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〈二八話〉別れ

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「ほら、そろそろ離せ」


「ヤダ!」


「はあ」

 

 日の出までまだ昇っていない午前三時の駅。そんな駅には場違いな子供の集団がいた。そしてその中央には子供たちより何倍もある光成が立っていた。二つある足には四、五人の子供がまるでコアラのようにしがみついている。光成は仕事へ向かうため駅にいた。だが朝というのに子供が見送り、というより引き留めるためにいた。

 

 少し離れた場所には、光成とは数回しか顔を会わせていない子供たちの母親が数人と、明美と和樹の姿もある。光成は子供たちには言わずに家を出ようとしたが、どこからか聞きつけたのか家の前には遊んであげた子供たちが待ち構えていたのだ。聞くと母親たちが話している中で光成が帰る、もとい新大陸へ行くことを聞いたようだ。


 その結果いつもより早く起きて母親たちを急かして光成を見送りに来た。母親たちの手を借り子供を剥がしていったが、一人の女の子は頑としても光成を離そうとしなかった。


「俺は仕事だから行かなきゃならいの、分かるか?」


「分かんない!」


 はあ、と起きてから何度目になるかわからないため息をついた。光成を離さない少女に母がしゃがみ、どうして離れないか訪ねた。


「向こう(新大陸)に行ったら死んじゃうかもしれないって!」


「誰から聞いたの?」


「・・・みんなが、ママやバスの中にいる大人、がそう話していたもん」


 少女は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら途切れ途切れ答える。


「どうして死んじゃうの?」


「病気とか“せんそう”があるから、お兄ちゃんたちは、巻き込まれて、だから死んじゃうって」


 少女は母子家庭で この一週間といもの、光成を父親のように慕い母親迎えに来るまでそばを離れなかった。「大丈夫、必ず帰ってくる」というのは簡単だが、少女がいうことは事実だ。死ぬ危険性は高くも低いとも言えない場所に光成、調査隊は向かうのだから。光成はしゃがみ少女に話しかける。

 

「まだ行かない、電車も来ていないし。離れてくれるか」

 

「・・・本当?」


「ああ、本当だ」


 少女はしばらく迷った末に恐る恐ると足から手を放した。


「ありがとう。消えたりしないだろう?」


「うん」


「ほら、カワイイ顔が台無しだ」


 そういいながら不器用な手つきで少女の顔をハンカチで涙や鼻水やらを拭く。「よし、拭けた」という光成に少女はかすれ声で「ありが、とう」とお礼をいう。光成は少女を子供の両足を合わせたくらいある太い両腕を使い赤ちゃんのように高い、高いと持ち上げる。


 キャー、と少女は最初驚きの声を上げたがすぐに笑い声に変わる。それを見て他の子供が光成に近寄って来て自分もしてくれとせがむ。「ほーら高い、高い」と赤ちゃんに声をかけるように言いながら一人ずつ持ち上げる。


「ほら、餞別だ。本当なら俺がもらう側だけどな」

 

 光成がホームに置いていたボストンバッグから小さなレトルトパックのようなものを取り出し子供たちに渡す。パックケージには英語で「chocolate」と表記されているが、子供たちには読めないらしく光成「何これ?」と聞く。

 

「チョコ、チョコレートと書いてある」

 

 パックの中身が何かわからず手で探っていた子供たちは光成の「チョコ」という単語を聞き、手を止める。「チョコ!」と目をキラキラとさせパックを開ける。原材料であるカカオは日本でも栽培しているが、採れるカカオは極めて少ない。そのため入手困難な食べ物の一つだ。


「それ、どうしたの? しかもこんなに沢山?」


 母がチョコを一人ずつに配っている光成に尋ねる。


「治安出動の時に支給された米軍のレーションに付いてたチョコ。後で食べようと思って取っておいた」


 話している間も言葉を発さずに一心不乱にチョコをその小さな口いっぱいに入れ食べている。光成は子供たちがチョコを食べ終わるまで静かにその様子を見ていた。


「おいしかったか?」


「うん・・・」

 

 子供たちは放心したかのようにチョコの甘い余韻に浸っているようだ。光成は「はいこれ。母さんたちの分」と小さな声で人数分のチョコが入った袋を静かに渡す。明美は礼をいい、受け取りバックを持っている和樹に渡す。その時、音声合成の女性ぽい高い声がホームに響く。

 

〈まもなく、二番線ホームに列車が到着します〉


 スピーカーから流れた声にハッと正気に戻り光成を見上げる。先程の少女が光成に近寄ろうとする。しがみつかれる前に光成はしゃがみ、子供たちの目線に腰を下ろして真剣な表情で話し出した。


「いいかみんな。人間はいつ死ぬか何て誰にもわからない、神様なら知っているかもな。転んで死ぬこともあれば今から乗る電車が脱線して死ぬかもしれない。新大陸に行って病気なり、戦争に巻き込まれて死ぬ可能性もある」


 一旦言葉を切り続ける。


「人間は誰でもいつか死ぬ運命だ。それが早い、遅いかの違いだけだ」


 子供ではなく一人、一人に分かるよう必死に頭の中で言葉を手繰り寄せ、考え、それを噛み砕き話す。


「俺よりお前・・・・君たちが先に死ぬかもしれない、死なないかもしれない。生きる・死ぬというのはそういうことだ。生きて帰ってくる、と果たせるかわからない約束を俺はしたくない」


 そう言葉を切り、真剣な表情から笑みを浮かべる。


「言霊って知っているか」


「コトダマ?」


「口に出した言葉が現実になる、という意味だ。俺からは約束はできないが、君や君たちが帰ってきてほしい、また会いたい、と口に出したから死ぬ運命が変わる、かもしれない」


 続けて今度はいたずらが成功したような子供のようにニヤっと笑う。


「それに、俺が「死ぬ、死んじゃう」と口に出したから生きるはずが、死ぬ運命に変わったかもしれないぞ?」


「え!?」


 子供たちはビックリした顔になる。その表情を見て光成は笑いながら立ち上がる。「ピー」と思わず顔をしかめるような低周波を発する方を見る。八両編成の無人電車が光成たちのいるプラットフォームへ入って来た。人的資源が乏しい今では電車やバスといった交通機関は完全に無人化されており、タクシーも殆どが無人だ。


 先頭列車が光成たちの場所を通り過ぎゆっくり減速し完全に停車。ドアは自動で開かない。地方電車のようにドア横に開閉ボタンを押さなければいけない。ブーン、という暖房を動かす少し大きな音が静かなホームに響く。


「いいか、子供が難しいことや悲惨な未来を考えるな。それは現実になってしまう、お前たちにはその“力”を持っている。もっと楽しい明日を、未来を考えろ。俺が帰って来て日が暮れるまで遊び相手になってくれる、そんな明るい未来を、な」


 片膝をつき何か、大事なことを教えるようにいう。そして「分かったか?」と少し間をおいて問う。それに子供たちの答えは「わかんない」だった。

 

「今はそれでいい。君たちが大きくなる過程で、俺の言葉を忘れないでくれ」


 一人、一人の頭をクシャクシャと撫でる。そして最後に少女の頭も撫でたあと、優しくなでる。


「いいか、泣きそうな顔をするな。ほら笑顔、笑顔」


 少女は必死に笑顔を作ろうとするがどう見ても泣き顔だが、光成は「そうそう」と笑いながら立ち上がりドアへ向かう。オープンするアイコンを押し、列車のドアが開き光成は乗り込む。少女から目を上げ子供たちの後ろにいる母、明美を見る。


「じゃあ、行ってきます」


「はい、いってらっしゃい」

 

 ただそれだけ。泣きながら抱き合い「愛している」なんて戦争映画、見たいなことはせずドライな返しだ。隣の和樹に視線を移し「頼んだぞ」と一言だけいう、何を頼むかは詳しく言わなかったが和樹には理解したように静かに頷く。


「これ!」

 

 少女はチョコを全部食べず半分残したらしい、そしてチョコを光成に渡す。


「ありがとう」


「また、また帰って来て。いっぱい遊んでね!」


「ああ」

 

 光成が返事をしてすぐ、「ピー」という音がホームに響きドアが閉まり、モーターの出力が上がり電車が発車する。速度が徐々に上がっていく、窓の向こうで少女と子供たちが手を振っている、それにこたえ光成も手を振り返す。

 

 ホームの端まで走って電車に並走した。子供たちと駅が見えなくなってから、光成だけしか乗客がいない列車の椅子に座る。そして少女からもらったチョコを小さく割って口へ放り込む。そういえばチョコは久しぶりに食べたな、と思った。アメリカ人である父親が好きそうで、日本人にはくど過ぎるチョコを頬張った。


小修正 11/14 11/29 12/1 3/5

中修正 12/8 1/17 1/27 4/22 9/13

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