3. 王子じゃありません、記憶ないですから
まずは情報が大事だと思います!
今おかれてる状況がわからないことには何の対策も取れません。
ということで、話を聞こう、そうしよう。
土曜のあの事故が最後の記憶っぽいから、楓子はとりあえず無事だ。お腹は空かしてるかもしれないけど、少なくとも怪我は無い。
帰っておっぱいあげるためにも、まずは帰らないと!
……これ、美味しいな。
現在、ベッドの上でスープを飲んでいます。
チーズと野菜と、このもっちりした丸いのなんだろ? 米?
お米あるのかな?
あー、あったかい。
「おかわりはどうされますか?」
「……いただきます」
スプーンでお皿についたスープをなんとかこそぎ取ってやろうと頑張っているとそう声を掛けられたので甘える。
「……アレク、ついてるよ?」
「ん? 何が?」
美少女、メープルちゃんが頬に指を当てながらそう言ってきた。判らず首を傾げると、手を伸ばしてひょいと私の右頬から何かをつまんでから食べた。
おぉ、マジか、これはあれか。少女マンガでよくある奴だ。すごい、感動した。
あ、スープ来た。
「……い、一生懸命に、食べるね」
「新鮮だな」
「違和感しかないけど、なんか可愛いね」
学友ズがなんか言ってる。
そういえば、青年がゼファーくんで美少年がリカルドくんと言うらしい。
「……ごちそうさまでした」
美味しかった。シェフを呼んで直々に感謝すべきだろうか。
「……食べる前もやっていましたね、その手を合わせる奴。なんですか、それは?」
「感謝」
「感謝? なんか詠唱準備みたいなのにね」
いかんぞ若人、いただきますとごちそうさまはちゃんとしないと。
「では、簡単に状況についてご説明いたします。何か思い出せそうなら、すぐに言って下さい」
クレスト先生、軍医らしい、がそう言って話し始めてくれた。
待たせてすいません。
「まず、この国は聖・バーディニア王国。あなたはこの国の第二王子です」
「聖・バーディニア王国……」
……? なんか聞き覚えある気がする。
「今回、学園の演習でここ、ダンダル砦の視察とダンダニア森林に採集及びモンスター討伐の見学に来ておりました」
「学園、ですか?」
「はい。リザスティア学園です。王子とご学友はそこの学生で、今回チームを組んでこの演習に参加しておりました」
リザスティア学園……? 地名はまったく覚えがないけど、この学園の名前はなんか知ってる気がする。
なんだっけ? 最近聞いた? いや、結構前か?
「王子?」
「あ、すいません。続けてください」
「王子、何か思い出されましたか?」
先生が怪訝そうに質問してきたので、続きを促した。
そしたらエルリスさんが質問してきた。
「あ、国の名前と学園の名前になんか聞き覚えがあるような無いような?」
「あせらないで結構ですよ。話を続けましょう。砦の視察を行っている時に、外壁の石垣が崩れました。メープル嬢が落ちそうになったところを、王子が身代わりになって落ちたとのことです」
「ごめんなさいっ!」
「え、男前ですね、王子」
何ソレ、少女マンガか。それで記憶喪失って、少女マンガか。
あ、メープルちゃんが頭を下げたままだ。フォローしておこう。
「あ、気にしないで、覚えてないし。それより、メープルちゃんは怪我無かったの?」
「……メープルちゃん?」
「あれ、同級生だよね? なんか変?」
「あ、ううん、なんか新鮮だったから。……おかげさまで、この通り無傷です。ありがとう!」
「それは良かった。ところで、私、石垣から落ちた割には怪我無いですね。そんな高くなかったんですか?」
なんか他のみんなも変な顔で見てくるので、話題を変えてみた。
しかし、こっちでも石垣から落ちたのか……
「いえ、外壁ですから相当の高さです。外傷は私の魔法で治しましたが、骨など内部への痛みはまだ残っていると思います」
「え、魔法っ!? すごい!」
おぉっ! 魔法! ますますマンガみたい!
もし本当ならなっ!
私はまだドッキリという線を捨てていない!
私、そんなちょろくなんてないんだからねっ!?
「アレックスも魔法を使えます。といいますか、国内有数の氷魔法の使い手だったのですが」
「え、じゃ、私も回復魔法使えたり空が飛べたりするの?」
「いや、どうでしょう? 俺は魔法は今ひとつなので」
「王子も回復魔法が使えなくはありませんでしたが、氷魔法に比べると並です。その分、氷魔法に関しては昔から天才的でした」
「空は、魔法じゃ無理ね。御伽噺の中だけかな?」
ゼファーくんやエルリスさん、メープルちゃんが色々と教えてくれた。
そうか、空は無理なのか。
「氷魔法か…… じゃ、街一つ凍らせたり、風や空気を凍らせたり出来たの?」
「いえ、さすがにそれは……」
「アレク、怖いよ? そんなことしたいの?」
「アレックス、俺達もですが、あなたは街を守る立場の方なんですよ?」
あー、やっぱり歴代最強の氷魔法を使うお姫様にはかなわないか。あのお姫様、ゴーレムも作れるしね。というか、危険人物認定されかけてる? 気をつけよう。
コホン、とクレスト先生が咳払いをした。
「王子が落ちてから、ほぼ一日寝ておられました。頭も打っておられますので、もうしばらくはこの砦でお休みください」
「そうですか、わかりました」
もうしばらくごろごろしてられるということでいいかな?
早く帰りたいけど、今の状況だと何をすればいいのかまったくわからないし、まずは自由に動けるようになってからかな。
……早く帰りたいけど、なんか久々にゆっくり出来てる気もするし。
……そういえば、こうやって自分、自分? まぁいいや、自分のことだけを考えるって言うのも、大分久しぶりな気がする。
「……あっ、そうだ。鏡見せてもらえませんか?」
「鏡ですか? お待ちください」
手伝いましょう、と言ってゼファーくんもエルリスさんと出て行った。
しばらくすると、ゼファー君が大きな鏡を抱えてきた。
あれ? あっさり持ってきたな? ここでドッキリのネタばらしかな?
「これで見えますか?」
「何コレっ!? スゴイ美男子だな、王子っ!!」
「いや、自分で言うなよ……」
だってっ!?
何コレ、さらさらの銀髪、薄緑色の瞳。肌も透き通るような白で見るからにスベスベ。
整ってるとしか言いようのないお顔。
メープルちゃんも美少女だなーと思ったけど、メープルちゃんより美人じゃん王子っ!?
「え、何コレ、もしかして世界取れる?」
「どこの世界の話だよ……」
ふわーっ、やっべー、かっこえー。
私、あんまりこういうクール系の美男子って好きじゃないんだけど、外見眺めるだけならアリだな。
家の中に飾っておきたーい。
「王子、色気を振りまくのはお控えください。メープルさんとリカルドさんが大変です」
エルリスさんがゼファーくんごと鏡を引っ込めた。
やばいやばい、つい色々とポージングを決めてしまっていた。自分とは思えないので、ついつい調子に乗ってしまったわ。
メープルちゃんとリカルドくんの方に目をやると、確かに二人の顔が真っ赤だった。二人ともエルリスさんに言われて慌てて目を逸らしてる。可愛い。
「あ、え、えーと、あ、そうだ。シンシアがね、来てくれることになってるの。あ、シンシアはね、回復魔法がすっごい上手なの。シンシアなら内部の傷も治せるかな、って。あと、最初はずっと目を覚まさなかったから」
メープルちゃんが顔を真っ赤にしながらワタワタと話題を変えた。
可愛い。
……ん? シンシア?
「シンシア? ……シンシア・シーソルト?」
「えっ!? そう、シンシア・シーソルト! 思い出したのっ!?」
シンシア・シーソルト、リザスティア学園、聖・バーディニア王国……
「……もしかして、メープル・レッドフェザー?」
「アレクっ! 思い出したのねっ!」
メープルちゃんが抱きついてきた。
この子、スキンシップ激しいな。いや、確かにスキンシップ激し目の選択肢も結構あるし、そっちタイプか。
そうだ、メープルって初期設定の名前だ。私、実名プレイ派だからなぁ。
それに、あのゲームのグラフィックはもっとデフォルメした可愛らしいタイプの絵だから、全然気づかなかった。確かに、現実に当てはめたらこんな感じ、なのかな?
赤髪の主人公、銀髪の氷の王子、第二騎士団長の息子、リスの獣人の美少年。そういえば、リカルドくん、尻尾あるわ。全然気にしてなかった。
みんな、CGと全然顔違うじゃん。でも、よく見るとそれぞれの特徴を残したまま、実写化されてる。この実写化ならまぁ、ありだな。
ここ、あれだ。エバシンだ。エバシンの世界だわ。




