7. 王子になりますか、わかんないけど
多かった…
一応目は通したけど、全員分なんて覚えらんないな……
一人称は『俺』、で通せばいいらしい。もちろん、目上の人や先生などには私だそうだが。
手紙が私だったのは、一応私が年上だからだろうか? それとも、なんか遠慮してるのかな?
この砦にいる間は、ひとまず全員に対して俺でいいらしい。先生や騎士団の人にも俺でいいらしい。
目上で先生なのにいいのか? まぁ、俺で通せと書いてるからいいか。
あとはきびきびと話す、か。なんか私の口調だと、のんびりした話し方に聞こえるらしい。
うーん、王子の話し方かー。覚えてないんだよねー。
次帰った時、家からエバシンとゲーム機持ってきてもらえるよう、和文くんにお願いしておこう。
「……パンが無いならケーキを食らえ!」
……なんか、バトルモノっぽいな? パン属性無効、ケーキ属性弱点、みたいな。
このセリフは保留にしとこう。あとはー、なんだっけ、それっぽいセリフはー。
「……待ってろよ、チェッカーフラッグなのだァァァァッ!!」
……これ、突っ込み待ちだから無理か。
○oJoも○ーズもわかんないよね、○ーズわかんなかったらまったくわかんないし。保留保留。
あ、王子、○oJo立ち似合いそうだな。後でやってみよう。
コンコンコン、とドアがノックされた。
「王子、何か大きな声が聞こえましたが、どうかされましたか?」
「あ、いえ、ナッツがのどに詰まっただけです、大丈夫です」
「……入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、少し、少し待ってください!」
手紙はしまっておいた方がいいよね。あ、そういえばこれ、どうすればいいんだろう?
こういう時の定番って燃やすのかな? 燃やすのか?
でも、まだ読み返したいしな。
……うーん。あとでエルリスさんにまとめて渡すか。
手紙を封筒の中に入れなおして、ひとまず枕の下に隠した。
「お待たせしました」
声を掛けると、失礼します、と言う声の後エルリスさんが入ってきた。
……あ、口調、忘れてた。
「待たせたな、ベイベ」
あ、これ、違うわ。
エルリスさんは気にした風でもなくベッドサイドまで歩んできた。動きが一瞬止まったような気もするけど、さっきのは無かったことにしよう。
「具合の方はいかがでしょうか? お背中さすりましょうか?」
「へ? 何でですか?」
「ナッツが喉に詰まったとおっしゃいませんでしたか?」
「あーあー! んっんっ! もう大丈夫です。いや、大丈夫だ」
「……そうですか」
うーん、口調がわからん。
エルリスさんはそのままベッドサイドに控えている。えーっと、なんだろ?
あ、そうだ、丁度いいや。
「エルリスさん。じゃなかった、エルリス。私、じゃなくて俺の口調はどこか変ですか、な?」
「いつもと比べますと、まだ混乱されているのかと、心配しております」
「あ、すいません、あ、いや、すいませぬでござる?」
「王子、無理せず自然にお話ください。昨日のように、そのうち落ち着いてくると思います。自然体でいるのが一番だと先生も言っておりました」
ごめん、王子。駄目っぽい。
「まずはゆっくりお休みになって、早く体調を治してください。……また、子守唄を歌いましょうか?」
「あ、ちょっと恥ずかしいのと、ちょっと日記でもつけようかと思いますので今はいいです、ありがとうございます」
「わかりました。では、外で控えておりますので」
そう言って、エルリスさんが一礼して部屋を出て行こうとした。
「あっ、ちょっと待ってください。参考までに、普段の私、俺、ならどう返していたか教えてもらえませんか?」
「子守唄についてですか?」
「それもですが、出来れば入ったところから」
「そうですね」
エルリスさんが再度ベッドサイドに寄ってきた。 ……おっと、高度な駄洒落になってしまったわ。
「まず、入る時は『入れ』と一言だけおっしゃられると思います。事実、私たちに気を使う必要はございません。お背中さすりましょうか、と聞いた時は『子ども扱いするな!』と一喝しておられるかと思います。子守唄も同様ですね。あと、基本『すいません』とはおっしゃいいません。こちらも、遠慮なさらずなんでもお申し付けください。一言添える必要はございません」
ほう、なるほど。これは、なかなか厳しいなー、真似するの。ってか、手紙とちょっと印象違うな。
「あ、じゃ、さっきの、心配していただいた時はどうやって返すのでしょうか? 先ほどはすいませんって言っちゃいましたが」
「そうですね…… いつもならば、『混乱などしておらん、いらぬ心配をするな!』でしょうか。もしかしたら、『そうか』とだけかもしれません。相当具合の悪い時ですので、この場合は私たちも気が気ではございませんが」
ほうほう、勉強になるな。
あと、やっぱり今真似するの無理だな。逆におかしくなるわ、きっと。
しばらくは、頭がまだボーっとしてるので、で過ごしますか。
「すい、じゃない、ありがとうございました。参考になりました」
エルリスさんにぺこりと頭を下げる。まぁ、なんとなく方向性はわかったので、ボロが出ない程度に頑張ってみよう。
「今のも、『わかった、下がってよいぞ』程度で済まされると思います。頭は下げません。 ですが、無理に記憶を呼び戻そうとするのではなく、ゆっくりとご療養くださいませ」
そう言って一礼した後、エルリスさんは部屋を出て行った。
*****
……あんま書くことないなー。
とりあえず、楓子の好きな授乳時の体勢とかオムツのブランドとかオムツ替えのコツとかは書いたしー。
口調は、メープルちゃんの真似しといて、でいいと思うし。
病院にいる限り、着替えの場所とか掃除の仕方とか、家のこと書いても仕方ないだろうし。
おっぱいも最近はちゃんと出るし張ることもないから、おっぱいマッサージの説明も要らないだろうしなー。
寝る前のストレッチ、は今は出来ないよね。
うーん…… そういえば、王子、料理出来るのかな?
調理道具の場所でも書いておくかなー。でも、骨折してるし当面は必要ないよねー?
……あ、スマホの使い方でも書いておくか。ググればたいていわかるし。
あ、エロサイトは見るな、って書いとくか。あと、課金はするな、と。
まぁ、エロサイトみるぐらいなら私の体……
……王子、変なことしてないだろうなー?
あっ!? もしかして手紙の最後にあったご容赦願いたい、ってそういうことか?
まぁ、楓子に授乳するならどうしても見るし触るよね。
うーん、まぁ、それはしゃーないね。私も王子の見てるし、ここは私が大人の余裕と言うものを見せてあげましょう。
とすると、やっぱりとりあえず書くことはもう無いかなー?
コンコンコン、とドアがノックされた。
書いてた手紙を枕の下に隠し、ペンをベッドサイドのテーブルに置く。
この世界、万年筆があるんだよ、インク壺いらないタイプの。
「はーい、れ」
今のはセーフだろうか?
ドアが開き、エルリスさんが一礼してから入ってきた。あの表情は気づいてないか? セーフ?
エルリスさんの後ろから、微妙な顔をしたメープルちゃんが入ってきた。
くっ、エルリスさんがスルーしてくれただけかっ。
「どうしたでござるか?」
「王子、自然で構いませんと申しましたが」
ごめん、王子。次、頑張るから今日はもう許して。
「はい。で、どうしましたか? ごはん?」
「ううん、お昼はもうちょっとあとかな」
そう言ってメープルちゃんが小走りでベッドサイドに来て、私の手を両手で握ってあふれんばかりの笑顔を向けてきた。
なんだ、ドキっとするじゃないか、まぶしっ!?
「シンシアがね、もう近くまで来てるんだって! お供の方が先に連絡に来てくれたの。あ、ちょうどお昼ご飯ぐらいに到着するかも?」
「生シンシアたんっ!?」
思わずベッドから跳ね起きてしまった。
というか、ベッドの上に立ち上がってしまった。お行儀が悪かっただろうか?
手は繋がれたままだから、メープルちゃんが上に引っ張られる感じになってる。
あ、すっごいきょとんとした顔をしてる。この子、表情がコロコロ変わるなー、どれも可愛いなんてすごいね、楓子といい勝負じゃないかしら?
ふと、視線を感じた気がしたのでエルリスさんの方に目をやったけど、特に表情は変わっておらず、ピシリとした姿勢のまま佇んでおられた。