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〈一話〉動き出す時間の針




 公開処刑から二か月。陸と違い日本海は穏やかそのものだ。かつて尖閣諸島と呼ばれていた海域に出現したは島は「尖閣島」へ改められている。そしてこの尖閣島や北方四島海域は石油・天然ガスと言ったエネルギー資源開発が行われている。島だけではなく海上にもプラットフォームが浮かび、海底から石油と天然ガスを吸いだしている。


 それを遠目にパトロールをしていた海上保安庁の巡視船のレーダーに一つの機影を捉えた。


「レーダーに反応、本艦から西に二十浬。速度五ノット」


「五ノット?」


 その報告に艦長は思わず首をかしげた。後付けのモーターを付けた小型ボートの方がもっと早い。


「サイズ」


「中型クラス、漁船より少し大きいと思われます」


「無線」


「先程から呼びかけていますが応じません」


「漁船が漂流しているのか?」


 思わず艦長は隣にいた副長の顔を見る。


「はあ、ですが不明船がいる海域は航行禁止エリアです。例え()()()の連中だとしても五ノットというのは遅すぎます。もしくは・・・・」


「もしくは()()()からやって来たお客さんか・・・・前者の方が俺としては大変うれしいがね。レーダー員、目標の進路」


「進路を変えなければあと二時間ほどで排他的経済水域(EEZ)入ります」その報告に艦長は顔をしかめ少し間をおいて一言。


「まあ、本部に連絡して指示を仰ぐ」


 本部である(第十一)(管区海)(上保安本部)の指示はすぐに返ってきた。「従来通り急行し不審船に対して警告活動を実施せよ、なお増援あるまで不審船への接近と臨検を禁止する」と言うものだった。「好き勝手いってくれる・・・・まあ、臨検したいとは思わんが」艦長は口と裏腹に万が一に備え臨検要員に待機命令を出した。




 二時間後、巡視船は目標を視認した。


「本艦正面に目標を視認」 


 艦長は双眼鏡越しに見た不審船が通りで遅いはずだ、と思った。不審船は風のエネルギーで進む帆船だった。現代ヨットなどのような小型ではなく大きいマストが三本もある。艦長や副長も船の学校である海技教育機構の学生だった頃、大型帆船の「海王丸(二代)」に乗り込んだことがある。

 

 上海王丸は白を基調とした美しい船だが、目の前の帆船は船体からマストに至る全てが真っ黒だ。まるでペリー提督が乗って来た黒船かのように。だが黒船とは程遠く、遠目から分かるくらいにボロボロだ。船体の至る所が破損しており、航行するための動力源のマストも大小の穴が開いている、すぐにでも沈没してもおかしくない。


「進路このまま、少し離れたら反転。不審船と並走しろ」


 艦長はしばらく眺めたあと指示を出した、艦長の指示通り反転し不審船の横に並走する。遠目でも分かっていたことだが不審船の甲板には乗組員の姿は見えない。国際法に乗っ取り警告を開始する。日本語に英語、ロシア語、中国語、韓国語などなど十ヵ国語で警告した。


 だがというよりやはり停船しない。そもそも帆船は甲板でしか船を操作できないので、甲板に乗組員がいないので停船した方がおかしいが。巡視船に乗り込んでいる海上保安官が外に出て不安と珍しそうな目で艦長のように眺めている。本部からは「現状維持」の一言だけで明確な指示こず、ただただ時間が過ぎる・・・・。




 一ヵ月前。日本が第二の地球に来てしまったように突如として、日本から東に六五〇〇キロに大陸が出現したのだ。昔の地図で位置と大きさを示すなら、中東辺りにアフリカ大陸より一回り程大きい大陸が出現した。そしてその大陸に最初に気づいたのは政府ではなく数人のネットユーザーだった。


 沖ノ鳥島の開発が始まって二年後、民間企業が数社共同で複数の機能を持つ静止衛星を打ち上げた。沖ノ鳥島もまた尖閣島同様に、大規模な農業開発が行われている。この衛星は日本、特に沖ノ鳥島を中心に運用するために作られた。主に沖ノ鳥島の気象観測と同時に殺虫剤散布をするドローンや無人コンバインなどの遠隔操作のためのものだ。  


 この二つだけも沖ノ鳥島に移民し農業をしている人の殆どは衛星を利用している。オマケといっては何だがこの気象観測の元の映像は、インターネット上で二四時間ライブ配信しているのだ。そんなある日、ライブ映像を見ていた数人が「これって新しい陸地?」というトピックが立てられた。


 このトピックはすぐにネット上を駆け巡った。同時に本当かどうかを検証するトピックスが建てられた。官邸に情報が上がる頃にはネット上ですでにこの話一色になって一部テレビでも取り上げられた頃だった。政府は後手に回り結果的に最初の発見から三時間後に公式見解を出した時にはすでに陸地は大陸とまで判明していた。それからというもの日本中が文字通りお祭り騒ぎになった。新大陸には宇宙人が住んでいる、新島と同様に人はおらず資源の宝庫、異世界つまりファンタジーの住人が住んでいる等々。


 だがそんな夢を見た人々の共通点は一つあった。「これで暮らしが楽になるかもしれない」というものだった。確かに最初の一、二年は敗戦直後に戻ったかのように物不足で人々は苦しんだ。気づいたらいきなりガスも水道、電気がない無人島に放り出されたに等しい。もしこの大陸に国家が存在するなら国交を結び輸出や輸入をして元の暮らしに、七年前のように物が不自由なく手に入る生活に戻れる。そういう夢を見るなという方が酷な話だ。政府は情報収取を理由に沈黙する。


 その間、ネットに限らず巷は新大陸の話で持ち切りになった。


 大陸にはどんな生物がいるのか? そもそも生物は存在するのか?


 近代国家は存在するのか? 国交はできるのか?


 友好的なのか好戦的なのか?


 言語は? そもそも口はあるのか?


 人間の形をしているのか?


 様々な憶測が飛び交った、中には船を用意して自力で大陸に向かおうとする輩まで現れた。しかも少数とは言い切れない人数がやったので海保などは“冒険家”が通称になっている。そして二週間の沈黙を破り政府は大陸には“知的生命体”が存在しなおかつ国家かそれに近い組織がある。そう発表したのだ。

 

 同時に衛星画像も公表する。たったそれだけだ、当然情報の少なさに国民は激怒しデモが全国各地で巻き起こる(暴動は発生しなかった)。デモが発生し野党はともかく党内からも情報をもっと開示せよと批判を受けてから一週間後、政府は「明日、大陸について重要な追加発表をする」と書き込んだのだ。



小修正 10/2 11/21 12/1 12/20 12/27 2/24 8/19 9/7

中修正 11/15 12/3 12/10 2/16 3/14 5/1 8/16 9/1 9/12(前書き)

大修整 12/8 




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