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〈四話〉処置

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「無人機から映像を受信、スクリーンに表示します」


 壁の大型スクリーンに尖閣島から上がった海保所属の無人偵察機RQ-5Aから送られてきた映像が流れる。上空だけではなく巡視船から送られて来ている映像もある。また他のモニターには映像ではなく日本地図が表示されており、巡視船や護衛艦がどの位置にいるかが表示されている。


 首相官邸地下にある指令室には関係閣僚が密かに緊急招集された。


「我が国のではないのですか?」


「該当する帆船は存在しません」


 古賀総理の質問に斜め向かいの座る老人が答えた。


 二〇一八年初頭、内閣府内にある部署が新設された。その名は「日本国総合情報管理庁(情報庁)」。


 日本人は昔から諜報インテリジェンスに対してなぜか悪い目で見る傾向が強い。諜報機関と聞いただけで国を裏から操っているとすぐに考える。戦前、軍上層部や政治家の情報管理は大変甘かった。有能な諜報機関が重大な情報を取ってきてもそれを役立てず出さないでもいい犠牲を多く払った場面もいくつもある。


 戦後も同様に情報管理が甘く、果てには「スパイ天国」なんて言葉すら生まれる始末だ。戦後の情報機関も設立や活動は国内外からの妨害によって設立できないか、できたとしても形骸化していた。しかし情報庁だけは違う。


 創設理由には当時の朝鮮半島強いてはアジア情勢と米国が大きく関係している。米国の大統領選で、政治経験のない企業家が当選したのを期に世界はアメリカに大いに振り回された。日本も例に漏れない。


 中でも目立ったのは「最後の冷戦」ともいわれていた米国と北朝鮮の関係の見直しであった。


 当事者である日本や韓国を抜きに北朝鮮と融和姿勢を取ったのである。さらに電撃的に数十年ぶりとなる米朝首脳会談する程に。表面所両国は一応穏やかに話し合いで解決しているように見えたが、裏で米国は日韓に対してある厳しい注文を付けた。


 その注文とは「ノン・アメリカン・ミリタリー」つまり米軍抜きでの軍事行動だった。


 北朝鮮から攻撃を受けたとしても米軍は動かずに傍観して旗色が悪くなったら参戦する、と非公式に日韓に伝えたのだ。当然だがこれに日韓政府は呆然とした、これまで米国が動かないかも知れない、という漠然とした雰囲気こそあったがこうもハッキリと告げられたのだから。


 昔から自衛隊は単体では戦えないことは周知の事実だが、韓国軍もまた同様であった。首都であるソウルは北朝鮮の国境から僅か四十キロ地点にあり、戦争が再開せれれば日を跨がずにソウルは陥落する。


 米軍抜きでも韓国軍は北朝鮮には勝てるが、大きなダメージを受けるのは火を見るよりも明らかだ。米国が動かないと宣言したのは北朝鮮を恐れているのではなく、背後にいる中国やロシアの存在だった。

 

 平時下では中国とロシアは()()は味方ではあるが、一旦戦争に突入すれば敵に寝返る可能性が高い。ロシアの場合、北朝鮮とは敵対するのは変わりないが北朝鮮へ侵攻しそのまま自国領へ取り入れかねない。


 中国に至っては米国が北朝鮮との戦争で疲弊すれば米国に宣戦布告し米中戦争へ、さらに第三次世界大戦にも突入する可能性が極めて高い。そのため米国には北朝鮮との戦争は百害あって一利なしなのだ。


 それこそ同盟を破棄してでも中国との戦争は回避したい、というのが本音だった。日本は軍備増強と新大統領のご機嫌取りのためにこれまで以上に米国製兵器を大量に買った。そして何よりも急務だったのが国内の北朝鮮等の工作員排除だった。


 国内には数えきれない程の工作員がおり、いざ戦争が始まれば公共機関や自衛隊基地へ攻撃してくるのは明らかだ。また現実だけではなく仮想空間、つまりサイバー攻撃にも対策する必要があった。


 何よりこれまでバラバラだった情報管理を一本化するのも重要だった。米国の中央情報局(CIA)のような諜報機関の創設が急務となった。そこで各省庁の諜報機関を解体・吸収して出来上がったのが情報庁という訳だ。


 当然、情報庁の創設時に政界関係なく荒れに荒れた。


 情報庁設置と権力集中を嫌った政治家や警察幹部はこれを潰そうとしたが、片っ端からなぜか汚職や不正の情報がメディアにリークされ失脚し消えた。それでもなお多くが潰そうとしたが、その殆どがまるでスパイ映画のように事故死や行方不明となる。


 結果情報庁は予定通りに設置された。そして初代情報庁長官として就任したのが今年で九五歳になる躑躅森一清(つつじもりいっせい)だ。一四の時に年を誤魔化して陸軍に入隊し沖縄戦線に参加していた最後の戦争従事者だ。肉体こそ衰えているが頭の方は()()()おらず、むしろ誰よりも頭が切れる。


 若者と同じ位に柔軟性を持っており、二十・三十代などの若手議員と一緒に勉強会に出席する程だ。そのため若手議員からは先生と呼ばれる一方、古参議員たちからは”最後の日本兵”と恐れられている。普段は寡黙な老人だが時折日本刀のように鋭い目を見せる。


 この情報庁だが政治家に限らず国民からも忌み嫌われている。その理由は情報庁の権限にある。情報庁には警察と同等かそれ以上の警察権を持っているからだ。情報漏洩や隠匿を理由に多くの人間を拘束・逮捕し、お約束ともいうべき暗殺をも行ったという話も幾つもある。


 前政権下で行われた事件や事故、テロ、餓死者延べ一千万人の犠牲者にも関与したとも囁かれていた。一清長官を含む情報庁職員も前政権と一緒に裁判にかけられた。


 しかし裁判の結果は情報庁は幾つかの法令違反こそしていたものの、関与したとされる事件や事故に付いては誰一人として()()関係ないとされ、降格や罰金等はあったが全員に無罪判決が下された。


 またこれだけに限らず情報庁は事件・事故の関係性を疑われた際、一貫して否定するのではなく決まって「ノーコメント」で通している。そのため政治家や国民関係なく嫌われゲシュタポやKGB、特攻警察といったあだ名で呼ばれることもしばしば。


「ではやはり、大陸からの船なのでしょうか?」


「現時点で確証はできませんが、かなりの確率で大陸からの船と見て間違いないかと」


「全くどうしてこうも厄介ごとが起こるんだ」


 その答えに古賀総理は顔を振りかぶりながらため息をついた。


「総理、不審船はこのままだとどこかの島に座礁、本土に到達する可能性も捨てきれません」


「あれが?」


「現在進行形で不審船は我が国の領海へ侵入しています。本土に近づく前に海上で()()()()()べきです」


「それは海上保安庁が?」

 

「いえ、海保は海保でも特殊警備隊(SST)が行います」

 

 古賀総理は指令室を見渡す。が、他の提案をする人間はいない。少しワザとらしい息してから決断を下す。

 

「我が国の領海を航行している不審船に対して適切な()()を実行してください」


「ご決断、感謝します」





小修正 9/30 10/2 11/28 1/12

中修正 2/7 2/21 2/22 3/14 4/5 4/19 5/1 5/3 6/3 6/10 8/2 4/11

大修正 5/3 6/2

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