる内容じゃないし」


 それだけ言って、シンシアたんが席から立ち上がった。

 そのまま、姿勢良くスッスッといった感じでこちらに歩んでくる。

 うぉぉっ、絵になるぅっ!!


「見るな、とも言いましたよね」


 ……

 シンシアたんがゲームでは聞いた事無いような低い声でそう告げると、クルっとターンして席に着き食事を再開した。

 ……え? もしかして、王子って嫌われてる?

 うっそ、マジ? もう、王子何やったんだよ、勘弁してよ!


「あの…… アレク、何かいつもと大分その、様子とか表情とかが違うように見えるけど…… アレクって、もしかしてシンシアのこと、好き、とか?」


 おぉっと! メープルちゃん、直球だねっ! 駆け引きないねっ!

 もー、駄目だよ、こういうのはぁ、もっとぉ、ムードとかぁ、あるのにぃ。

 もう、仕方ないなぁ。


「いやぁ、そん――」

「メープル、私とアレックス王子はあまり接点が無いから、そういう感情を抱くことは無いわ。先ほどお話を聞いたとおり、少し混乱してるのではないかしら?」

「えっ、そん――」

「混乱している時に外部から情報を与えると、それを信じてしまうかもしれないわ。今後、絶対そういうことは言わないでね?」

「えっ、あ、うん……」


 ……とりあえず、先にお昼とっちゃったほうがいいかな?

 なんか微妙な空気だし、みんな、大人しく食べてるし。

 ……このサンドイッチ美味しいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ