〈八話〉日本に射す影と光
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七年の月日が流れた二〇二六年、日本人は「絶滅」という山場を越え日本人は変わった。いや変わらざるをえなかったというべきだろう。
経済システムの崩壊は混乱へと繋がり、経済システム崩壊の余波はあらゆる場所に影響を与えた。失業率、犯罪率、自殺者はで計測不能。当初政府が『十分とは言い難いが食糧はある』と布告したのにも関わらず、買い占めは略奪へ変わった。震災が起こった際、混乱することなく秩序を守り炊き出しなど救援物資に並び海外から賞賛された日本人の姿はなかった。
そのため本来ならば起こり得うるはずがない飢餓が発生した。数十、数百人などという生易しい数ではなく数百万単位で。
政府は現代日本人には到底理解も想像もできなかった恐怖政治を敷いた。自分たちの決定に反対する者は徹底的に弾圧した。これに対するデモが発生すると次第に人が集まり最終的には暴動に発生するなど日常になっていた。しかし政府は無情にもこれを警察で、時には自衛隊で解決した。一時的には治安を回復するも、すぐに最悪な状態になるのを繰り返してきた。
混乱に次ぐ混乱、混沌といってもいい。最初こそ大多数の国民は政府の暴挙を生き残るためだ、と許し我慢した。だが時間が経つに連れ次第にそう思う人間は減り、三年経ったある日を境に反政府組織が現れるようになった。反政府組織というのは名ばかりでとても小さなものだったが、現れる度に警察や公安により徹底的に弾圧された。仕舞いには武力闘争を掲げる反政府組織が誕生し始め内戦まで秒読みという段階まで行った。
そう、内戦へ突入しなかった。なぜなら五年間恐怖政治を敷いていた政権が電撃解散したのだ。同時に暫定政権は前総理大臣を含む前内閣全員を職権乱用や国民の殺害など、考えうるあらゆる罪状で逮捕した。それだけではなく前内閣に協力や関係した民間人や企業もここに加わった。三日後には異例の速度で裁判が開かれ、一日目で前内閣の全員に死刑判決。
さらに関係したとされる民間人も加わり、官民合わせて二一四人に対して死刑判決が下った。戦後日本において一年の間にこれだけの人数に対して死刑判決が下されたのは初である。最終的に前政権に関与・協力したとして罪に問われたのは三〇〇〇人にも上り、九割に実刑が課せられた。また国民を驚愕させたのが裁判長が死刑判決文を読み上げた最後に付け加えた言葉だった。
「死刑は三十日以内に確実に執行することを命じる」
死刑判決が下ったとしてもすぐに死刑される訳ではなく、法務大臣が死刑執行書類にサインをしなければ死刑は執行されない。再審といった法律の問題もあるが近年では国内外の死刑制度廃止の声があるため、死刑執行は減少傾向にあり死刑制度そのものも廃止する方向に進みつつある。つまり死刑執行書類にサインをした場合、その政治歴に汚点が付くことを意味するため法務大臣になっても誰もがサインをしたくないのが現状だ。
しかし裁判長の言ったことはサインすることを促すだけではなく、三十日以内に二一四人も死刑するという意味を持っていた。加えて執行する法務省が発表した死刑執行の方法だった。
これまでは刑務所や拘置所の施設内にある密室で絞首刑だった。しかし、この二一四人全員は絞首刑は絞首刑だが、公開絞首刑つまり公開処刑という時代錯誤も甚だしいものだった。場所は国会議事堂の正面。そしてこれらの公開処刑はラジオやテレビ、インターネットといったものでライブされたのだ。
当然だがこれらの行為は全て法に抵触するものばかりだが、暫定政権は「超法規的措置」の一言でこれをクリア。死刑判決から三十日後、国会議事堂前に死刑台が作られた。一人ひとりを吊るすやつではなく、長方形で一度に五人を吊るせるこれまた時代錯誤なもの。
最初に処刑されたのは元総理大臣を含む五人が一二時きっかりに死刑執行。確実に殺すため一五分間は吊るされた後死体袋に入れられた。そして同じ動作が事務・機械的に行われた。永遠と錯覚する程の公開処刑が終わったのは夕方。六時間かけて二一四人の全員の死刑が執行された。
目を覆いたくなる光景に少し前まで怒り狂っていた国民感情は一気に冷えた。自分たちを抑圧していた人間たちが、人間として扱われずに死刑されたことに恐怖した。それらを実行に移した暫定政権に対しても、なおかつ再び矛先が自分たちに向くのではと恐怖した。これを以降これまで発生していた暴動はなくなる。いくつかの遺恨を残したものの、怒りや悲しみは「未来へ」と向けられ、日本は再生へと歩みだした。
二〇二七年現在、日本の総人口は一億人を下回る九九〇〇万人。
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