〈三三話〉電子迷彩
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光成は訓示が終わってから朝食を取り、指定された時間の十分前に体育館に入った。奥の方にあるステージ上には、数人の隊員がテーブルや会議などで使用されるディスプレイの設置作業をしている。さらに横には新装備が入っているであろうダンボールが山積みになっている。
下にはズラッとパイプ椅子が設置されており、垂れ幕があれば入学式か卒業式に見えるだろう。席に二十人以上の隊員がすでに椅子に座り、することもないのかタバコを吹かしている。九年前までは喫煙者は減少傾向にあった。
重税に加えてナチズム的禁煙社会が形成されていたからだ。喫煙者は文字通りに煙たがられ、「悪」の存在になっていた。だが経済の崩壊と治安悪化の二つは国民を絶望のふちへ追いやった。毎日のように殺人が至る所で起こり、失業といったことに不安と恐怖を抱いて人々は過ごすことになった。
そうすると自ずと不安や恐怖を忘れよう、和らげようとするのは当然の結果だ。これまで健康体・運動・自然食品が人生の幸せと植え付けられてきた三つは、人々の頭から抹消され古くからある酒・タバコ・ギャンブルが復活した。健康よりもニコチンで得られる安心感を選んだのだ。
減少傾向にあったタバコの消費量はV字を書き止まる所を知らずに増えた。タバコ税といえば七年前に三分の一にまで減額されている。理由は簡単でタバコが高すぎて入手できない国民が暴動を起こし、政府の庁舎が襲撃された。同時に大規模なストライキが全国で巻き起こったからだ。
街を歩けば喫煙場を見つけるのに苦労したのが、今では禁煙場を探す方が苦労になっている。さすがにバスや電車、飛行機といった公共機関で喫煙はできないが(昔は可燃場所以外ではどこでも吸えた)、それ以外の場所では人が存在すれば必ず吸っている。屋外もそうだが屋内でも禁煙な場所など存在しない。
この日本ではたばこを吸っていない健康思考の禁煙者は七年前とは真逆に煙たがられる存在になった。当然だがタバコもそうだが酒やギャンブルの中毒患者が多くなり大きな社会問題になっている。良いか悪いか別として男女平等に。
五分前になると人がどしどしと体育館へ入ってきて、ほどなく殆どの隊員が胸ポケットからソフトパックを取り出しタバコに火を点けて吸い始めた。光成は子供の頃から父親や店にやってくる米兵の噛んでいた噛みタバコを見て育ったのと、体質的にも自然と噛みたばこを好んで噛んでいる。
椅子が埋まる頃には霧は雲へとなり、一番後ろからではステージが見えないのでは?と思うくらいに煙が充満していた。さすがに吸い過ぎだろう、と消える訳でもないのに煙を振り払うように手を動かした。
そんなことをしていると「扉を閉めろ」と今朝も聞いた岬一佐が指示する声が聞こえた。入口横にいた隊員が扉を閉じ、窓もカーテンが引かれ体育館内は一瞬暗くなったがすぐに天井からぶら下がっているライトが点灯する。ステージに岬一佐と上下白色で統一された民間の作業着男が上がる。
「これから新装備である「迷彩服五型」の開発元から来た士郎氏から五型について説明を受けてもらう」
「ありがとうございます一佐」と岬一佐からマイクを受け取った男が話し出す。
「日本創意グループの創意高等電子光化学工業から来ました士郎一彦と申します。今から我が社で開発した迷彩服五型の説明を行います」
大恐慌で一番ダメージを受けたのは誰であろう、海外に生産拠点や資本を半部以上置いていた大企業である。倒産するのを回避するため、日本を代表する全ての企業が合併するという出来事が発生した。統合された、といった方が正しいかもしれない。統合された超複合体企業こそが日本創意グループだ。
自己紹介している間にステージ中央にマネキンが設置される、マネキンは冬季迷彩のような白一色を着ている。顔も白いバラクラバを被っている。冬季迷彩は文字通り冬季に使用されるもので、主に北海道を守る北部方面隊に配備されている。その場合もちろん鉄帽から始まり靴や小物、銃も白い布で包まれる。
だがマネキンが来ているのは冬季迷彩と違う点が一つある、肩から裾まで薄い赤、神社の鳥居のような朱色のラインが両側に一本ずつ入っている。そして両肩と胸中央には日の丸ワッペンが縫い付けられている。
「論より証拠、最初から見てもらった方が早いのでどうぞご覧ください」
彦一がそういいテーブルに置いてあったタブレット端末を操作すると、マネキンが一瞬で隊員らも着ているのと同じ迷彩になる、顔もドーランでメイクしたようになっている。見ていた隊員たちはマネキンの迷彩が変わったことに驚き、どよめきが体育館に広がる。
一彦が再びタブレットを操作すると、今度は砂漠などで使用されるベージュ色の砂漠迷彩になる。砂漠迷彩に変わったと思ったら今度は海自の警備部隊が使用するネイビーブルー迷彩になった。
「注意しておきますがこれは魔法ではありません。これは正真正銘科学技術によるものです。あなた方が着用するこの迷彩服五型はこれまでにない、もっともハイテクな迷彩服です」
一彦は自慢げに驚いている隊員たちに向かって戦闘服五型、電子迷彩についての説明を始める。一彦が真っ白な状態に戻っているマネキンの左腕に触れると、手のひら程の画面が現れた。それに触れると先程と同じように迷彩五型の色が今度は、空自が採用しているグレー色のデジタル迷彩になる。
「タブレット端末などに迷彩データを予めダウンロードしておいて、ワンタッチであらゆる迷彩に早変わりします。今は外部操作で行いましたが本来は両腕部で行います。ナノテクノロジーを応用した次世代の一三世代ディスプレイを全身に採用しています。この一三世代ディスプレイ、社内名称はナノディスプレイと呼んでいますが、有機ELの問題点であったコスト性、強度と応用性が格段に向上しています。電源はナノディスプレイ内に最初から組み込まれています。充電する際はワイヤレスにて行い、重量は上下で三キロと少し重い程度です。なおカモフラージュの使用時間は最大十二時間です」
この迷彩五型は光学迷彩のカメレオン・タイプの派生型であるのが電子迷彩だ。光学迷彩というのは俗にいう透明人間のことをいう技術だ。昔から軍事においてその研究は進められてきていたが、半透明になるのがやっとだった。さらにいえば軍隊が欲したのは研究所で使うものではなく、戦場で使うものだった。だが近年では米軍が実戦でも使える、光学迷彩の開発に成功したという報道が流れている。
この電子迷彩導入には調査隊の「第四目標」が大きく関係していた。調査隊には四つの目標がある。
第一目標、新大陸までの航路・海水・水中生物調査。
第二目標、新大陸近海調査と無人機による大陸種の生体調査。
第三目標、調査隊による新大陸への上陸調査。
第四目標、大陸種との接触および対話。
この「接触」という過程の際にあることが問題視された。陸上自衛隊といえば最初に何を思い浮かべるだろうか。
運用らしい運用が可能なのが北海道しかない戦車? 予算不足で十三機しか買えなかったアパッチ? 最近導入された十六式機機動戦闘車? 泥の中を匍匐前進する自衛官?
人によって様々なイメージがあるだろう。しかし大方の人はまず浮かぶのはイメージカラーである緑色、迷彩服だろう。そうこの迷彩服が問題視されたのだ。当初、調査隊の装備は既存のものを流用することになっていた、新大陸の環境は陸自が導入している迷彩が最大限発揮できる草原や森ばかりだからだ。
だが未知の生命体と接触しようという時に、その場に迷彩服姿の集団がいたらどうだろう?威圧感を与えかねない、ということが問題視された。
戦闘に発展することを考えれば既存装備を持っていくのは正しい、そう正しいが調査隊の第四目標である「接触・対話」という観点から見れば好ましくない選択と言える。確かに接触・対話の観点から見ればその通りだが、陸自しいては防衛省からすれば迷惑な話だが政府決定のため従った。
この話を持ち出したのは形骸化していた外務省だった。外務省は外務庁へと降格され内閣府へと編入されている。そして廃止の議論が当然のことながら持ちあがり、その決定が下される前にタイミングよく新大陸が出現したため一応まだある。外務省の意見は採用され、防衛省は渋々ながら防衛産業へ新迷彩製作を命令した。
一月後には一〇〇以上の試作案が提出された。半月後には半分に、命令から二か月後の最終選考では案は三つに絞られ、その中に日本創意グループの電子迷彩があった。防衛省の考えでは接触・対話時は通常時の白いままで、戦闘に発展するならばその地形に合ったカモフラージュにする。
そういう考えだった。だが一彦から電子迷彩の導入経緯と説明を受ける隊員たちの顔は、どちらというと困惑顔だった。向かう地域は冬ではあるが氷雪地帯ではない。理屈では一瞬でカモフラージュの変更が可能と分かったが、やはり通常時の白一色が気になっていた。もし戦闘になりその時に故障したら?という想像が隊員たちの頭の中に浮かんだ。
ああ、たぶん今まで書いた中で一番頭を使った・・・まあ(光学迷彩の下り)穴があるのは自覚している。けど、SFというキーワードをつけているから問題・・・ない。
あ、ストリーに少し関係する修正をしました。お手数ですが詳しくは活動報告にて修正した〈〇話〉の情報を記載してあります。
「禁煙者は煙たがられる存在」この揶揄?は自分で結構うまいと自己満足。
電子迷彩の電子明細が届いた・・・・・オヤジギャグだよ、察しろよ。
小修正 11/18 11/20 11/22 12/1 2/25
中修正 12/3 1/14 2/6 3/28 4/9 6/3 6・21
大修整 12/23 2/6




