〈三一話〉先輩と後輩
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メディアへの説明が終わったのは陽が沈んだ一七時頃だった。恵美が帰ろうと席を立った時、背後からかけられた。
「よう、恵美」
「あ、お久しぶりです笹木さん」
話しかけてきたのは笹木一郎だった。笹木は既存メディアで一番の売り上げを誇る大手新聞社の記者で、よく取材が被るうちに仲良くなった記者だ。恵美がまだ新人の頃は色々と記者の知識を教えてくれた一人でもある。
「これから会社に帰るのか」
「チーフに説明会の報告をして帰ります、笹木さんは?」
「俺は直帰するが、その前にメシでもどうだ」
「おごってくれるんですか」
「そんなに高いヤツじゃないないなら」
「やった!」
苦笑いする笹木を先頭に二人は防衛省を出て、駅の近くにあったファミリーレストランに入った。前は全国にいくつものレストランチェーン店が存在したが、今では三社ほどしかない。ファミリーレストランという名の割に家族連れはおらず、スーツ姿の人間が殆どで恵美と笹木のように普段着の人間は少し目立つ。
入ってすぐの場所に端末があり、都市部の飲食店の殆どがこの端末を導入しており、空席の確認や料理の注文、支払いを端末一つでする。従業員が全てをする店は高級店か小さな個人経営でしか見れない光景だ。さすがに調理や料理を席に運ぶのは給仕が行うが、四~六年後には飲食店全てがオートメーション化され、全てロボットが行うとされている。すでに実験的に完全無人化された店が試験的にある。
笹木が端末に表示されている空席をタップすると、天井に埋め込まれているプロジェクターが起動し、床に矢印が投影され二人が矢印通りに進むと笹木が端末でタップした席に着いた。
「一番高い料理は何かな~」
「あんまり高すぎるヤツはダメだぞ」
高い値段の料理を頼む気満々で端末を眺める恵美に、笹木は置かれていたポットから二人分の水をコップに注ぎながらいう。
「私は決めました。どうぞ」
注文済みと書かれている欄にはステーキとある、笹木は唐揚げとビールを注文しながら話す。
「親御さんは許したのか?」
「ええ、思っていたより簡単に。笹木さんのご家族は?」
「娘が一人いる。家内は八年前に病気で死んだ」
「・・・そうでしたか、すみません」
「気にするな。こっち(第二地球)に来る前に“豊かな”日本で家族に看取られて死ねた。食糧不足、食料や医薬品不足の中で飢えに苦しみながら死ぬのとは全く違う」
九年前、混乱や暴動によって医薬品不足が発生したため死亡する人間がそれなりにいた。会話が途切れた時「お待たせしました」とウェーターがビールジョッキを笹木の前に置いた。「あんがとさん」笹木はウェーターに礼をいい、ジョッキを持ちビールを飲む。
「娘さんは反対しなかったのですか?」
「最初は反対されたが、説得の末ってやつさ」
先程のウェーターが今度は唐揚げとステーキを配膳する。笹木は割り箸で唐揚げを一つ口へ放り込み少し咀嚼してビールで胃へ流し込む。恵美もナイフとフォークを使いステーキを一口に切り食べる。
「はあー、久しぶりに牛肉というものを口にしましたよ」
「そりゃあ良かったな」
目を閉じながらしみじみと言う恵美に笹木は苦笑いしながらビールを飲む。当たり障りのない話に替え料理をよく味わった。そして恵美がステーキを食べ終えナプキンで口元を拭きながら笹木に尋ねた。
「先輩からコレは持っていた方がいい、みたいな品はあります?」
「そうだな・・・ポラロイド、かな」
「ポラロイド?ポラロイドカメラですか、こうベローって出てくる?」
「向こうの住人と接触して食べ物と一緒に活用すればうまく仲良くできるだろう。映像よりも自分たちの姿がジワーと紙に浮かんでくるからウケると、思う」
最後は自信なさげだったが恵美はさらに尋ねる。
「ポラロイドカメラですか、手に入るかな・・・」
少し前までなら趣味や一部の写真家がフィルムカメラを使っていたが、大恐慌や資源不足も重なりフィルムを製造している会社は存在しない。
「古い型でフィルムも少ししかないので良ければ一つやろうか」
「本当ですか。ではお言葉に甘えてもいいですか?」
「ああ、近日中に会社に送っておこう」
「ありがとうございます!」
「あとはそうだな、まあ万国共通のお菓子じゃないか。昔アメリカ兵が日本の子供にチョコを配ったみたいにお菓子をあげて子供から仲良くなり、あわよくば大人たちとも、ってね」
「でもチョコは高すぎますよ」
「なら飴なんかどうだ?飴なら安いし日持ちもするし、ものによってはキラキラと宝石に見えるのもあるだろう。子供だけではなく大人も喜ぶだろうよ」
「飴なら確かに簡単に手に入りますね」
それから二人はしばらく新大陸に持っていく物を話し合った。
小修正 12/3
中修正 12/8 2/21 4/9 4/25 5/18
大修整 4.26 5/15




